第18話 セレンの帰還
セレンが調査に出てから、二週間が経っていた。その間、俺は変わらず第十二層への監視を続けながら、ガレンと共に状況の整理を進めていた。
ある日の夕方、ギルドに駆け込んできた使者が、セレンの帰還を知らせた。
「セレン様が、お戻りになりました!すぐにご報告があるとのことです」
ガレンと共に応接室へ向かうと、旅装のままのセレンが、疲れた様子で椅子に座っていた。
「セレン殿、お疲れさまでした。成果は――」
「見つけた」
セレンが短く言い、資料を取り出した。
「東の国境付近で、確かに時空魔法に似た力を使う人物を見つけた。本人と話もした」
「アーシェル殿の欠片を持っている、ということですか」
「断定はできないが、可能性は高い。本人は自覚していないようだったが、空間に関する独特な感覚を持っていた」
セレンが資料を広げる。そこには、若い女性の特徴が記されていた。
「名前は、ミラ。国境の村で、薬師をしている女性だ。本人は魔法使いとしての自覚はないが、薬の調合の際に、時間の経過を操るような不思議な現象を起こしていた」
「時間を操る……」
「正確には、薄い時間の遅延、といった程度のものだ。だが、これは時空魔法の素養がなければ、起こり得ない現象だ」
ガレンが頷いた。
「ロウ殿が荷物持ちだった頃の《保管》のように、本人が無自覚なまま、力の一端を使っていた、ということか」
「その可能性が高い」セレンが答える。「本人に、事情を説明し、協力を依頼してきた」
「来てくれるんですか」
「迷っていたようだが、最終的には頷いてくれた。数日後には、こちらに到着するはずだ」
少し緊張するような感覚があった。アーシェルの別の欠片を持つ者――自分と同じ系譜の力を持つ人物と、初めて会うことになる。
「セレン殿、もう一つ気になることがあります」
「何だ」
「災厄が、『アーシェルは独りで挑んだことが、限界の理由かもしれない』と言っていました。これは、複数の欠片を合わせることで、何か違う結果が出る可能性がある、ということですか」
セレンは少し考え込むように沈黙し、答えた。
「正直、確証はない。だが、アーシェル殿が複数の欠片を残したこと自体に、何か意図があったのかもしれない」
「意図、ですか」
「一人では足りない力を、複数人で補い合うこと。それを見越して、力を分けたのかもしれない」
部屋に、静かな緊張感が広がった。荷物持ちだった自分が、まさかこんな大きな計画の一部になるとは、改めて実感が薄かった。
「ミラさんが来たら、どう進めるんですか」
「まずは、力の相性を確認する。その後、可能であれば、共同で封印強化の試みを行う」
「俺は、何をすればいいですか」
「君は、引き続き第十二層の監視を頼みたい。それと、ミラ殿が到着したら、彼女に時空魔法について説明できるのは、おそらく君が最適だろう」
「俺が、ですか」
「本人が無自覚なまま力を持っていたという点で、君と似た立場にいる。同じ経験をした者の言葉は、きっと役に立つはずだ」
その言葉に、少し納得した。荷物持ちとして見下されていた経験すら、今では誰かの役に立つ材料になっている。
「分かりました。準備しておきます」
部屋を出て、夜の街を見渡す。数日後に来るミラという人物が、どんな存在なのか、まだ分からない。だが、確実に、状況が大きく動き始めていた。
「アーシェル様、これがあなたの意図、なんですかね」
夜空に向かって、静かに問いかける。答えは返ってこなかったが、不思議と、前に進む力が湧いてくるのを感じていた。
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