↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
953/1041

1537年。五月三週目 三億文だけ積んでおきましょう

 五月三週目。

 家族との夕餉も終わり。

 翌日、八郎はまた八郎商会の帳面を広げていた。

「ほな、一回合わせましょうか」

「はい」

 博多。

 山口。

 安芸。

 備後。

 備中。

 備前。

 石見。

 出雲。

 九州各地。

 四国。

 さらに日本海側と琉球方面。

 各地から上がってきた数字をまとめていく。

 算盤の音がしばらく続き。

「合計いたしますと」

「はい」

「四億三千三百六十一万文でございます」

「おお」

「ただし、出兵準備その他で八千五百万文ほど出ております」

「山名と赤松ですね」

「それだけではございませんが、大きいのはそこです」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 差し引く。

 四億三千三百六十一万文。

 そこから八千五百万文。

「残り、三億四千八百六十一万文でございます」

「ほな」

 八郎は少し考え。

「四千八百六十一万文、使ってしまいましょう」

「……はい?」

「切り悪いでしょう」

「そういう理由ですか?」

「三億文ちょうど積んどいた方が見やすいです」

 担当の者が帳面を見つめる。

「四千八百六十一万文を、端数扱いされる方は初めて見ました」

「僕も昔なら驚いてますよ」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「各地の整備費に回してください」

「整備費?」

「はい」

 道。

 蔵。

 宿。

 港。

 市場。

 井戸。

 必要なら橋。

「新しく入った土地もありますし、古いところでも壊れてるもんあるでしょう」

「細かい配分は?」

「現場に任せます」

「またですか」

「もう見きれません」

 八郎は即答した。

「四千万文超えてるんですよ?」

「分かってます」

「かなり雑ですよ」

「それぐらいどんぶりにせんと、僕の頭が先に壊れます」

 八郎は帳面を指で叩く。

「必要なもの作ってください。ただし帳面だけ残す。それでええです」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「では、四千八百六十一万文を各地整備費へ」

「はい」

「残り三億文を積み立て」

「お願いします」

 きれいになった数字を見て。

 八郎は満足そうに頷いた。

「これなら分かりやすい」

「分かりやすさのために四千八百六十一万文使いましたね」

「町が良くなるんやからええでしょう」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「それにしても」

 八郎は別の交易帳を開いた。

「毎週毎週、交易が増えてるのはありがたいですね」

 瀬戸内だけではない。

 日本海側。

 九州沿岸。

 琉球方面。

「順繰り回してください」

「船も増やしますか?」

「必要なら」

 ただし。

「相場表だけは怠らんようにしてください」

 八郎の声が少し強くなる。

「米がどこで高い」

「はい」

「塩がどこで足らん」

「はい」

「紙がどこで売れる」

「はい」

「酒がどこで余ってる」

「はい」

「それ分からんまま船動かしたら、ただ荷物運んでるだけですから」

「そこは細かいんですね」

「そこ大事ですもん」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 銭の細かい配分は現場へ任せる。

 だが相場は見る。

 売れ方を見る。

 人の動きを見る。

「僕が全部の店を見る必要はないですけど」

 八郎は言う。

「どこで何が欲しがられてるかだけは知っときたいです」

「承知しました」

・・・・・・・・・・・・・・・・・

「あと軍の方」

「山名と赤松ですな」

「はい」

 すでに兵は順次動かしている。

 山名方面へ二万五千。

 赤松方面へ四万。

「情報入り次第、すぐ回してください」

「戦況を?」

「戦況と、占領したところの帳面です」

「……また借金ですか」

「いつものやつです」

 新しい土地を取る。

 まず田畑。

 次に家。

 そして借金。

「誰が誰から借りてるか。どれぐらい残ってるか。領主、武士、百姓、商人。それぞれ分けてください」

「戦の途中からですか?」

「できるところからでええです」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「山名兵の捕虜はどうします?」

「本人に聞いてください」

「本人に?」

「働くか、帰るか」

 八郎はあっさり答える。

「働きたいなら働かせてあげてください」

「いつもの四十文ですか?」

「仕事によりますけど、基本はそれで」

 道普請。

 蔵。

 荷運び。

 畑。

 市場の整備。

「飯と寝るところ最低限つけて」

「帰りたい者は?」

「帰してええです」

 ただし。

 八郎は少し考えた。

「今すぐ山名の軍へ戻る、いうのはちょっと困りますね」

「当然です」

「だから山名をちゃんと包囲するぐらいまでは待ってもらいましょうか」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「山名がもう戦えん状態になったら」

「はい」

「家へ帰りたい人は帰せばええです」

「また敵になる可能性は?」

「その時に考えます」

「軽いですね」

「でも、捕虜をずっと抱えてても飯代かかるだけでしょう」

「それはそうですが」

「働きたい人は働く。帰りたい人は帰る。その方がええです」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 八郎は最後に帳面を閉じた。

「ほな今週はこれで」

「三億積み立て」

「はい」

「四千八百六十一万文は各地整備」

「はい」

「交易は相場表を見ながら拡大」

「はい」

「山名、赤松は戦況待ち」

「はい」

「新領地はまた借金調査」

「はい」

 担当の者が息を吐いた。

「毎回やること増えてません?」

「領地増えてますからね」

「八郎様は減らす気ないでしょう」

「ありますよ」

「何をです?」

「僕が見る細かい帳面の数です」

 そこだけは本気だった。

 五月三週目。

 八郎家はまた三億文を積み上げ。

 その一方で。

 道を直し。

 蔵を建て。

 交易を広げ。

 東では再び兵を動かし始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。