第11話 再び遺跡へ
ガレンとの面談を終え、俺は数日かけて準備を整えた。第十二層の遺跡へ再び向かうための装備と、覚醒した時空魔法をある程度使いこなせるようにするための調整だ。
「《保管》の中に、必要な道具は全部入れてある」
これまで荷物持ちとして集めてきた知識が、今は何よりも役立っていた。どの道具をどう使うか、何を優先して持ち運ぶか――それを誰よりも知っているのは、自分自身だった。
ギルドを出発する日、見送りに来たのはガレン一人だった。
「気をつけてくれ。アーシェルの遺跡については、まだ何が起こるか分からない」
「分かっています。何かあれば、すぐに連絡します」
「ああ、頼んだ」
第十二層へ向かう道中、以前とは違う感覚があった。あの時は、仲間に荷物持ちとして連れられているだけの存在だった。今は、自分の意志で、自分の力で進んでいる。
「繋がれ」
座標点を使い、これまで歩いた道筋を一気に短縮する。以前なら何時間もかかった距離が、今はわずかな時間で済んでしまう。
「便利すぎるな、これ」
第十二層に到着すると、霧の濃さは以前と変わらなかった。だが、不思議と恐怖は感じなかった。あの遺跡の場所は、もう座標として頭の中に刻まれている。
「繋がれ」
一瞬で、遺跡の入口に到着した。古びた石造りの通路が、静かに俺を迎え入れる。
「また来たぞ」
通路を進み、台座のある空間に出る。結晶は、以前と変わらず静かに浮いていた。だが、何かが違う。以前ほどの強い気配を感じない。
「……アーシェル様?」
声をかけてみたが、返事はなかった。結晶はただ淡く光るだけで、何の反応も示さない。
「眠っているのか、それとも――」
近づいて、結晶に触れてみる。すると、頭の中に映像のようなものが流れ込んできた。
声ではなく、記憶のようなものだった。古い時代――おそらく数百年前――の光景。巨大な災害から国を守るため、一人の魔法使いが時空の力を使い、自らの命と引き換えに何かを封じている場面だった。
「これは……アーシェル様の、最後の記憶?」
映像が途切れ、結晶の光が一際強くなる。同時に、台座の周囲に新しい文字が浮かび上がった。今度は、はっきりと意味が分かる言葉だった。
『継承者へ。我が力を受け継ぐ者は、いずれ我が封じたものと向き合うことになる』
「封じたもの……」
『時空の歪みより生まれし、災厄。我が力の全てをもって封じたが、完全に消し去ることはできなかった』
胸の奥が、ざわつくのを感じた。ガレンが言っていた「時空そのものと向き合う運命」――その意味が、ようやく見えてきた気がした。
『そなたが力を引き継いだことで、封印は薄れ始めている。いずれ、向き合わねばならぬ時が来るだろう』
「待ってくれ、その災厄というのは――」
文字が消えていく。結晶の光も、徐々に弱まっていった。
「……答えてくれよ」
呼びかけても、もう反応はなかった。静寂だけが、遺跡の空間を包んでいた。
俺はしばらく、その場に立ち尽くしていた。覚醒した力の先に、まだ見えない大きな何かが待っている。荷物持ちだった頃には想像もできなかった運命が、今、自分の前に広がろうとしていた。
「……進むしかない、か」
結晶に一礼し、俺は遺跡の出口へ向かって歩き出した。第十二層の奥、まだ見たことのない景色と、まだ知らない真実が、その先に待っている。
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