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1537年。7月3週目。堺商人、姫路の遊び方を知る。

七月三週目。

 姫路城を落としてからというもの。

 八郎への挨拶は、ひっきりなしに続いていた。

 播磨の国人。

 寺社。

 商人。

 職人。

 そしてこの日は。

 堺から来た有力商人たちが、姫路へ入っていた。

「遠いところ、ありがとうございます」

「いえいえ。今の八郎様へ挨拶もせずにおる方が、商人として問題でございましょう」

「そんな大層な」

 八郎は笑った。

 茶が運ばれ。

 少し雑談した後。

 堺商人の一人が、三好の話を持ち出した。

「そういえば、三好方の捕虜の件ですが」

「ああ」

 八郎勢が捕らえた三好方の兵。

 その一部は。

 堺商人を間に入れ、順次送り返していた。

「皆様に間へ入ってもろて、助かってます」

「しかし」

 商人が薄く笑う。

「三好殿も、何ら手を打てておりませぬな」

「……言いますねえ」

「自分方の兵を、堺商人を介して敵方から返してもらっておるのでしょう?」

「まあ、そうなりますね」

「それで八郎様へ大きな返礼もなく、状況も変えられぬ」

 別の商人が鼻で笑った。

「格好がつきませぬな」

「僕から悪口言うたら角立ちますけど」

 八郎も笑う。

「皆さんが言う分には止めませんよ」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 ただ。

 堺商人たちが本当に興味を持っていたのは、三好ではなかった。

「それより、姫路でございます」

「はい?」

「本気でここを大きくなされるので?」

「そのつもりです」

 長屋。

 市。

 職人町。

 飾万津から続く道。

 倉。

 商人の屋敷。

 高級宿。

「博多とか鹿児島、熊本、高松なんかも似たように育ててます」

「土地を継げぬ者を集める、と聞きました」

「そうです」

 農家の次男三男。

 働き口のない若者。

 土地を持たない者。

「町まで来たら、とりあえず寝られて、飯が食えて、仕事探せるようにしたいんですよ」

 職人の弟子。

 商人見習い。

 人足。

 兵。

 船乗り。

 堺商人が感心したように頷いた。

「目の付けどころが違いますな」

「そうです?」

「土地がない者を余り者として見るのではなく、町の働き手にする」

「人おらんかったら町大きならんでしょう?」

 八郎には当然の話だった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 昼を過ぎ。

 八郎は言った。

「せっかくですから、ちょっと別のところも見ます?」

「まだ何かあるので?」

「有力なお客さん用に部屋作ってるんですよ」

 案内されたのは。

 城下でも少し上等な区画にある、大きめの屋敷だった。

「こちらです」

「ほう……」

 中へ入る。

 広い部屋。

 茶を飲む場所。

 商談用の机。

 高級な反物や工芸品を並べられる部屋。

「昼は商談です」

「昼は?」

 商人が聞き返した。

 八郎が笑った。

「まあ、夜になったら分かりますよ」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 そして夜。

 商人たちは驚くことになる。

「……外へ出なくてよいので?」

「はい」

 屋敷の奥。

 人目につきにくい通路から。

 遊郭側の女たちが案内されてくる。

「向こうへ遊びに行ったら、見られるでしょう?」

「それはまあ」

「大商人さんとか偉い人って、案外そこ気にするでしょう」

 一人が笑った。

「よく分かっておられる」

「兄上方見てたら分かりました」

「兄上方?」

「めちゃめちゃ遊びますから」

 商人たちが吹き出した。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「でも、これはありがたいですな」

 一人が周囲を見る。

「行かずとも来てもらえる」

「そうです」

「しかも、人目につかない」

「それ大事でしょう?」

「極めて」

 八郎は部屋の周囲を指した。

「障子、多いでしょう」

「確かに」

「分けられるようにしてるんです」

 一つの広間。

 だが障子を閉めれば。

 いくつもの小部屋になる。

 商談。

 飯。

 酒。

 休憩。

「八郎様」

「はい?」

「悪い人ですな」

「なんでですか」

「七歳でここまで考えますか」

「僕が遊ぶためちゃいますよ」

 八郎は慌てて否定した。

「できるだけバレんように遊ぶんが大事なんやなって、兄上方見て勉強しただけです」

「それを商売にするところが悪いのです」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「風呂もあります?」

「ありますし、沸かせますよ」

「屋敷の中で?」

「はい」

 湯を沸かす。

 飯を用意する。

 酒を持ってくる。

 泊まることもできる。

「これだけ大きい商談する人相手なら、風呂代なんか微々たるもんでしょう」

「確かに」

「場合によっては専属で人雇ってもええですしね」

 料理人。

 給仕。

 風呂を用意する者。

 案内役。

「全部ここで終わらせられるんです」

 堺商人たちは顔を見合わせた。

「八郎様」

「はい」

「商売、分かっておられますな」

「そうです?」

「客が何に銭を払うか、よう分かっておられる」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 翌朝。

 八郎は再び商人たちの前へ顔を出した。

「昨日どうでした?」

「大変、よろしゅうございました」

「それはよかった

「今後も使わせてもらえますかな」

「もちろん」

 八郎は少し考えて。

「これ、各拠点でもやりたいんですよね」

「博多などでも?」

「はい。山口、高松、姫路。道後なんかも相性ええでしょう」

「なるほど」

「ただ」

 八郎は声を少し落とした。

「問題あるんですよ」

「何でございます?」

「女衆に、どこまで怒られずに済むかです」

 一瞬。

 静かになった後。

 堺商人たちは大笑いした。

「そこは我らでは助言できませぬな」

「ですよねえ」

「夏姫様方に知られたら?」

「僕が遊んでるわけちゃいますって言います」

「通じますかな」

「多分、通じません」

・・・・・・・・・・・・・・・・

 姫路は。

 城を取っただけでは終わらなかった。

 人を集め。

 仕事を作り。

 商人を呼び。

 昼には大きな商談をし。

 夜には。

 人目を気にせず銭を落とせる場所まで作る。

 八郎自身は遊ばなくても。

 客が何を求めているのかは。

 兄たちを見て、少しずつ理解していた。

「まあ」

 八郎は笑った。

「怒られたら、その時考えましょう」

 堺商人たちは。

 また声を上げて笑った。

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