第48話 夜の野営
子犬探しの依頼を終えた数日後、俺たちは、次の目的地――別の村で報告されていた、小さな歪みの兆候を確認するため、移動することになった。
「ここからは、座標点を使った移動が、難しい距離ですね」セレンが、地図を確認しながら言った。「一度も訪れたことのない場所には、まだ、ロウ殿の力で直接飛ぶことができない」
「そうですね。歩いて、二日ほどかかりそうです」
「久しぶりの、野営ですね」ミラが、少し楽しそうに言った。
道中、日が落ちてきたところで、開けた草原に、野営の準備をすることになった。
「火を起こすのは、俺がやります」俺は、《保管》から、薪と道具を取り出した。
「我も、手伝う」凪が、興味深そうに、薪を運んできた。
「火というのは、どういうものなんだ」淡が、火がつくのを、じっと見つめながら尋ねた。
「暖かくて、明るい。それと、料理にも使えます」
「料理……」
「今日は、簡単なスープを、作りましょうか」ミラが言った。「ロウさん、食材、お願いできますか」
「分かりました」俺は、《保管》から、野菜や干し肉を取り出し、ミラに手渡した。
「ありがとうございます。これだけの量を、いつも持ち歩いているなんて、本当に便利ですね」
「荷物持ちだった頃の癖で、つい、色々詰め込んでしまうんです」
エリアスが、手際よく、野菜を切り始めた。
「私も、野営には慣れています。お手伝いしますよ」
「エリアスさん、料理も得意なんですね」
「護衛の仕事には、こういう生活技術も、必要ですから」
しばらくして、温かいスープが、鍋から立ち上る匂いを放っていた。
「いただきます」
皆で、それぞれの器に注いだスープを、口にする。
「美味しい……」凪が、目を輝かせながら言った。
「うむ」淡も、満足そうに頷いた。「これは、市場で食べた料理とは、違う美味しさがある」
「野営での料理は、なんだか、特別な味がしますよね」ミラが、笑顔で言った。
食事を終え、焚き火を囲みながら、皆で、しばらく語り合った。
「ロウ、そなたは、荷物持ちだった頃、どんな気持ちだったのだ」
淡の問いに、少し考えて答えた。
「正直、毎日が、辛かったです。誰からも、必要とされていない、と感じていました」
「だが、今は、違う」
「はい。今は、皆と一緒に、色々な経験ができることが、幸せだと思っています」
凪が、興味深そうに、火を見つめながら言った。
「我たちも、最初は、誰からも恐れられる存在だった。でも、今は、こうして、ロウやミラと一緒に、暖かい時間を、過ごせている」
「そうだな」淡が、静かに頷いた。「変わることができる、というのは、悪いことではないようだ」
エリアスが、焚き火に、新しい薪を加えながら言った。
「皆様の話を聞いていると、人と人――いや、存在と存在の繋がりというものが、本当に、大切なものだと、改めて感じます」
セレンが、星空を見上げながら、呟いた。
「こういう、何気ない時間が、これからの旅を、支えていくのかもしれないな」
夜空に、無数の星が、輝いていた。焚き火の暖かさと、皆の笑い声が、静かな草原に、穏やかに広がっていく。
「明日も、頑張りましょう」
ミラの言葉に、皆が、それぞれ頷いた。貴族連合という、まだ見えない脅威はあるものの、今は、こうした、仲間との温かい時間を、何よりも大切にしていきたいと、改めて感じる夜だった。
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