第27話 文献調査
歪みの「元」についての情報を集めるため、ギルドの本部から、古い文献や記録が次々と取り寄せられた。臨時拠点の一室が、いつの間にか資料室のようになっていた。
「アーシェル殿の時代の記録は、思っていたより少ない」セレンが、積み上げられた古い書物を見ながら言った。「ほとんどが、伝承や口伝として伝わっているだけだ」
俺とミラも、簡単な読み書きができる範囲で、資料の整理を手伝っていた。荷物持ちとして、こういった地味な作業には慣れている。
「これ、見てください」
ミラが、一冊の古い記録を指し示した。劣化した紙に、かすれた文字が並んでいる。
「『時の傷』……という言葉が書かれています」
セレンが、急いでその記録を確認した。
「『時の傷』、か。これは初めて見る表現だな」
記録には、断片的な記述が続いていた。
『時の傷とは、空間の歪みが極限に達した際に生じる、現実の裂け目である。アーシェル殿の時代、その傷は完全には癒えなかったと伝えられている』
「歪みの『元』というのは、この『時の傷』のことかもしれませんね」
「可能性は高い」セレンが頷いた。「もう少し、詳しい記述を探そう」
調査を続けるうち、別の文献から、もう一つの重要な記述が見つかった。
『時の傷は、完全に消し去ることはできぬ。だが、適切な力をもって「縫う」ことで、安定させることが可能であるという』
「縫う……」
「これは、災厄を封じるという発想とは、違うアプローチですね」俺が呟いた。
セレンが、興味深そうに頷いた。
「災厄を抑え込むのではなく、傷そのものを修復する、という考え方か。これなら、根本的な解決に繋がる可能性がある」
「どうすれば、縫うことができるんですか」
文献をさらに調べていくと、もう一つの記述が見つかった。
『傷を縫うには、空間と時間、二つの力を同時に、同じ場所に集中させる必要がある。さらに、それを長く保ち続けるための、強い意志が求められる』
「空間と時間……俺とミラさんの力が、まさにそれですね」
「そうだな」セレンが、興奮した様子で資料をまとめた。「これまでの封印強化とは、アプローチが全く違う。傷を縫うことができれば、災厄そのものも、自然と力を失う可能性がある」
ガレンが、部屋に入ってきて、議論に加わった。
「進展があったようだな」
「歪みの『元』――『時の傷』を、修復する方法が見つかりそうです」セレンが説明した。「ただ、まだ具体的な手順は不明だ。さらに調査が必要になる」
ミラが、少し不安そうな表情で口を開いた。
「もし、傷を縫うことができたとしても、それには、どれくらいの力が必要なんでしょうか」
「正直、まだ分からない」セレンが答えた。「だが、君たちの力だけでは、まだ足りない可能性が高い。さらなる修練が必要になるだろう」
俺は、これまでの道のりを思い返した。荷物持ちだった頃から、覚醒、ミラとの出会い、そして今、歪みの根本的な解決方法に近づこうとしている。
「やるべきことが、見えてきましたね」
「はい」ミラが頷いた。「焦らず、一つずつ進めていきましょう」
セレンが、新たな資料を取り出した。
「次は、『傷を縫う』ための、具体的な力の使い方を探ろう。古い記録の中に、何かヒントがあるかもしれない」
資料室の灯りの下、調査は夜遅くまで続いた。荷物持ちだった頃には想像もできなかった、地道で、しかし確実に前進する作業――それが、今、自分たちの力になっていることを、改めて実感していた。
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