第40話 謎の来訪者
凪が仲間に加わって数日、俺たちは西の地方の村に留まり、状況の整理を進めていた。村長への報告、セレンによる詳細な調査――やるべきことは、まだ多く残っている。
「これで、ひとまず、村の問題は解決ですね」ミラが、安堵したように言った。
「ああ。あとは、ガレンさんへの報告と、今後の対応を考える必要がある」
そんな中、村の入口に、見慣れない一団が到着したという報告が入った。
「ロウ様、ミラ様。お客様が、お見えです」
村長が、少し緊張した様子で、俺たちのもとへ駆けつけてきた。
「お客様、というのは」
「それが……ギルドの方ではなく、どこかの貴族の使者だと、名乗っております」
俺とセレンは、思わず顔を見合わせた。
「貴族の使者が、こんな辺境の村に、何の用だ」
村の広場に向かうと、立派な装飾の馬車が止まっていた。護衛らしい武装した者たちに囲まれ、優雅な服装の男が、こちらを見つめている。
「あなた方が、時空の歪みを扱う、調査隊の方々ですね」
男が、にこやかな笑みを浮かべながら、近づいてきた。
「俺はロウです。あなたは……」
「失礼。私は、東方貴族連合の使者、カイエンと申します」
セレンが、警戒した様子で、一歩前に出た。
「貴族連合が、なぜ、この場所に」
カイエンは、笑みを崩さずに答えた。
「実は、最近、各地で時空の歪みに関する現象が報告されており、我々も、独自に調査を進めておりました。そちらが、優れた成果を上げているという噂を聞き、ぜひ、お話を伺いたく」
「お話、というのは」
「単純なことです。我々も、歪みの問題に、関心を持っております。もし可能であれば、協力関係を築けないかと」
その言葉に、何か違和感を覚えた。協力、という言葉の裏に、別の意図が隠れているような気がした。
淡が、静かに、カイエンを見つめていた。
「……何か、嫌な気配がする」
凪も、淡の隣で、不安そうな表情を見せた。
「我にも、分かる。この人は……我たちのことを、道具のように見ている」
カイエンの表情が、わずかに変わった。一瞬だけ、目つきが鋭くなったように見えた。
「これは、驚いた。そちらの方々は、随分と、鋭い感覚をお持ちのようですね」
「何が、目的なんですか」俺は、はっきりと尋ねた。
カイエンは、少し間を置いて、改めて笑みを浮かべた。
「率直に言いましょう。我々は、時空の歪みから生まれる力――特に、独立した存在となったものに、大きな価値を見出しています」
「価値……?」
「アーシェル殿の力の欠片、そして、歪みから生まれた新しい存在。これらは、軍事的にも、研究対象としても、非常に貴重なものです」
セレンが、険しい表情で言った。
「淡殿や凪殿を、利用しようというのか」
「利用、という言葉は、少し強すぎますね」カイエンが、軽く笑った。「我々は、ただ、適切な管理と、研究の機会を提供したいだけです」
俺は、淡と凪の前に、自然と立つように移動した。
「彼らは、道具じゃない。一人の存在として、生きている」
カイエンの笑みが、わずかに、冷たいものに変わった。
「……それは、あくまで、あなた方の見解ですね。我々の国では、こういった存在を、もっと『有効活用』する方法があります」
「有効活用、というのは、具体的に何だ」セレンが、緊張した声で尋ねた。
「それは、また別の機会に、お話ししましょう」カイエンが、馬車に戻りかけながら言った。「今日は、ただ、ご挨拶に伺ったまでです。ですが――」
彼が、最後に、こちらを見て、はっきりと告げた。
「我々は、必要であれば、別の手段も検討する用意があります。それを、お忘れなく」
馬車が、村を出て、去っていく。残された俺たちには、重い緊張感が漂っていた。
「淡さん、凪さん、大丈夫ですか」ミラが、心配そうに声をかけた。
「……分からない」淡が、静かに答えた。「ただ、あの男の言葉には、明確な敵意のようなものを、感じた」
凪が、淡に寄り添うように、近づいた。
「我たちは……また、誰かに、狙われるのか」
俺は、二人を安心させるように、はっきりと言った。
「心配しなくていい。お前たちは、俺たちの仲間だ。誰にも、渡さない」
セレンが、険しい表情で、考え込んでいた。
「これは、すぐに、ガレン殿に報告する必要がある。貴族連合が、本格的に動き出しているなら、相応の対策が必要だ」
西の地方での新しい挑戦は、思いがけない方向へ、その展開を広げようとしていた。謎の貴族、カイエン――その存在が、これからの物語に、新たな緊張感をもたらそうとしていた。
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