1537年。7月3週目。家族みんなで町を見てほしい
七月三週目。
姫路城。
八郎が家族へ出した書状から、数日が経っていた。
「一度、みんな姫路へ来てください」
それだけなら、普通の呼び出しだった。
だが。
八郎家の者たちが今いる場所は、ばらばらだった。
九州。
四国。
中国。
それぞれに役目がある。
それでも船や陸路を使い。
数日をかけて。
ようやく家族が姫路へ集まった。
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「……また随分変わったな」
三郎が城の外を眺めた。
「でしょう?」
八郎は少し嬉しそうだった。
長屋。
共同炊事場。
市。
商人の店。
職人の工房。
まだ未完成ではあるが。
姫路の町は、少しずつ形になり始めている。
父が町を眺めながら言う。
「まだ大きうするつもりか?」
「できますよ」
「まだ?」
「まだまだ」
母が呆れたように笑った。
「この前まで城を囲んどったんやろ?」
「そうですね」
「今はもう町の話しかしてへんな」
「城は取れましたから」
「切り替え早すぎるやろ」
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八郎は大きな紙を広げた。
「今日みんなに来てもらったんは、これ見てもらいたかったんです」
「姫路の町割りか?」
「それもあります」
八郎は地図の各地を指していく。
鹿児島。
熊本。
博多。
山口。
出雲。
高松。
湯築。
姫路。
「ここら辺、全部大きい町として別に予算つけてます」
三郎が頷く。
「聞いとる」
「でも正直」
八郎は苦笑した。
「僕も何に使えばええか、全部分かってないんですよ」
「お前でも分からんのか」
「分からんですって」
一億文。
二億文。
予算だけはつけた。
「博多なんか、もっと商業盛んにしたいです。でも『ほな何作る?』って聞かれたら、
全部は答えられません」
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「だから」
八郎は姫路の町を指した。
「時々ここ見に来てください」
「姫路を?」
「はい」
船で来てもいい。
陸路でもいい。
「ここで試して、うまくいったもんを他でも使えばええと思うんです」
父と母へ向く。
「お父様とお母様は、観光も兼ねて回ってください」
「観光?」
「道後温泉とか、高松とか」
母が笑う。
「それ、お前が行きたいだけちゃうん?」
「僕は動けませんから」
今後。
八郎は姫路を東側の拠点として使う。
さらに東へ勢力が伸びれば。
しばらく姫路を離れにくくなる。
「だから代わりに見てきてほしいんですよ」
「出雲もか?」
「折を見てお願いします」
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八郎は地図を見る。
「町ごとに役割、ちょっと違うと思うんです」
博多。
「ここは商売ですね」
港。
倉。
商人。
宿。
旅人。
「もっと商業を大きくしたいです」
鹿児島。
熊本。
「こっちは地方の中心地ですね」
土地を継げない次男、三男。
仕事がない若者。
「とりあえずそこへ行けば、なんか仕事ある」
兵。
職人見習い。
荷運び。
商人の手伝い。
「そういう町にしたいです」
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「出雲は?」
三郎が聞く。
「石見銀山もありますしね」
日本海側の物流。
銀。
商人。
「山口も似てますけど、あっちは大内さんの町ですし、もっと上等な商いもできると思います」
「高松や道後は?」
「旅ですね」
宿。
温泉。
飯。
土産。
「観光いうのか分からんですけど、人が遊びに来て銭落とす町です」
母が笑った。
「お前ほんま何でも商売にするな」
「町維持するには銭いりますからね」
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「ほんで」
八郎は姫路の長屋を指した。
「これ、結構使えると思うんですよ」
「長屋?」
「八人小屋いうか」
一つの細長い建物。
それを八つに区切る。
それぞれに入口を作る。
一部屋、一人。
夫婦なら二人でもいい。
「新しい人来たら、とりあえずここ入ってもらうんです」
「随分簡単やな」
「簡単でええんです」
雨風がしのげる。
寝られる。
荷物が置ける。
「ほんで布団とか桶とか最低限の物は、ツケで買えるようにします」
「村でやっとる仕組みか」
「そうです」
ただしツケは一か所。
所属を決める。
帳面をつける。
給金が入ったら払う。
「最初銭なくても暮らし始められるようにしたいんです」
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「それから学び屋ですね」
「また学校か」
「学校いうほど立派なんちゃいますよ」
焼き物。
農具。
鍛冶。
桶。
木工。
帳面。
「親方の手伝いしながら覚える場所です」
家事の手伝い。
飯屋。
宿。
商家。
「何もできません、いう人でも」
最初は掃除。
荷運び。
飯の手伝い。
「そこから何か覚えたらええでしょう」
三郎が腕を組んだ。
「お前、そこまで考えとるんか」
「考えてるだけですよ」
「十分や」
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「だから」
八郎は家族を見回した。
「姫路見ながら、みんなの町でも使えそうなん真似してください」
全部同じにする必要はない。
博多には博多のやり方。
鹿児島には鹿児島。
道後には道後。
「使い道分からんかったら、僕に聞いてください」
「お前に?」
「はい」
八郎は少し笑った。
「姫路でこんなんやりました、いう手紙も書きますから」
「全部見る気か?」
「全部は無理です」
「ようやく分かったか」
「最近分かりました」
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父が改めて町を眺めた。
「でも」
「はい?」
「まだ大きくなりそうやな」
「僕もそう思います」
人が来る。
寝る場所がある。
飯がある。
仕事がある。
技を覚えられる。
「これが回ったら、土地持ってへん人でも生きられますからね」
八郎は少し離れた長屋を見る。
「そういう町、八つぐらいあったら面白いでしょう」
三郎が笑う。
「面白いで済む規模ちゃうぞ」
「まだ八つですよ」
「まだ言うな」
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七月三週目。
姫路に集まった八郎家の家族は。
新しく出来つつある町を歩き。
長屋を見て。
市を見て。
職人の工房を見て。
八郎の話を聞いた。
姫路で試す。
うまくいけば他へ広げる。
失敗すれば直す。
「まあ」
八郎は最後に言った。
「僕一人では無理なんで」
そして家族を見回す。
「みんなでやってください」
これまで八郎一人の頭の中にあった町づくりが。
少しずつ。
八郎家全体の仕事へ変わり始めていた。




