1537年。9月1週目。本願寺を訪れた三好・細川
九月一週目。
石山本願寺。
本願寺が。
八郎家の傘へ入る方向で話を進めている。
その知らせは。
ほどなく。
細川と三好の耳にも入った。
「……何?」
「本願寺が、八郎家へ?」
「左様でございます」
細川方の空気が。
一気に険しくなった。
「七歳の小僧に付くというのか」
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ほどなく。
細川・三好方から。
使者が石山へやってきた。
今回は。
ただの書状ではない。
直接。
話を聞くためだった。
「これは、どういうことでござる」
本願寺側の僧たちを前に。
使者が強い口調で言う。
「八郎家へ入るとの話、まことか」
「概ね、その方向でございます」
「なぜだ」
これまで。
細川側からも。
話は送っていた。
必要なら兵を貸す。
八郎家の東進を止めるため。
本願寺にも力を貸してほしい。
「それを承知の上で」
使者が眉をひそめる。
「あの七歳の小僧へ付くと?」
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本願寺側の僧が。
静かに答えた。
「七歳であるかどうかは、我らには大きな問題ではございませぬ」
「何?」
「今、勢いがあるのは八郎家でございましょう」
九州。
四国。
中国地方。
播磨。
そして。
摂津西部。
若狭へまで。
八郎家の影響は広がろうとしている。
「しかも」
僧は続ける。
「十万貫の寄進も受け入れていただきました」
使者の顔が変わった。
「十万貫?」
「左様でございます」
「本当に払うと?」
「即答でございました」
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「それだけではございませぬ」
八郎側から。
もう一つ。
頼みがあった。
「何を要求された」
「大工を学ばせてほしい、と」
「……大工?」
本願寺の寺院建築。
大きな堂。
門。
屋根。
木組み。
そこへ。
八郎領で育てている職人を入れ。
一緒に働かせてほしいという。
「十万貫を出して」
一人の僧が。
少し笑った。
「なお、こちらから技を学ばせてほしいと頭を下げてこられた」
「……」
「我らも」
正直。
十万貫をそのまま飲むとは思っていなかった。
もっと値切る。
条件を変える。
そうなると思っていた。
「ところが」
「即答」
「左様です」
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「器が違う、と?」
使者が。
少し皮肉めいて言った。
本願寺側は。
すぐには答えなかった。
「少なくとも」
年長の僧が言う。
「我らは、そう感じました」
銭を出す。
寺領も守る。
信仰も認める。
その代わり。
技術を学ばせてほしい。
「こちらが思っていた交渉とは」
「随分違いましたな」
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使者の顔が。
さらに険しくなる。
「では」
「はい」
「本願寺は細川、三好と対峙するつもりか」
その場の空気が。
少し冷えた。
「それは」
本願寺側の僧が。
ゆっくり言う。
「脅しでございますかな?」
「脅しではない」
「では、ただのお尋ねとして承りましょう」
僧は続けた。
「我らから戦を仕掛けるつもりはございませぬ」
「しかし」
「はい」
「こちらの領分を犯すようなことがあれば?」
「その時は」
僧は。
淡々と言った。
「八郎家へ相談いたしましょう」
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「八郎家に?」
「我らが傘へ入るのであれば」
当然。
「守っていただく話になるでしょう」
「兵まで出させる気か」
「必要であれば」
使者は。
黙った。
本願寺側も。
引かなかった。
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「そもそも」
一人の僧が言う。
「三好殿は、八郎家とまだ戦の最中でございましょう」
「……」
「和平を結ばれたわけでも」
「停戦を結ばれたわけでもない」
にもかかわらず。
八郎家は。
捕虜を返している。
身代金すら。
まともに求めず。
「兵を返していただいているのでしょう?」
「それは……」
「我らも存じております」
だからこそ。
本願寺は。
分かった上で。
八郎家へ寄った。
「その点も含め」
「ご理解いただきたい」
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しばし。
沈黙。
使者は。
これ以上話しても。
ここで本願寺の決意を変えるのは難しいと悟った。
「……承知した」
声は。
決して穏やかではなかった。
「この話」
「細川様にも」
「三好様にも」
「そのまま伝える」
「お願いいたします」
そして。
使者は。
渋々。
石山を後にした。
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その背を見送り。
本願寺側の僧たちは。
しばらく黙っていた。
「どう思われる」
「難しいですな」
「細川も三好も」
「こちらを前線に置きたがっておる」
八郎家が来れば。
本願寺に止めさせる。
必要なら兵を貸す。
「それでは」
一人が苦笑する。
「結局、我らが一番前で血を流すことになる」
「それは困る」
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「しかし」
別の僧が。
小さく笑った。
「今のやり取りを見る限り」
「何です?」
「役者が違うようにも見えますな」
細川。
三好。
書状を送る。
兵を出すと言う。
止めろと言う。
一方。
八郎家は。
十万貫を即答。
寺領を守る。
信仰も認める。
その上で。
技を学ばせてほしいと。
頭を下げる。
「余裕がありますな」
「そら、あるでしょう」
僧の一人が。
少し笑った。
「九州、四国、中国をまとめておるのですぞ」
「播磨まで持っております」
「若狭も動いております」
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「京の権威だけで」
誰かが呟く。
「止まる相手ではないのでしょうな」
それは。
皆。
薄々感じていた。
もちろん。
本願寺とて。
八郎家を。
全面的に信用したわけではない。
傘へ入る。
守ってもらう。
その代わり。
こちらも。
何かを差し出すことになる。
「こちらの領分を」
「本当に守るのか」
「それは見続けねばなりませぬ」
信仰。
寺領。
門徒。
商い。
そこへ。
八郎家が。
どこまで口を出してくるのか。
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「しかし」
年長の僧が。
静かに言った。
「少なくとも」
「今のところ」
細川の盾になるよりは。
八郎家の傘へ入る方が。
「血は少なく済みそうですな」
誰も。
否定しなかった。
九月一週目。
本願寺は。
八郎家の傘へ。
また一歩。
深く入り始めた。
そして。
その選択に。
細川と三好は。
確かな苛立ちを。
募らせ始めていた。




