第16話 対応策
調査隊が亀裂の状況を確認し終えると、その日のうちに第十二層の入口付近に臨時の拠点が設営された。テントが並び、簡易の結界が張られる。本格的な対応策を検討するための、前線基地のような場所だった。
「現状を整理しよう」
セレンが地図のようなものを取り出し、テーブルに広げた。アーシェルの遺跡と亀裂の位置関係が、簡易的に記されている。
「封印が薄れている原因は、ロウ殿がアーシェル殿の力を引き継ぎ、覚醒させたことにある。これは、もう動かせない事実だ」
「俺が、力を覚醒させなければ……」
「いや、それは違う」
セレンが俺の言葉を遮るように言った。
「ロウ殿が覚醒しなければ、君自身がその場で死んでいた。それに、封印自体も、いずれ自然に薄れていく性質のものだったようだ。記録によれば、アーシェル殿の封印は『永続』ではなく、『時間を稼ぐ』ためのものだったらしい」
「時間を稼ぐ……」
「アーシェル殿は、おそらく完全に災厄を消し去る方法を見つけられなかった。だからこそ、後の世代に託すために、力を欠片として残した」
調査隊リーダーが、地図上の亀裂を指し示す。
「つまり、いずれ誰かが、この災厄に向き合う必要があった、ということか」
「そう考えるのが自然だろう。ロウ殿は、その役目を負うことになった、ということだ」
部屋の空気が、重くなる。荷物持ちだった頃には、まったく想像もできなかった運命の重さを、改めて実感した。
「対応策としては、二つの方向がある」セレンが続けた。「一つは、封印を強化し、再び災厄を押し込める方法。もう一つは――」
「完全に、消し去る方法」
「そうだ。ただし、後者は、アーシェル殿自身も成し得なかったことだ。簡単にできるとは思えない」
「封印の強化なら、可能性はあるんですか」
「ロウ殿の力が、アーシェル殿の系譜であることを考えれば、可能性はある。ただ、君一人の力では、おそらく足りないだろう」
「足りない、というのは」
「アーシェル殿は、自らの命と引き換えに封印を行った。同等の代償が必要になる可能性が高い」
その言葉に、部屋が静まり返った。命を引き換えにする――その重みが、改めて胸に迫ってくる。
「俺は……」
「今すぐ、決断を求めているわけではない」セレンが静かに言った。「まずは、可能な限り安全な方法を探る。封印強化のための儀式や道具、他の時空魔法の欠片を探すことも、選択肢の一つだ」
「他の欠片、ですか」
「アーシェル殿の力は、複数に分かれて散らばっている。もし、別の欠片を持つ者がいれば、力を合わせることで、君一人にかかる負担を減らせるかもしれない」
調査隊リーダーが頷いた。
「本部にも、欠片の所在について調査を依頼しよう。時間はかかるかもしれないが、可能性のある道は全て探るべきだ」
会議が終わり、俺はテントの外に出た。夜空に星が広がっている。荷物持ちだった頃には、こんな星空を見上げる余裕すらなかった。
「命を引き換えに、か」
アーシェルが下した決断の重さを、今、自分の身に置き換えて考える。怖くないわけではない。だが、逃げるという選択肢は、もう自分の中になかった。
「やれることを、やるしかない」
夜風が頬を撫でていく。第十二層の奥で眠る災厄と、これから向き合うための道筋が、少しずつ見え始めていた。
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