第6話 真の力
視界を覆う白い光の中、俺は自分の体が変化していくのを感じていた。痛みはない。ただ、体の奥――魔力の流れる場所そのものが、組み替えられていくような奇妙な感覚だった。
『欠片であった力が、本来の形を取り戻す』
頭の中に響く声が、静かに告げる。
「本来の形……?」
『そなたが使っていたのは、空間の極小部分を切り取る力――いわば、時空魔法の入口にすぎぬ。本来、時空魔法とは「繋ぐ」力だ』
「繋ぐ……」
『今この場所と、そなたが既に触れた場所。離れた地点と地点。今と、わずかに先の時。それらを繋ぎ、引き寄せ、押し出す』
光が収まっていくと、視界に変化が見えた。これまで浮かんでいた小さな座標点――あの頼りない光が、今は明らかに密度を増し、いくつもの線で繋がり合っている。まるで、見えない地図が広がっているようだった。
「これが……時空魔法、本来の姿」
『《保管》という力も、本質は同じ。今いる場所と、異空間とを繋いでいたにすぎぬ。そなたは知らぬ間に、最も基礎的な「繋ぎ」を、長きにわたって磨いていたのだ』
その言葉に、胸の奥が熱くなった。荷物持ちとして馬鹿にされ続けた日々――あの何の意味もないと思われていた作業が、実は力の土台になっていたという。
「俺の《保管》は、無駄じゃなかったのか」
『無駄ではない。むしろ、最も難しい基礎を、誰よりも積んできた』
結晶の光が弱まっていく。声の調子も、どこか満足したような響きを帯びていた。
『目覚めは終わった。あとは、そなた自身が積み重ねるしかない』
「待ってくれ、あなたは……」
『また会うこともあるだろう。今は、進め』
光が完全に収まり、結晶は静かに台座に沈んでいった。周囲の文字も消え、元の静かな遺跡の空間に戻る。
俺はしばらく、その場に立ち尽くしていた。体の中に、確かに新しい感覚がある。座標点同士が繋がり、まるで網のように広がっている。これまでの「動かす」「ズラす」だけの力とは、明らかに質が違っていた。
「試してみるか」
近くの座標点と、少し離れた座標点を意識して繋いでみる。
「繋がれ」
二つの点が線で結ばれ、空間がわずかに歪んだ。次の瞬間、その線をなぞるように、自分の体が一瞬で移動した。先程までの短距離移動とは比べ物にならない、滑らかで自然な感覚だった。
「これなら……」
可能性が大きく広がったのを感じる。荷物持ちとして見下されていた頃には、想像もできなかった力だ。
遺跡の出口に向かって歩き出す。第十二層の奥にまだ何があるのか分からない。だが、もう恐れる必要はない気がした。
「進むしかない、か」
霧の向こう、新たな道が静かに続いていた。
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