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1537年。7月1週目。姫路城、落城。八郎傘下となる。

七月一週目。

 週末。

 姫路城を囲んでいた八郎勢四万に、ようやく大きな動きがあった。

「そろそろ、いきますか」

「総攻めでございますか?」

「はい」

 長く包囲してきた。

 三の丸近くまで押し込み。

 周囲の国人衆も、次々と八郎側へ入った。

 兵糧。

 人。

 情報。

 どれを取っても、赤松方が不利なのは明らかだった。

「無理に壊さんでもええですけどね」

 八郎は姫路城を眺めた。

「でも、いつまでも囲んでるんも面倒でしょう」

 そうして。

 総攻撃が始まった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 戦そのものは。

 八郎が思っていた以上に、あっけなく終わった。

「……落ちました」

「落ちましたね」

「随分、あっさりしておられますな」

「いやいや」

 八郎は苦笑する。

「あっけなく言うても、赤松さんら、よう粘りはりましたよ」

 ここまで来るのに時間はかかった。

 西播磨の国人衆を一つずつ崩し。

 姫路城を包囲し。

 三の丸へ迫り。

 さらに城の外では町まで作り始めた。

「最後の一日だけ見たら早かったですけどね」

 すでに勝負そのものは。

 ずっと前から決まり始めていたのだ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 城内へ入った八郎は。

 まず城を見た。

「へえ」

 石垣。

 曲輪。

 蔵。

 屋敷。

 井戸。

 城下へ続く道。

「ここ、思ってたより使えますね」

「感慨はそれだけでございますか?」

「え?」

「姫路城を落としたのですよ」

「そうですね」

「播磨の大きな城を」

「はい」

「もう少し、こう……」

「何です?」

「思うところなどないので?」

 八郎はしばらく考えた。

「……町、どこから広げましょうかね」

「それですか」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「いや、そっちの方が大事でしょう」

 八郎は城から外を眺める。

 すでに。

 長屋が建っている。

 共同炊事場から煙が上がっている。

 市も少しずつ大きくなっている。

 飾万津からは荷が入ってくる。

「もう町作り始めてるんですよ」

「城落ちる前からでしょう」

「そうです」

「普通は逆では?」

「結果一緒でしょう」

「一緒ではないと思いますが」

・・・・・・・・・・・・・・・・・

 ほどなく。

 赤松方との処遇について話が始まった。

 赤松側の者たちは。

 かなり重い処分を覚悟していた。

「……我らの家は、どうなります?」

「残したいなら残してええですよ」

 八郎があっさり答える。

「は?」

「ただし、八郎家の傘下には入ってもらいます」

「それだけで?」

「それだけいうても、今まで通り全部好き勝手できるわけちゃいますよ」

 税。

 兵。

 商い。

 帳面。

 八郎家の仕組みに合わせてもらう。

「でも家そのものを潰す気はないです」

 赤松方が顔を見合わせた。

「当主は……」

「隠居してもらいます」

「命は?」

「取りませんよ」

「……本当に?」

「取って何になるんです?」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 八郎は不思議そうに首をかしげた。

「これから町作らなあかんのですよ」

 土地を知っている者。

 人を知っている者。

 農地を管理してきた者。

「全員殺して、一から僕らが全部覚えるんですか?」

「……」

「面倒でしょう」

 赤松方の重臣が、何とも言えない顔をした。

「我らは、何のためにここまで踏ん張ったのでしょうな」

「いや、それ僕に聞かれても」

「命を懸けて守ってきたのですが」

「それは知ってます」

「それで、負けたら隠居と借金返済だけ?」

「借金返済は大事ですよ」

「そこですか」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 八郎家の傘下に入れば。

 これまでの領主たちと同じだった。

 借金を洗う。

 返せる分は返す。

 土地の収益を確認する。

 無理なものは組み直す。

「一気に全部返せ言うても無理でしょう?」

「それは……」

「なら、じゃかじゃか返していきましょう」

「じゃかじゃか?」

「少しずつでも減らしたらええんです」

 旧赤松方の者たちは。

 呆気に取られていた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「八郎様」

「はい?」

「本当に、これでよろしいのですか?」

「何がです?」

「もっと恨みを晴らすとか」

「特にないです」

「威を示すとか」

「四万で囲んで城落としたんやから、十分ちゃいます?」

「……」

「それより」

 八郎は町の方を見る。

「水場増やしたいんですよ」

「水場?」

「あと道ですね。飾万津から姫路まで、まだ荷運び高いんです」

「今、この場でその話を?」

「今やからですよ」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 夕方。

 八郎は改めて地図を広げた。

「これで包囲網、だいたい終わりましたかね」

「そうですな」

 三好が描いていた包囲。

 山名。

 赤松。

 その他の周辺勢力。

「山名も今は八郎家の傘下です」

「はい」

「赤松もこれで傘下」

「左様でございます」

 八郎は地図を眺める。

「じゃあ、三好さんが描いてた絵、だいぶ崩れましたね」

「崩れたどころではないでしょう」

「そうなんです?」

「西側から八郎家を押さえ込む形が、ほぼ消えております」

「へえ」

「へえ、ではございません」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 八郎は姫路の位置を指した。

「なら、ここ大きくしましょう」

「姫路を?」

「はい」

 飾万津。

 城。

 市。

 職人町。

 長屋。

 兵屯所。

 商人町。

「ここ、絶対便利になりますよ」

 瀬戸内側から船が入る。

 西から人が来る。

 東へ進む拠点にもなる。

「播磨を押さえたから終わりやなくて」

 八郎は指を置いた。

「ここから始まりですね」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 姫路城は落ちた。

 赤松家は滅びなかった。

 ただし。

 八郎家の傘下へ入る。

 当主は隠居。

 家臣たちは、新しい仕組みの中で生きていく。

 赤松方が。

 何年も守ろうとしてきたものは。

 八郎の手によって。

 壊されるのではなく。

 そのまま別の形に組み込まれていった。

「ほな」

 八郎は立ち上がった。

「明日から町の区割り、ちゃんと見ましょう」

「落城祝いなどは?」

「します?」

「普通します」

「なら飯だけ豪勢にしましょうか」

「本当にそれだけですか」

「だって」

 八郎は笑った。

「城取るより、町大きくする方が時間かかりますよ」

 七月一週目。

 赤松の姫路城は落ちた。

 そして。

 三好が描いた包囲の形も。

 ここで大きく崩れることになった。

 だが八郎の頭の中では。

 すでに戦は終わっていた。

 次に考えているのは。

 姫路を。

 どこまで大きな町にするか。

 ただ、それだけだった。

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