1537年。7月4週目。領内の山を全部調べましょう。
七月四週目。
姫路城。
帳面合わせも一段落したところで。
八郎は、もう一冊の帳面を机の上へ置いた。
「ちょっと別のこと始めたいんですけど」
三郎が嫌そうな顔をした。
「また増やすんか」
「増やすいうても、今回は探すだけですよ」
「何を?」
「山です」
「山?」
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八郎が最初に名前を出したのは。
石見銀山だった。
「石見って、銀めちゃめちゃ取れてるでしょう」
「そうやな」
「そこで銀掘ってる人らって、普通の人より銀の出そうな石とか山とか分かるんですよね?」
担当者が頷く。
「ある程度は分かるかと」
石の色。
岩の筋。
昔掘ったような跡。
川に流れ出た鉱石。
山の様子。
そうしたものを見ながら。
山師や鉱山の職人は、少しずつ当たりをつける。
「ほな、その人ら増やしましょう」
「増やす?」
「石見で若い人に教えてください」
銀を掘る者。
鉱石を選ぶ者。
精錬する者。
「技を知ってる人が十人しかおらんかったら、十か所しか見られへんでしょう」
百人に増やせば。
もっと広く探せる。
「石見だけ掘って終わりにする必要ないですからね」
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「予算、どれぐらいにされます?」
「週六百万文ぐらい」
「六百万」
三か月で。
およそ七千二百万文。
「丸めて七千万文、先に取っときましょうか」
「七千万文を、山探しに?」
「山だけちゃいますよ」
金。
銀。
銅。
そして。
「硫黄もですね」
「硫黄?」
「温泉とか、山から煙出てたり、妙な臭いするところあるでしょう」
そうした場所には。
硫黄が見つかることもある。
「火薬に使えるんでしょう?」
「左様でございます」
「ほな必要ですよね」
火薬があれば。
火矢に使える。
城攻めや防衛の際にも。
火を遠くへ飛ばしたり。
相手を驚かせたり。
燃やしたりする道具として使える。
「火矢って、火薬いっぱい使うでしょう」
「使えば使うほど要りますな」
「なら取れる場所だけでも知っといた方がええでしょう」
今すぐ大量に掘る必要はない。
どこに何があるか。
まず。
それを知る。
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「銅も大事ですよ」
八郎は一文銭を一枚、机に置いた。
「銅貨に使いますからね」
「銭まで作るつもりか?」
「そこまではまだ言うてませんよ」
三郎が笑う。
「まだ、な」
「でも銅が大量にあるって分かってたら、いろいろできますでしょう」
鍋。
器。
金具。
飾り。
そして銭。
金と銀だけが鉱山ではない。
「売れるもん出たら、とりあえず報告してください」
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探索する者にも。
当然、飯がいる。
寝る場所がいる。
道具もいる。
山へ入る道も必要になる。
「木切ることもあるでしょうし」
「ございますな」
「その木も捨てんでええでしょう」
材木として使えるなら。
町へ回す。
長屋。
店。
倉。
橋。
「山を間引くんも必要でしょうしね」
温泉があるなら。
小屋を作る。
湯を使えるようにする。
飯を売る。
人が来るようなら宿にする。
「鉱山見つからんかったら全部無駄、いう話でもないでしょう」
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「そういえば」
帳面役が、一枚の書付を出した。
「但馬について少々報告が来ております」
「何です?」
「昔から、山で銀らしきものが出るという話があるようでございます」
「どこ?」
「生野の辺りを含め、山名領であった山間部に、そのような古い話がいくつかあるようで」
八郎の目が動いた。
「それ、先に見てもらいましょう」
「但馬を重点的に?」
「はい」
石見から。
山を見ることのできる者を送る。
「ただし」
八郎は付け加えた。
「銀一粒出たから鉱山作る、とかはやめてくださいね」
「と申しますと?」
「量です」
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金が出る。
銀が出る。
銅が出る。
それだけでは商売にならない。
人を百人入れて。
飯を食わせ。
穴を掘って。
木を使って。
運んで。
精錬する。
「それで十万文しか儲からんかったら、やらん方がええでしょう」
「左様ですな」
「取れる量と、取るのにかかる銭、一緒に出してください」
まず試す。
少し掘る。
精錬する。
採算を見る。
「良かったら大きくします」
「悪ければ?」
「印だけつけて放っときましょう」
「随分あっさりですな」
「山は逃げませんから」
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三郎が帳面を見ながら言った。
「でも七千万文か」
「今なら出せるでしょう」
「まあな」
少し前までなら。
そんな銭があれば。
兵を集めた。
城を攻めた。
土地を取った。
だが今は違う。
播磨もかなり安定した。
但馬も八郎家の傘下。
丹後も少しずつ動いている。
「領地増やすだけじゃなくて」
八郎は地図を見た。
「今ある領地の中に何あるんか、そろそろ調べてもええと思うんですよ」
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銀山。
金山。
銅山。
硫黄。
木材。
温泉。
あるいは。
まだ誰も価値を知らない何か。
「うちの領地、端から端まで見てもらいましょう」
「また仕事が増えますな」
「三か月だけですよ」
「三か月で終わると思っておられるので?」
「……当たり出たら延長します」
「やはり」
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こうして。
七月四週目。
八郎家では。
七千万文の鉱物探索予算が新しく計上された。
石見で育てた鉱山の技を。
今度は領内全体へ広げる。
領土を取る。
町を作る。
商いを広げる。
そして今度は。
足元の山そのものを調べ始める。
「まあ」
八郎は但馬の山々が描かれた地図を見る。
「なんか一個ぐらい当たるでしょう」
三郎が笑った。
「その言い方で七千万文使う七歳がおるか」
「銀でも金でも銅でも硫黄でも、当たったら何年も使えますから」
領地の広がりが落ち着き始めた代わりに。
八郎家の足場は。
今度は地面の下へ。
少しずつ。
伸び始めようとしていた。




