1537年。7月3週目。帳面合わせと家族仲良く連絡を密にしましょう。
七月三週目。
姫路城。
せっかく家族全員が集まったということで。
八郎は最後に、大量の帳面を机の上へ並べた。
「ほな、みんなおるうちに帳面合わせしましょうか」
「結局それやるんか」
三郎が苦笑する。
「大事でしょう」
「家族集めて最初に町見せて、最後が帳面か」
「終わったら解散でええですよ」
「解散?」
「それぞれのところに戻ってください」
八郎は笑った。
「戻るいうても、別に好きなところ行ってくれたらええんですけどね」
鹿児島。
熊本。
博多。
山口。
出雲。
高松。
湯築。
そして姫路。
「さすがにこれだけ町あったら、家族だけで全部見るんは無理です」
「そらそうや」
「でも、それぞれ行ったところで気づいたことあったら教えてください」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「それと」
八郎は家族を見回した。
「定期的には集まりましょう」
父が首をかしげる。
「また帳面合わせか?」
「それもありますけど」
八郎は少し笑った。
「うちら、家族仲ええのも強みやと思うんですよ」
領地が広がれば。
住む場所も離れていく。
仕事も違ってくる。
「会わんようになったら、そのうち何考えてるか分からんようになるでしょう」
今では家族も増えていた。
子供もいる。
「子供らも連れてきたらええんです」
母が笑う。
「まだこんな話聞いても分からへんやろ」
「そら分からんでしょうね」
「億の文がどうとか言われてもな」
「僕も七歳ですよ」
「お前を基準にするな」
皆が笑った。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「では数字でございます」
帳面役が口を開く。
今月。
各地を動かすために用意し、実際に使った銭は大きかった。
「兵の展開、町への投資、道や長屋、市、その他の費用を含めまして、およそ2億文規模となっております」
「使いましたねえ」
「八郎が言うな」
「いや、数字で見ると大きいでしょう」
しかし。
既存領地。
各地の市。
石見銀山。
新しく入った領地。
鹿児島、熊本、博多、山口、湯築、出雲、高松、姫路の各都市。
さらに旅商い。
それぞれの利益を合わせ。
もろもろの費用を差し引く。
「最終的な利益は、三億六千百五十万文ほどでございます」
一瞬。
家族が静かになった。
「……それでも三億残るんか」
「残りましたね」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
八郎は別の帳面を出した。
「ほな、但馬の三束分、消しましょう」
「消す?」
「借金です」
金額は。
二億二千五百万文。
「全部返すのか?」
「はい」
「一気に?」
「銭ある時に消したらええでしょう」
二億二千五百万文を返済。
残った利益は積み立てる。
三郎が帳面を見ながら笑った。
「どんどん銭減っていくな」
「減らしますよ」
「せっかく稼いどるのに?」
「借金残して銭だけ持ってても仕方ないでしょう」
八郎にとっては。
借金を減らす。
空いた余力で。
また新しい仕事を始める。
「うちは、それで回してきたんですから」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
父が呆れたように言う。
「ほんま止まらんな」
「止まってますよ」
「どこがや」
「今、丹後も急いでないでしょう」
「ああ。一色か」
丹後方面には二万五千の兵が展開している。
すでに一部の国人は八郎側へ入った。
「向こうから入ってくれるなら入ってもらう。それだけです」
「攻め込まんのか?」
「急ぐ理由ないですから」
姫路ですら。
まだ町づくりの途中だ。
「できることからコツコツですよ」
「お前のコツコツ、規模がおかしいねん」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
八郎は地図を広げた。
「播磨も、七合目ぐらいまではこっち側になりました」
姫路城も取った。
国人衆も次々となびいている。
「でも、この先はちょっと違いますね」
「摂津か」
「はい」
摂津。
さらにその向こう。
堺。
京。
寺社。
大商人。
古くからの武家。
公家。
さまざまなしがらみが絡む。
「今までみたいには動かんでしょうね」
「そらそうやろな」
「だから遅くなってええです」
八郎はあっさり言った。
「戦が進まんかったら、その間に商売したらええんですよ」
「また銭貯めるんか」
「はい」
利益を積む。
町を育てる。
道を作る。
人を集める。
「そのうち動ける時が来るでしょう」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
三郎が少し黙ってから。
「でもなあ」
「何です?」
「ここまででかくなってくると、ちょっと怖いぞ」
「何がです?」
「八郎家がや」
鹿児島から。
九州を北上し。
博多。
山口。
石見。
出雲。
四国。
高松。
そして播磨。
「昔から考えたら、どこまで来たんやいう話や」
「まだまだでしょう」
「まだ言うんか」
「だって」
八郎が言いかけたところで。
三郎が笑う。
「日の本全部統べるまで、とか言い出すなよ」
「いやいや」
八郎は慌てて手を振った。
「そんな話してませんって」
「今、一瞬考えたやろ」
「考えてません」
「ほんまか?」
父も母も笑っている。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
八郎は帳面を閉じた。
「まあ、先のことは分からんですよ」
摂津へ行くのか。
堺へ行くのか。
京まで行くのか。
丹後が先なのか。
「今できることやるだけです」
借金を減らす。
町を育てる。
働く場所を作る。
そして。
家族とは、時々集まる。
「ほな、帳面合わせ終わりです」
「やっとか」
「皆さん、好きなところ行ってください」
「雑やなあ」
「また集まりましょう」
七月三週目。
家族が集まった姫路で。
二億二千五百万文の借金が消え。
残った利益は、再び積み上げられた。
領地は広がる。
銭も動く。
人も増える。
それでも八郎は。
「一個ずつですよ」
そう言って。
次の帳面を、また一冊手元へ引き寄せていた。




