第8話 討伐報告
ギルド職員に案内され、俺は応接室のような場所に通された。普段、荷物持ちが入ることのない部屋だ。革張りの椅子に座るだけで、どこか落ち着かない気分になる。
しばらくして、ギルド職員とは別に、もう一人の人物が部屋に入ってきた。年配の男性で、襟元に上級職員を示す紋章が付いている。
「失礼する。私はこの支部のギルド長を務めている、ガレンだ」
ギルド長――支部の最高責任者が直接出てくるとは思っていなかった。危険度Aの討伐報告というのは、それだけの重みがあるということなのだろう。
「先程の報告について、確認させてほしい。《深層喰らい》を、単独で討伐したというのは本当か」
「本当です。証拠もあります」
俺は《保管》を発動し、テーブルの上に巨大な牙を取り出した。職員が驚いた様子で身を引く。
「これだけでなく……まだ何かあるのか?」
ガレンの視線が鋭くなる。何かを察しているような目だった。
「巨体も、丸ごと収めてあります」
「丸ごと……?」発した。
部屋の空気が一瞬、固まった。ガレンは少し言葉を選ぶように沈黙し、改めて口を開いた。
「君は、確か――ダルトのパーティに所属する、荷物持ちだったはずだな」
「はい。ですが、たった今、パーティを抜けました」
「理由を聞いても?」
「重傷を負った俺を置いて、パーティが撤退したからです。その後、覚醒した魔法で討伐し、ここまで一人で戻りました」
ガレンは黙って俺の話を聞いていた。表情からは何を考えているか読み取れない。
「……ダルトたちのパーティからは、《深層喰らい》との接触で荷物持ちが死亡したと報告を受けている」
「死亡、と」
思わず声が低くなる。撤退するだけでなく、嘘の報告までしていたとは思っていなかった。
「事実と異なるようだな。詳細な事情聴取が必要になる。君にも、改めて話を聞かせてもらいたい」
「構いません」
ガレンは少し間を置いて、こちらを見据えた。
「ひとつ、確認したい。君の魔法は、本来どういう系統のものだ? 荷物持ちが単独で危険度Aを討伐するなど、通常ではあり得ない」
「時空魔法です。これまでは《保管》しか使えませんでしたが、今日、覚醒しました」
「時空魔法、か……」
ガレンの表情がわずかに変わった。何か思い当たることがあるような反応だった。
「時空魔法の使い手は、この国でも数えるほどしかいない。それも、覚醒前と覚醒後でこれほど差が出るとは……」
「何か知っているんですか?」
「いや……今は、君の討伐報告を正式に処理することが先だ。詳しい話は、後日改めて」
ガレンは話を切るように立ち上がった。何かを隠しているような、含みのある態度だった。
「討伐報酬と、ダルトたちの件については、追って連絡する。今日はゆっくり休んでくれ」
「分かりました」
部屋を出ながら、俺は先程のガレンの表情が引っかかっていた。時空魔法について、何か知っている――そんな気がしてならなかった。
ギルドを出ると、夕暮れの街が広がっていた。今日一日で、あまりにも多くのことが変わった。荷物持ちとして見下されていた自分が、今は一人の冒険者として認められようとしている。
「これから、どうなるんだろうな」
不安はあったが、それ以上に、これからの可能性に胸が高鳴っていた。
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