第5話 単独行
霧の奥へ進むほど、ダンジョンの空気が変わっていくのを感じた。湿った岩肌から漂う冷気が、肌に絡みつくように重くなる。第十二層――本来、ここまで深く潜るのは中級から上級の冒険者だけだ。荷物持ちの自分が独りで歩いていることが、今更ながら奇妙に思えた。
「……戻るか、進むか」
帰還用の魔法陣は、確か三層分ほど戻った場所にあったはずだ。だが、今の自分にどれほどの力があるのか、まだ把握できていない。せっかく覚醒した力を試すなら、ここで確かめておきたいという気持ちもあった。
「少しだけ、先を見てみよう」
歩き始めてすぐ、足元の感触が変わった。岩から、滑らかな石材のようなものに変わっている。
「ここは……遺跡か?」
霧が薄くなった先に、古びた石造りの通路が続いていた。壁には見たことのない文字が刻まれている。ダンジョンの第十二層にこんな構造物があるなど、ギルドの資料にも記載されていなかったはずだ。
「《深層喰らい》がここにいた理由……これと関係あるのか?」
通常、危険度Aの魔物が中層に出現することはない。何か特殊な要因があったはずだ。この遺跡が、その答えに繋がっているのかもしれない。
慎重に足を進める。覚醒したばかりの時空魔法はまだ不安定で、いつ反動が来るか分からない。油断はできない。
通路の先、開けた空間に出ると、中央に台座があった。その上に、淡く光る小さな結晶が浮いている。
「これは……」
近づこうとした瞬間、頭の奥に鋭い痛みが走った。これまでの頭痛とは違う、もっと深く、もっと冷たい感覚だった。
『――時空の血を引く者か』
声が響いた。どこからか、というより、頭の中に直接流れ込んでくるような声だった。
「な……誰だ!?」
結晶が一際強く光り、台座の周囲に文字のような光の筋が浮かび上がる。これまで見たことのない言語だが、なぜか意味が分かるような気がした。
『この遺跡は、時空魔法の祖が眠る場所。お前の中に流れる力――まだ目覚めて間もないようだな』
「祖……? 俺の魔法のことを、知っているのか」
『お前が覚醒させたのは、ほんの欠片にすぎぬ。本当の時空魔法は、もっと深い』
結晶の光が強くなり、俺の足元にも同じ光の筋が浮かび上がってきた。まるで、結晶と自分が繋がっているかのようだった。
「待ってくれ、説明を――」
『選ぶがいい。このまま欠片のままで生きるか、真の力に近づくか』
体の奥から、何かが引き出されるような感覚が走る。これまでの覚醒とは比べ物にならない、もっと大きな何かが動き出そうとしていた。
「……決まってる」
俺は迷わず答えた。
「真の力に、近づきたい」
結晶が強烈な光を放ち、視界が真っ白に染まっていく。
第十二層の奥、誰も知らない遺跡の中で、ロウの時空魔法は、新たな段階へと進もうとしていた。
第5話、お読みいただきありがとうございます!
ご感想やブックマーク、評価をいただけると非常に励みになります。次話もぜひよろしくお願いします!




