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1537年。7月1週目。大きな町は別で育てる

七月一週目。

 姫路城郊外。

 城を囲む陣の一角に帳面がずらりと並べられた。

「ほな、帳面合わせしましょうか」

「今回は二週間分でございます」

「そうでしたね」

 六月の後半。

 高松を出て。

 飾万津へ入り。

 姫路城の外で長屋や市を作り始めた。

 その間も八郎商会の商いそのものは止まっていない。

 九州。

 中国。

 四国。

 瀬戸内。

 日本海側。

 それぞれから帳面が届けられていた。

・・・・・・・・・・・・・・・・

「二週間分の利益でございますが」

「はい」

「合わせまして、七億六千九百九十二万文ほど」

 八郎は一瞬黙った。

「……相変わらずでかいですね」

「八郎様がそれを申されますか」

「いや、数字で見ると毎回思いますよ」

 七億六千九百九十二万文。

 そこから通常の経費はすでに差し引かれている。

「今回はどうされます?」

「全部積み上げましょう」

「端数も?」

「はい」

 今は使い道を無理に作る必要はない。

「ほんまやったら、但馬の山名領とか、借金残ってるところ全部消してしまいたいんですけどね」

「なされぬので?」

「姫路がまだ落ちてませんから」

 城が落ちなければ。

 最終的な町割りも決めにくい。

 どこを八郎側が直接使えるのか。

 どこを既存の者に残すのか。

「外からできることはやりますけど、全部決めるんは落ちてからです」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ただし」

 八郎は別の帳面を開いた。

「姫路の開発費は別で置きましょう」

「別帳簿で?」

「はい」

 飾万津。

 姫路城下。

 その二つを結ぶ道。

 長屋。

 井戸。

 炊事場。

 市。

 倉。

「とりあえず毎週五千万文」

「毎週ですか?」

「一応、枠として」

 必ず全部使うわけではない。

 だが。

 必要なら使える。

「金に糸目つけへん、いうたら言い過ぎですけどね」

 八郎は帳面を指で叩いた。

「今は使う意味があるんですよ」

「人が集まるからですか?」

「それです」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 材木を売りたい。

 石を売りたい。

 荷車を作れる。

 井戸を掘れる。

 道を直せる。

 長屋を建てられる。

 仕事を探している。

 八郎が銭を出す。

 しかも支払いが早い。

 そう知れ渡ると。

 人が勝手に集まり始める。

「言うたら、時間買ってるんですよ」

「時間を?」

「はい」

 銭を惜しんで。

 材木が安くなるのを待つ。

 人足が余るのを待つ。

 職人が暇になるのを待つ。

「そんなんしてたら一年二年かかるでしょう」

 今は高くても払う。

「それで半年で町できるなら、その半年買ったと思えばええです」

「なるほど」

「それに金払いええところには、人来ますからね」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 問題は。

 来た人間を受け止めることだった。

「人集めるだけ集めて、寝るところありません、仕事ありませんは駄目です」

 長屋を作る。

 仕事を作る。

 飯を売る。

 道を作る。

「順繰り順繰りですね」

「一気にはできませぬな」

「無理です」

 だから毎週五千万文。

 必要なところから使っていく。

「余ったら翌週に回せばええです」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 そこで八郎は。

 もう一枚の紙を広げた。

「それで、ちょっと考えてることあるんです」

「何でございますか?」

「大きい町だけ、別枠にしようかなと」

「別枠?」

「はい」

 八郎は地名を書いていった。

 姫路。

 博多。

 熊本。

 鹿児島。

 道後温泉。

 山口。

 高松。

 出雲。

「この辺です」

「かなりございますな」

「全部今すぐやるわけちゃいますよ」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 これまでは。

 領地や商圏をある程度のまとまりで管理してきた。

 三万五千石ほどを一つの束として見る。

 その中で市を作る。

 寺社を整える。

 道を直す。

 商いを増やす。

「それはそれでええんですけど」

 八郎は姫路を指した。

「こういう町は、それでは小さすぎる気がするんですよ」

「姫路だけで一つの勘定にする?」

「そうです」

 市はいくつ必要か。

 寺はどうするか。

 職人町は。

 長屋は。

 港は。

 学校のようなものは。

「町だけで別に帳面立てた方が分かりやすいです」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 博多も同じ。

 熊本も。

 鹿児島も。

 高松も。

 山口も。

「道後なんかは温泉がありますから、また普通の町と違いますしね」

「出雲も?」

「人集まりそうでしょう」

 石見も含め。

 日本海側の商いの形は、瀬戸内とも違う。

「どこまで大きくするかは、まだ分かりません」

 八郎は笑った。

「これもやりながらですよ」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「まず姫路で試します」

 姫路城下だけの帳面。

 飾万津だけの帳面。

 道。

 市。

 長屋。

 職人。

 兵。

「町にいくら入れて、どれだけ人増えて、どれだけ商売増えるか見ます」

「それがうまくいけば?」

「博多とか高松とかも別予算取ります」

 大きな町は。

 大きな町として育てる。

 周囲の村と一緒くたにしない。

「町に銭入れて、人集めて、仕事増やして」

 また人が来る。

「それが回るなら面白いでしょう」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「結局」

 八郎は帳面を閉じた。

「僕が作りたいんは、受け皿なんですよ」

「受け皿?」

「土地持ってない人の」

 農家の次男。

 三男。

 家を継げない者。

 浪人。

 商人見習い。

 職人になりたい若者。

「土地ないから食えません、で終わらんようにしたいんです」

 大きな町へ行けば。

 寝る場所がある。

 仕事がある。

 飯が買える。

 技術も覚えられる。

「それが姫路でできるか見ましょう」

「また実験でございますな」

「そうです」

 八郎は笑った。

「うまくいったら増やす。あかんかったら直す。それだけですよ」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 七月一週目。

 二週間で積み上がった利益。

 七億六千九百九十二万文。

 その一方で。

 姫路には毎週五千万文。

 銭を貯めるだけではない。

 使って。

 人を集めて。

 町を育てる。

「さて」

 八郎は姫路城の方を見た。

「その前に」

「はい」

「そろそろ城、落ちてくれませんかね」

 まだ。

 姫路城は赤松方の手にある。

 それでも。

 その城を中心にした新しい町の帳面は。

 城が落ちるより先に。

 もう作られ始めていた。

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