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捨てられた荷物持ちの俺、死にかけて覚醒する  作者: beck2026


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第4話 仲間との決別

俺は霧の中、しばらくその場に座り込んでいた。魔力の枯渇による頭痛は、時間と共にゆっくりと引いていく。完全に回復したわけではないが、動けないほどではなくなっていた。


「……行くか」


倒れた《深層喰らい》の巨体を見やる。危険度Aの魔物だ。素材は間違いなく高く売れる。これだけの大きさだ、解体せずに持ち運ぶのは普通なら不可能だろう。


「いや……俺なら、できるんじゃないか」


《保管》は本来、荷物を異空間にしまうための魔法だ。サイズの制限がどこまでなのか、これまで意識したことはなかった。だが今は、覚醒前とは明らかに力の質が違う。


「収まれ」


意識を集中し、魔物の巨体全体に《保管》を発動する。一瞬、強い抵抗を感じた。これまで運んでいたのは剣や薬瓶程度の小物ばかりだ。生物――しかも危険度Aの死体ともなれば、容量も負荷も比較にならない。


「ぐ……っ!」


頭の奥に鋭い痛みが走る。それでも意識を保ち、押し込むように力を流し続けた。やがて、巨体がゆっくりと光に包まれ、空間の裂け目へ吸い込まれていく。


数秒後、何も無くなった地面だけが残された。


「……入った」


驚きと同時に、どっと疲労が押し寄せてくる。容量としては問題なかったらしいが、消費した魔力は相当なものだった。荷物持ちとして培った《保管》の経験――収め方の感覚自体は、誰よりも積んできた自負がある。それが、今になって役に立っている。


「これなら、素材を丸ごと売れる……」


危険度Aの魔物を単体で討伐し、さらに無傷の状態で回収する。冒険者ギルドに持ち込めば、ちょっとした騒ぎになるだろう。


俺は立ち上がり、霧の奥――仲間たちが去った方向に目を向けた。追うべきか、追わないべきか。少し考えて、足はそちらへ向いた。文句を言いに行くわけではない。ただ、自分の足で歩いて、どんな顔をしているのか見てみたかった。


しばらく歩くと、声が聞こえてきた。


「だから言ったでしょ、ロウなんて連れてくるべきじゃなかったって」

「悪い悪い。でも荷物持ちがいないと運搬が面倒だったからな」


リーネとダルトだ。少し開けた場所で、戦闘の後処理をしているらしい。俺は気づかれないよう、霧に紛れて近づいた。


「まあ、死んだなら死んだでいいだろ。新しい荷物持ち雇えばいいし」

「そうね。安い奴ならいくらでもいるもの」


その言葉に、思っていたよりも心は揺れなかった。むしろ、どこか冷静に「ああ、やっぱりそうか」と確認するだけだった。覚醒した魔法が、自分の中の何かを変えたのかもしれない。


俺は霧の中から、静かに足を踏み出した。


「……まだ生きてるぞ」


二人が同時に振り返る。ダルトの顔が驚きに固まり、リーネは一瞬、目を見開いた後、すぐに表情を取り繕った。


「ロ、ロウ……? 無事だったのか!よかった――」

「無事じゃない。胸を貫かれて死にかけた。お前らが逃げた後にな」


ダルトの笑顔が引っかかったように固まる。リーネは何も言わず、視線を逸らした。


「……何か言うことはないのか」


沈黙が霧の中に落ちる。やがてダルトが、ばつが悪そうに口を開いた。


「いや、その……あの時は仕方なかったんだ。あのままじゃ全滅してたし……」


「替えがきく、って言ってたな。荷物持ちなんて」


ダルトの顔が分かりやすく青ざめた。聞かれていたとは思っていなかったのだろう。


「それは……」


「いい。説明はいらない」


俺は短く言って、二人の脇を通り過ぎようとした。怒りをぶつけるつもりはなかった。ただ、もう一緒に歩く理由がないというだけだった。


「ちょっと待ってよ!」


リーネが声を上げる。


「あなた、その傷……どうやって治したの? さっきまで死にかけてたはずよね」


鋭い指摘だった。荷物持ちでしかなかった俺が、致命傷を負った状態から平然と歩いている。違和感を覚えるのは当然だ。


「俺の魔法だ。お前らには関係ない」


「関係ないわけないでしょ! パーティの戦力なんだから――それと、《深層喰らい》はどうしたの? 倒したの? 素材は――」


「もうパーティじゃない。素材も、俺が回収した」


短く言い切ると、リーネが言葉を失った。ダルトも何も言えずに立ち尽くしている。


俺は二人に背を向け、霧の奥へ歩き出した。今までなら、こんな決断はできなかっただろう。荷物持ちとして縋るしかないと思い込んでいたから。


だが今は違う。胸の中に、確かな力が眠っている。


「これからは、俺一人で進む」


霧が俺の背中を包み込むように流れていく。後ろから、ダルトが何か叫んでいたが、もう耳には入らなかった。


第十二層の奥――まだ見たことのない景色が、その先に広がっているはずだった。

第4話、お読みいただきありがとうございます!


今回は、ロウが元パーティと再び顔を合わせる回でした。指摘いただいた通り、《深層喰らい》の巨体をそのまま《保管》で回収するという展開を加えています。荷物持ちとして培ってきた収納の経験が、覚醒後も地味に活きているという形にできたかなと思います。


ダルトとリーネとの対峙は、怒りをぶつけるような派手な展開ではなく、静かな決別という形にしました。ロウ自身、もう彼らに何かを期待していないからこそ、淡々と対応できているのだと思います。


次話では、ロウが独りでダンジョンの奥へ進んでいく中で、回収した素材や《深層喰らい》の討伐がどう扱われるのか、ギルドとの絡みも含めて描いていく予定です。


ご感想やブックマーク、いつも励みになります。次話もよろしくお願いします!

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