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捨てられた荷物持ちの俺、死にかけて覚醒する  作者: beck2026


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第38話 西の歪み

村の外れに向かうにつれ、確かに、空気が変わっていくのを感じた。乾いていたはずの大地に、徐々に湿った霧が立ち始めている。


「これは……第十二層と、似たような気配ですね」ミラが、緊張した様子で言った。


「我にも、はっきりと感じる」淡が、足を止め、霧の方向を見つめた。「ただ……少し、違う」


「違う、というのは」


「第十二層の歪みは、もっと『苦しみ』に近い感覚だった。ここの気配は……もっと、『混乱』しているような印象がある」


セレンが、装置の反応を確認しながら、メモを取った。


「混乱、という表現は、興味深いな。歪みの性質が、場所によって異なる可能性がある」


霧の濃い場所まで進むと、地面に、小さな亀裂が見えてきた。第十二層のものよりも、規模はかなり小さいようだった。


「これが、報告にあった亀裂ですか」


「おそらく、そうだろう」セレンが、慎重に近づいた。「規模は小さいが、油断はできない」


亀裂に近づくと、頭の中に、何かの感覚が流れ込んできた。これまでの災厄のような、明確な「声」ではなく、もっと混沌とした、断片的な印象だった。


『……どこ……ここは、どこ……』


「これは……」俺は、思わず声を漏らした。


「ロウさんも、聞こえましたか」ミラが、驚いた様子で尋ねた。


「はい。何か、迷っているような感覚です」


淡が、亀裂に向かって、ゆっくりと近づいた。


「我にも、聞こえる。これは……まだ、はっきりとした意志を持っていない、初期の状態かもしれない」


「初期の状態、というのは」


「我が、生まれたばかりの頃も、同じような感覚だった。何が起きているのか、自分が何者なのか、何も分からない状態」


セレンが、興味深そうに、淡の言葉を記録した。


「つまり、ここの歪みは、第十二層のものよりも、若い、ということか」


「おそらく、そうだろう」


俺は、亀裂に向かって、慎重に声をかけてみた。


「聞こえるか? 俺たちは、お前を傷つけるためじゃなく、助けるために来た」


『……助ける……?』


声が、わずかに、はっきりとしてきた。


『……痛い……苦しい……』


「分かる。お前が感じている苦しみは、傷から生まれたものだ。その傷を、治すことができる」


『……治す……』


亀裂が、わずかに振動した。これまでの災厄のような強い抵抗ではなく、もっと弱々しい、戸惑うような反応だった。


「ミラさん、淡さん、やってみましょう」


「はい」


「分かった」


俺たちは、これまでの経験を活かし、亀裂に向けて、空間と時間の力を集中させた。


「繋がれ……傷に」


「遅れろ……傷の流れを」


亀裂の表面に、淡い光が広がっていく。これまでよりも、規模が小さいせいか、反応も、より早く現れた。


『……これは……』


声が、少しずつ、落ち着いていくのが分かった。


「お前は、何も悪いことをしていない。ただ、生まれた場所が、傷だった、というだけだ」


『……傷……我は……傷から、生まれた……』


「そうだ。でも、その傷を治せば、お前も、穏やかになれるはずだ」


亀裂が、徐々に、小さくなっていく。第十二層での経験よりも、明らかに早い進行だった。


「これなら……」セレンが、興奮した様子で言った。「規模が小さい分、対応も、早く済むかもしれない」


淡が、静かに、亀裂を見つめていた。


「この子も、我と同じように、新しい姿を、得られるだろうか」


俺は、淡の方を見て、頷いた。


「もし、望むなら、お前と同じように、仲間になれるかもしれない」


亀裂の光が、さらに穏やかになっていく。西の地方での新しい挑戦が、確かに、前進し始めていた。

お読みいただきありがとうございます!


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