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捨てられた荷物持ちの俺、死にかけて覚醒する  作者: beck2026


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第34話 淡という存在

淡が仲間に加わった翌日、俺たちは第十二層を出て、地上の街へ戻った。淡にとっては、初めて目にする「人の暮らす場所」だった。


「これが、街というものか……」


淡は、街の喧騒を、興味深そうに見渡していた。表情は、まだぎこちないが、確かに何かを感じ取っているようだった。


「驚くことばかりだろう」セレンが、隣を歩きながら言った。「君は、つい最近、独立した存在になったばかりだ。少しずつ、慣れていけばいい」


「ありがとう。だが、不思議な感覚だ。歪みであった頃は、ただ『在る』ことしか知らなかった。今は、見るもの、聞くもの、全てに、何か感じるものがある」


ミラが、優しく微笑んだ。


「それは、淡さんが、ちゃんと『生きている』ということだと思います」


「生きている……」


淡が、その言葉を、確かめるように繰り返した。


ギルドに到着すると、職員たちが、淡の存在に驚きを隠せない様子だった。事前にガレンから簡単な説明はされていたものの、実際に人型の存在を目にするのは、初めてのことだった。


「彼女が、淡殿か」ギルド長代理が、慎重な様子で確認した。


「はい。これまでの災厄――時空の歪みの残滓が、傷の縫合を経て、独立した存在になりました」


「ギルドとしても、前例のない事例だ。本部からの指示が来るまで、当面は、観察対象として扱うことになる」


淡は、その言葉に、少し不安そうな表情を見せた。


「観察対象……それは、危険な存在として、見られるということか」


ガレンが、安心させるように言った。


「心配しなくていい。君は、ロウ殿とミラ殿が保証している。危害を加える意図がないことは、十分に理解されている」


それでも、淡の表情には、わずかな緊張が残っていた。


宿に戻る道中、俺は淡に声をかけた。


「不安か」


「……正直、そうだ。我は、長い間、『恐れられる存在』として在ってきた。今、急に、違う形で生きろと言われても、戸惑いがある」


「分かる気がする」俺は、自分の経験を思い返しながら言った。「俺も、荷物持ちとして見下されていた頃から、急に力を認められるようになった時、同じような戸惑いがあった」


「そなたも……?」


「人は、簡単には変われない。でも、少しずつ、新しい自分に慣れていくしかないんだと思う」


淡が、少し考え込むように、沈黙した。


「……そなたたちと一緒にいれば、その『慣れていく』ことが、できるかもしれない」


ミラが、温かい笑顔で言った。


「もちろんです。私たちも、まだ完全には自分の力に慣れていません。一緒に、少しずつ進んでいきましょう」


宿に到着し、淡のための部屋も、急遽用意された。これまで「在る」ことしか知らなかった存在が、初めて「眠る」という経験をすることになる。


「眠るというのは、どういう感覚なんだろうか」


淡が、少し戸惑った様子で尋ねた。


「俺にも、上手く説明できないけど……目を閉じて、ゆっくり休めば、自然と分かると思う」


「そうか……試してみよう」


夜、それぞれの部屋に戻りながら、俺は、これからのことを考えていた。災厄として恐れられていた存在が、今、新しい仲間として、共に歩み始めている。荷物持ちだった頃には、想像もできなかった未来が、確実に広がっていた。


「淡さんと一緒に、これから、どんな冒険があるんでしょうか」


ミラの言葉が、廊下に静かに響いた。


「分からないけど――きっと、楽しみなことが、待っていると思います」


第十二層で始まった物語は、新しい仲間と共に、さらに広がっていく。荷物持ちだったロウの旅は、まだ、これからも続いていく。

お読みいただきありがとうございます!


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