1537年9月1週目。喧嘩する理由を頂きました。
九月一週目。
本願寺が。
八郎家の傘へ入る方向を明確にしてから。
細川と三好の動きは。
早かった。
「境で揉め事が起きております」
「もうですか?」
「はい」
本願寺領へ入ろうとする者を止める。
荷を調べる。
通行を邪魔する。
小さな衝突を起こす。
さらに。
周辺へ兵を集め始めているという。
「本願寺が言うことを聞かぬなら」
細川・三好側では。
「石山の地をこちらで治めればよい」
そんな声まで。
出始めていた。
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当然。
本願寺から。
早馬が飛んだ。
姫路へ。
八郎のもとへ。
「助けを求められております」
「ほな行くしかないですね」
三郎が。
呆れた顔で八郎を見る。
「即答やな」
「傘入ってください言うて」
入ってもらった。
その直後に。
攻められている。
「ここで知らん顔したら、誰もうちの傘入ってくれへんでしょう」
「そらそうや」
周囲の者たちが。
顔を見合わせる。
「しかし細川も三好も」
一人が苦笑した。
「何も分かっておりませぬな」
「何がです?」
「こちらに喧嘩する理由を下さっております」
八郎も。
少しだけ笑った。
「それはありますね」
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播磨から。
摂津西部に展開していた兵。
周辺まで合わせて。
四万近い兵力。
「前へ出しましょう」
本願寺を守る。
その名目で。
軍勢を。
さらに摂津東側へ送る。
ただし。
問題は兵糧だった。
「四万近く動かすなら」
「飯要りますね」
「物凄い量になりますぞ」
「姫路から流してください」
米。
味噌。
塩。
干魚。
豆。
薪。
道具。
さらに。
「明石から魚も持って行きましょう」
「魚まで?」
「せっかく海近いんでしょう」
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蛸。
鯛。
干した魚。
それらも。
兵糧と一緒に東へ流す。
「丸八の飯も出しましょう」
「戦しに行くんちゃうんか」
「兵だけ食べさせるんです?」
八郎は首を傾げる。
「現地の人もおりますやん」
そして。
本願寺へ約束した。
十万貫の寄進。
それも。
順次。
持ち込むことになった。
「金出して」
「兵出して」
「飯屋まで出すんか」
「一回で済ませた方が楽でしょう」
三郎が。
大きくため息をついた。
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数日後。
石山周辺。
八郎家の兵が。
続々と到着する。
だが。
一緒に来たのは。
兵だけではなかった。
八郎商会の者。
飯炊き。
商人。
職人。
荷運び。
大量の物資。
「何でございます、これは」
本願寺の僧が。
目を丸くする。
「町作りです」
「……はい?」
「いや」
八郎側の者が笑う。
「どうせしばらくおりますから」
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兵には。
大量に炊いた飯。
汁。
干魚。
安く。
腹いっぱい食わせる。
一方。
商人。
旅人。
寺へ参る者には。
少し上等な飯を出す。
明石の蛸飯。
鯛飯。
焼いた鯛をほぐした。
だし湯漬け。
福々焼き。
お好み焼き。
丸八印の器まで並ぶ。
「ここでも木札使えますよ」
「木札?」
「旅行の割引札です」
以前。
一千五百万文を使って。
摂津や堺へばら撒いたもの。
「まだ持ってる人おりますでしょう」
「石山でも使えるので?」
「使ってください」
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人が集まる。
飯を食う。
銭が動く。
商人が店を出す。
八郎家の兵が。
周辺を警護する。
「……したたかですな」
本願寺の僧が。
呆れたように言った。
「何がです?」
「守りに来ただけかと思えば」
もう。
町へ溶け込み始めている。
「まあ」
八郎方の者が笑う。
「伊達に広いところ治めてませんから」
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八郎からは。
さらに伝言が来ていた。
「石山の港も」
「はい」
「もうちょっと整えたらどうです?」
本願寺。
寺内町。
港。
倉。
市。
「姫路みたいにとは言いませんけど」
寺を中心に。
栄える町にする。
「商人来てくれた方が、お寺にも銭入るでしょう」
本願寺側も。
その話には。
次第に乗り始める。
「なるほど」
「港を広げれば」
「西からの荷も入りますな」
八郎家と。
本願寺。
軍事だけではない。
商売でも。
結びつきが強まり始めていた。
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そして。
細川・三好側にとって。
もう一つ。
頭の痛い問題が起きていた。
「八郎家へ移りたい?」
「はい」
三好方の兵。
中には。
以前。
八郎家の捕虜になった者までいた。
「飯、旨かったんです」
「そこか」
「銭も悪うなかったです」
「捕虜やったんやろ?」
「捕虜でも腹いっぱい食わせてもらいました」
そして。
今。
八郎領では。
兵。
荷運び。
職人。
船乗り。
仕事がある。
「寝返ったら」
「家族も一緒に面倒見てもらえます?」
八郎方の答えは。
単純だった。
「働くなら全部面倒見ますよ」
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そうなると。
一人。
二人。
家族ごと。
移ってくる。
「嫁と子も連れてきました」
「住むところは?」
「用意します」
「仕事は?」
「あります」
以前。
敵だった兵が。
今度は。
八郎家の兵になり。
あるいは。
町の働き手になる。
「……なんでこんな簡単に人が流れる」
三好方では。
頭を抱える者が増えた。
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細川・三好勢は兵を出した。
八郎家はさらに兵を出した。
細川・三好勢は嫌がらせをした。
八郎商会が。飯屋を出した。
細川・三好勢は人を締めようとした。
人は西へ移った。
「何をしても」
細川方の者が。
苦々しく呟。
「向こうの商売になるではないか」
九月一週目。
本願寺を脅して。
八郎家を止める。
そのはずだった。
だが。
結果として。
八郎家の四万近い軍勢と。
八郎商会と。
大量の飯と。
商人と。
移住者が。
石山のすぐそばまで。
堂々とやって来る理由を。
細川と三好は。
自分たちで。
与えてしまっていた。




