第13話 ガレンへの報告
ギルドに駆け込むと、受付の職員がすぐにガレンを呼びに行ってくれた。応接室で待つ間、頭の中では亀裂の光景が何度も繰り返されていた。
「ロウ殿、何かあったか」
ガレンが急いだ様子で入ってくる。普段の落ち着いた態度とは違う、緊張した表情だった。
「遺跡で、アーシェル様の記憶を見ました。それと――封じられていたものが、外に出ようとしています」
「……詳しく聞かせてくれ」
俺は遺跡で見た映像のこと、結晶から聞いた言葉、そして地面に走った亀裂のことを、できるだけ詳細に説明した。ガレンは黙って聞いていたが、話が進むにつれ、表情が険しくなっていく。
「亀裂、か……」
「ガレンさんは、何か知っているんですか」
ガレンは少し考えるように沈黙し、ゆっくりと口を開いた。
「ギルドには、古い記録が残っている。数百年前、アーシェル殿が時空の歪みから生まれた『災厄』を封じたという伝承だ。だが、それが具体的に何なのか、詳細はほとんど分かっていない」
「俺が力を引き継いだことで、封印が薄れている、と言われました」
「……つまり、君の覚醒が、その封印に影響を与えているということか」
「はい。少なくとも、結晶はそう言っていました」
ガレンは深く息を吐き、椅子に座り直した。
「これは、一支部で対応できる話ではないかもしれない。本部に報告し、専門の調査隊を編成する必要があるだろう」
「俺は、どうすればいいですか」
「君には、引き続き協力してほしい。アーシェル殿の力を引き継いでいる以上、君が鍵になる可能性が高い」
部屋に重い沈黙が落ちた。荷物持ちだった頃の自分には、想像もできない規模の話になっている。
「一つ、聞いてもいいですか」
「何だ」
「もし、その災厄が完全に解放されたら、どうなるんですか」
ガレンは少し言葉を選ぶように、答えた。
「分からない。だが、数百年前、アーシェル殿が命をかけて封じたものだ。簡単な相手ではないだろう」
「命をかけて……」
アーシェルの最後の記憶――自らの命と引き換えに何かを封じる場面が、再び頭に浮かぶ。
「俺も、同じ覚悟が必要になるかもしれない、ということですか」
「まだそこまで決まったわけではない。だが、可能性としては、否定できない」
ガレンの言葉が、胸の奥に重く沈んでいく。荷物持ちとして見下されていた頃の自分には、考えもしなかった運命だった。だが、もう逃げることはできない。アーシェルの力を引き継いだ以上、向き合う責任があるような気がした。
「分かりました。協力します」
「ありがとう、ロウ殿。本部への報告と調査隊の編成には、時間がかかる。その間、君には第十二層の監視を任せたい。亀裂の状況に変化があれば、すぐに報告してほしい」
「了解です」
部屋を出る頃には、外はすでに夜になっていた。街の明かりが、いつもより遠く感じられる。
「アーシェル様が命をかけて封じたもの、か」
自分が引き継いだ力の重さを、改めて実感する。これまでは、自分自身が見返すことだけを考えていた。だが、これからは、もっと大きなものに向き合う必要があるのかもしれない。
「……やるしかない」
夜空を見上げ、俺は静かに決意を固めた。第十二層の亀裂が、これからどう動いていくのか――まだ誰にも分からない未来が、確実に近づいていた。
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