第26話 歪みの真実
地上への帰路、俺とミラはほとんど言葉を交わさなかった。祭壇で見た光景――歪みの「元」がまだ解消されていないという事実が、重く心にのしかかっていた。
ギルドに戻り、セレンとガレン、調査隊リーダーを前に、俺たちは見たものをできるだけ正確に説明した。
「……歪みの『元』が、まだ残っている、ということか」
セレンが、険しい表情で資料を見つめた。
「アーシェル殿は、歪みから生まれた災厄を封じることに成功した。だが、歪みそのものの解消には、至れなかった――そういうことだな」
「はい。最後の意志――祭壇の声は、そう言っていました」
ガレンが、深く息を吐いた。
「つまり、災厄を封じ込めるだけでは、根本的な解決にはならない。歪みが残っている限り、いつか同じことが繰り返される可能性がある、ということか」
「おそらく、そうです」
部屋に、重い沈黙が落ちた。これまで「災厄をどう抑えるか」という視点で考えていたが、問題の本質は、もっと根深いところにあるらしい。
「歪みの『元』というのは、具体的にどこにあるんですか」セレンが尋ねた。
「祭壇では、それ以上の情報は得られませんでした。ただ、ヒントのようなものは、感じました」
「ヒント、というのは」
「祭壇の記憶の中で、裂け目があった場所――それが、第十二層そのもの、あるいはその付近にあるような気がします」
調査隊リーダーが、地図を取り出した。
「つまり、亀裂のある場所自体が、歪みの『元』に近い、ということか」
「断定はできませんが、可能性はあると思います」
ミラが、不安そうに口を開いた。
「もし、歪みの元が、亀裂のすぐ近くにあるとしたら、災厄を抑えるだけでは、本当に意味がないということですよね」
「そうなる可能性が高い」セレンが頷いた。「だが、今すぐに答えを出せる話ではない。慎重に調査を進める必要がある」
ガレンが、改めて全員を見渡した。
「今後の方針として、まず三つのことを進めたい。一つ、亀裂周辺のさらなる調査。二つ、歪みの『元』についての文献調査。三つ、ロウ殿とミラ殿の力を、引き続き高めること」
「俺たちは、どうすればいいですか」
「祭壇で得た知識を踏まえ、もう一度、結晶や祭壇との対話を試みてほしい。何か、新しい情報が得られるかもしれない」
セレンが、少し心配そうな表情で俺たちを見た。
「無理はしないでくれ。今回見た記憶は、かなり重い内容だったはずだ」
「大丈夫です」俺は答えたが、内心、まだ整理がついていない部分もあった。荷物持ちだった頃の自分が、まさか国の根本的な危機に関わることになるとは、想像もしていなかった。
会議が終わり、俺とミラは、ギルドの外に出た。夕暮れの街が、いつもより少し遠く感じられる。
「ロウさん」ミラが、静かに口を開いた。「私たち、本当に、これを解決できるんでしょうか」
「正直、まだ分かりません。でも――」
少し考えて、続けた。
「荷物持ちだった頃の自分は、何の役にも立たないと思われていました。でも、今、こうして、大きな問題に向き合おうとしている。だったら、できることを、一つずつ積み重ねていくしかないと思います」
ミラが、少し安心したように笑った。
「ロウさんと一緒なら、なんとかなりそうな気がします」
「俺も、ミラさんがいるから、心強いです」
夕暮れの中、二人は並んで歩いた。歪みの真実――まだ全てが明らかになったわけではないが、確実に、物語は次の段階へと進んでいた。
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