1537年。六月二週目 姫路でやりたい、秘密の商売
旅案内の話でひとしきり盛り上がったあと。
八郎は、急に妙な顔をした。
「兄上方」
「なんや」
「僕、とんでもなくええこと思いついてしまいました」
一郎がすぐに嫌そうな顔をする。
「なんか、ろくでもない気がするな」
「いやいや。これはええですよ」
「何や?」
「言いません」
「は?」
三郎まで身を乗り出した。
「そこまで言うて言わへんの?」
「言ったら面白くないですもん」
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八郎は嬉しそうだった。
「でも兄上たちは、絶対喜ぶと思います」
「めちゃめちゃ気になるやんけ」
「姫路城取ってからです」
まず姫路城を落とす。
その周囲を見て。
道を決める。
市の区画を割る。
商人町。
職人町。
宿。
飲食。
娯楽。
「それを僕が実際に割り振り始めたら、分かる人には分かるかもしれません」
「もう頭の中にあるんか?」
「あります」
「怖いな、こいつ」
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八郎はさらに小声になる。
「多分、堺の商人にも喜ばれますよ」
「ほう」
「銭の匂いがぷんぷんします」
一郎と三郎の顔が明るくなる。
「それ先に言えや」
「やっぱり商売なんやな」
「もちろんですよ」
八郎は真顔だった。
「これ、うまくいったら、町に人を呼ぶ仕組みになると思うんです」
「旅行ともつながる?」
「めちゃくちゃつながります」
そこまで言って。
「でも、それ以上は言いません」
「持ったいつけるなあ」
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「なんなら」
八郎は少し考えてから言う。
「これ、全部の町でやってもええんちゃうかなって、一瞬思ったんですよ」
「ほなやればええやん」
「それすると、多分、一部の人からめっちゃ顰蹙買います」
「……何考えたんや、お前」
「だから言いませんって」
「余計気になるわ!」
八郎は笑う。
「口に出した瞬間、絶対怒られる気がしますから」
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その様子を。
四人の姫君が、少し離れたところから見ていた。
「八郎様」
「はい」
「その妄想は、いつ私たちに説明してくださるんです?」
「説明しません」
「なぜです?」
「怒られるからです」
「もう怒りそうなんですけど」
「まだ何も言ってないでしょう?」
「言わないから怪しいんです」
八郎が困った顔になる。
◇
「いや、だから」
「はい」
「さりげなく姫路の町に混ぜ込んで」
「混ぜ込む?」
「皆さんが気づくかどうか見るのも面白いかなあと」
姫君たちの視線が細くなる。
「八郎様」
「はい」
「どんどん悪い大人になってません?」
「まだ七歳ですよ」
「だから余計怖いんです」
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そこで八郎が一郎たちを指差した。
「兄上たちのせいです」
「なんで俺らやねん!」
「そうやぞ。八郎が勝手に育っとるだけや」
「いやいや。なんか変なところが移ってます」
「移るほど教えてへんわ」
一郎が胸を張る。
「八郎は生まれた時から、頭の出来がちょっと違ったやろ」
「そうそう」
三郎も頷く。
「俺らから教えられるもんなんかない」
「それ自慢になってます?」
「つまり俺らに罪はない」
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姫君の一人が冷たい声で言う。
「でも、最近ちょっと八郎様の考えることが、兄上様方に似てきております」
「ほら」
八郎が言う。
「やっぱり移ってるんです」
「違う違う」
一郎が慌てる。
「八郎は邪な気持ちで考えとるんちゃう」
三郎も続けた。
「そうや。こいつは銭になるかどうかで考えとる」
「それもどうなんです?」
「商会を太らせるためや」
「そうそう。何卒、そのような説明にしてくれ」
「お兄様方がそこまで必死に庇う方が怪しいです」
「いやいやいや!」
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「だって八郎は何も言わへん言うとるやろ」
「言わないのは、言ったら止められるからでしょう?」
「……」
「ほら」
兄たちが黙る。
八郎は楽しそうに笑っていた。
「まあでも」
八郎は言った。
「これ、意図に気づいた人には、なんか褒美出してもええかもしれませんね」
「褒美?」
「はい」
姫路の町割りを見て。
配置を見て。
旅案内を見て。
八郎が何を狙っているのか。
「最初に気づいた人に何かあげます」
姫君たちの目が変わった。
「なら、私たちも考えます」
「え?」
「八郎様が何を企んでいるか」
「本気です?」
「本気です」
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八郎は腕を組んだ。
「そうですかあ」
「何です?」
「いや」
にやりと笑う。
「気づくかなあと思って」
「その顔が腹立ちます」
「まだ何もしてませんって」
六月二週目。
まだ落ちてもいない姫路城を前に。
八郎の頭の中では。
城も。
市も。
旅も。
そして、誰にも言えない新しい商売も。
すでに一つの町として組み上がり始めていた。
そして兄たちは。
「絶対俺らが先に当てるぞ」
「いや、嫁たちより先や」
妙な勝負まで始めていた。
八郎だけが。
「まあ、姫路取れてからですけどね」
と、楽しそうに笑っていた。




