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998/1033

1537年。9月2週目。帳面合わせ。遊興費だけで1500万文www

九月二週目。

 姫路城。

「それでは、帳面合わせを始めます」

 いつものように。

 帳面が机の上へ積まれた。

 交易。

 鉱山。

 各地の市。

 八大都市。

 新しく増え続ける店。

 そして。

 本願寺へ出す寄進の分まで。

 今週必要になる銭を。

 すべて差し引いていく。

「最終的な利益は」

 帳面役が。

 数字をもう一度確認した。

「四億一千二百六十一万文でございます」

「はい」

 八郎が頷く。

「四億超えてるなら、まあええですね」

「相変わらず軽いですな」

 三郎が呆れる。

「先週五億超えてましたからね」

「感覚がおかしなっとるぞ」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ところで」

 夏姫が。

 八郎を見た。

「旅の方は?」

「……やっぱり聞きます?」

「もちろんでございます」

 大友家の三女。

 尼子家の姫。

 大内家の姫。

 全員が。

 こちらを見ている。

「今週は」

 八郎が小さな帳面を開く。

「合わせて二千万文です」

「また増えておりませんか?」

「増えてますね」

 普通の旅。

 宿。

 移動。

 食事。

 案内。

 こちらが。

「五百万文」

「では」

 夏姫の目が細くなる。

「残りは?」

「……千五百万文です」

「何の?」

「遊興です」

「……」

 また。

 女衆が黙った。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

「週に千五百万文も」

 大内家の姫が。

 信じられないように言う。

「その……すけべなことで稼いでおられるのでございますか?」

「いやいやいや」

 八郎が手を振る。

「すけべだけちゃいますよ」

「では何でございます?」

「お好み焼きでしょう」

 鉄板で焼く。

 上等な料理。

 福々焼き。

 肉饅頭。

 酒。

 宿。

 宴席への差し入れ。

 器。

「お座敷で見栄張るために買う分とかも入ってます」

「細かい内訳はどうでもよろしいのです」

「そうなん?」

「いつから八郎商会は、そのような商会になったのでございます?」

「でも」

 八郎は真顔になった。

「めちゃくちゃ儲かるんですよ」

「儲かれば何でもよいわけではございません」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ちゃうんですって」

 八郎は説明を始めた。

「食品開発としては、これ結構大事なんですよ」

「申してみてください」

「新しいもんって」

 最初から。

 大量には作れない。

 鉄板も要る。

 蒸し器も要る。

 器も要る。

 職人も育てる。

「せやから最初は」

 少量作って。

 高い値段でも買ってくれるところへ出す。

「利幅取れるところで設備代を回収するんです」

「それが遊郭だと?」

「今はそこが一番分かりやすいだけです」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 珍しい。

 高い。

 皆が持っていない。

 見栄を張れる。

「そこに銭出す人は強いんです」

 だが。

 それは。

 遊興だけではない。

「茶会でも同じでしょう?」

「茶会?」

「はい」

 珍しい茶器。

 上等な菓子。

 遠くから来た品。

「格式とか、特別感とか」

 そこに。

 高い銭を払う。

「そういう商いなら、うち結構強いですよ」

 丸八。

 新しい料理。

 器。

 旅先でしか買えないもの。

「最初高く売れて」

「はい」

「作る人増えて」

「はい」

「設備代取れて」

「はい」

「それから普通の人が買える値段へ下がっていく」

 三郎が頷く。

「理屈は分かる」

「でしょう?」

「七歳児から聞く話やないけどな」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「あと」

 八郎が。

 別の帳面を取り出した。

「旅札が結構動いてます」

「旅札?」

「前から配ってるやつです」

 買う者。

 貸し借りする者。

 商人が。

 客へ渡すこともある。

「裏に割引の印付けたりしてるんですよ」

「また増やしましたね?」

「飯安くなったら、もう一軒寄ろうかなってなるでしょう」

「なんじゃそりゃ」

 大友家の姫が。

 思わず笑った。

「どんどん商いの幅が広がって、何をしているのか分からなくなってきました」

「僕も全部は分かってないですよ」

「八郎様?」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「細かいところは任せてますから」

 旅担当。

 宿担当。

 料理担当。

 商人。

 各地の店。

「旅関係って」

 八郎は笑う。

「なんか皆、楽しそうなんですよ」

 これやったらどうや。

 あれ付けたらどうや。

 この町にも出そう。

 この飯も入れよう。

「好き勝手に案が出て」

「それで?」

「なんか噛み合ってるんでしょうね」

 結果。

 二千万文。

「……随分適当でございますね」

「儲かってる間はええでしょう」

「八郎様」

「いや」

 八郎は慌てて付け足す。

「あまりに行き過ぎたら止めますよ」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「採算度外視になった場合も?」

「止めます」

 少し考えて。

「多分」

「多分?」

「でもなあ」

 八郎は困ったように笑った。

「採算度外視で面白いことやっても、人集まるんですよ」

「それで別のところで銭を使う?」

「そうなんです」

 飯を安くする。

 人が来る。

 宿に泊まる。

 土産を買う。

 遊ぶ。

「結局どこで利益出てるんやって話になるんですよね」

「それを把握するための帳面でしょう」

「そうなんですよ」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「八郎家の勢いそのものが」

 三郎が言う。

「客を呼んどるところもあるんやろな」

「ありますね」

 安全。

 新しいもの。

 人の多さ。

 次々。

 町が変わっていく。

「面白そうやから行ってみよう、ってなってる気はします」

「だからといって」

 夏姫が言う。

「そんなところだけ、どんぶり勘定になさらないでくださいませ」

「どんぶりにもなりますよ」

「八郎様」

「どれだけ稼いでると思ってるんです?」

「そういう問題ではございません」

「はい」

・・・・・・・・・・・・・・・・・

 八郎は。

 積まれた帳面を見た。

「まあでも」

「はい?」

「一個だけは絶対守ってますよ」

「何でございます?」

「帳面には全部残す」

 何を売った。

 どれだけ値引いた。

 どこで使った。

 どれだけ戻った。

「失敗しても」

 八郎は言った。

「帳面残ってたら、次は直せますから」

 三郎が笑う。

「そこだけ急に真面目やな」

「そこ適当にしたら、本当にどんぶりになるでしょう」

 九月二週目。

 八郎家の利益。

 四億一千二百六十一万文。

 その中で。

 普通の旅が五百万文。

 そして。

 遊興関係だけで。

 千五百万文。

 姫君たちは。

 まだ。

 その数字に納得してはいなかった。

 ただ。

 丸八の商いが。

 もう八郎本人にも。

 全てを説明できないほど。

 広がっていることだけは。

 間違いなかった。

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