第46話 市場でのひと騒動
翌日、村の市場で、ちょっとした騒ぎが起きていた。
「泥棒だ! 誰か、捕まえてくれ!」
声がした方を見ると、小柄な男が、何かを抱えて、人混みを駆け抜けていく。
「あれは……」
「行きましょう、ロウさん!」
ミラが、先に駆け出した。俺も、すぐに後を追う。
「ロウ、我たちも、手伝う」淡が、凪と共に、続いた。
エリアスが、冷静に状況を見極めながら、声をかけた。
「皆様、慌てず。私が先に、追います」
泥棒は、市場の路地を、巧みに抜けていく。地理に詳しいのか、なかなか距離が縮まらない。
「ミラさん、時間を少し操作できますか」
「やってみます――遅れろ!」
ミラが、泥棒の周囲の空気に、わずかな遅延をかけた。完全に止めるほどではないが、足の動きが、少しだけ鈍くなる。
「今です!」
俺は、座標点を使い、泥棒の少し先の地点に、瞬間移動した。
「待て!」
泥棒が、驚いた表情で、急停止する。だが、その隙に、横道から、別の方向へ逃げようとした。
「そっちには、行かせない」
淡が、空間をわずかに歪ませ、その道を塞いだ。
「な、なんだこれ……!」
泥棒が、戸惑いながら、立ち止まる。そこに、エリアスが、素早く回り込んだ。
「もう、逃げ場はありませんよ」
剣を抜くこともなく、エリアスが、冷静に、泥棒を取り押さえた。
「は、はい……すみません、もう、しません……」
泥棒が、抱えていた荷物――小さな宝石箱を、地面に置いた。市場の店主らしい女性が、息を切らせて駆けつけてきた。
「ああ、よかった!これ、私の店の商品なんです!」
「お役に立てて、良かったです」
事態が収まると、周囲から、自然と拍手が起こった。
「すごいぞ、あの人たち!」
「噂の、時空魔法の冒険者だ!」
凪が、少し誇らしげな表情を見せた。
「我たちも、ちゃんと、役に立てたな」
「うむ」淡が、頷いた。「人を助けるというのは、悪くない気分だ」
ミラが、笑顔で言った。
「みんなで力を合わせれば、こういう小さな問題も、すぐに解決できますね」
エリアスが、感心したように言った。
「四人の連携、見事でした。これなら、もっと大きな脅威にも、対応できそうです」
店主の女性が、お礼として、果物をたくさん渡してくれた。
「これ、お礼に。お代はいりません!」
「ありがとうございます」
市場を歩きながら、皆で、果物を分け合った。
「今日は、戦いとは違う、こういう冒険も、楽しいですね」ミラが、果物を頬張りながら言った。
「そうだな」俺も、頷いた。「歪みを治すだけじゃなく、こういう、ちょっとした日常の出来事も、大切にしていきたい」
淡が、果物を、興味深そうに見つめた。
「これは、甘い……美味しい」
凪も、笑顔で、果物を口にした。
「我は……この味、好きだ」
市場の喧騒の中、五人は、ちょっとした冒険と、温かい時間を、共に過ごしていた。貴族連合という、まだ見えない脅威はあるものの、今は、こうした穏やかな日々を、大切にしていきたい――そんな気持ちが、皆の中に、静かに広がっていた。
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