表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
95/123

1533年2月。2回目の市の日。どんどん店と人員を増やしながら少しずつ広げていく3歳児の八郎www

1533年2月。2度目の市の日。

3 朝から荷車を押しながら、市へ向かう八郎たちは、以前とは比べものにならないほど

 身軽になっていた。

「やっぱり、三郎兄様のところに荷物置けるのは大きいですね」

 八郎がぽつりと言う。

 父は苦笑した。

「お前、結局そこが一番欲しかったんやろ」

「違いますよ。三郎兄様のお店を作るためですよ」

「半分ぐらいやろ」

「……半分ぐらいです」

 素直に認める八郎に、周りが笑う。

 市に着くと、三郎の炒め飯屋はもう煙を上げていた。

「兄様、おはようございます」

「おう、来たか」

 三郎は以前より慣れた手つきで鍋を振っていた。

 横では弟子として入った若者二人が、米を運んだり、皿を出したりしている。

「どうですか?」

「まあ、ぼちぼちやな。お前らが四軒並べて祭りみたいに売るのとは違うわ」

「それでいいんです」

 八郎は笑った。

「毎日食べる飯は、それぐらいがいいんです。毎日祭りやったら疲れますから」

「三歳児の言葉ちゃうぞ」

 三郎が呆れる。

 そして横を見ると、もう一つ小さな鍋が火にかかっていた。

「あ、つみれ汁出してるんですね」

「ああ。ただな……」

 三郎は少し困った顔をする。

「味がまだ安定せん。母さんみたいにはいかんわ」

 八郎は椀をもらい、一口飲む。

「……うん」

「どうや?」

「悪くないですよ」

「ほんまか?」

「はい。ただ、昨日と今日で味違うでしょうね」

「分かるんか」

「分かります」

 八郎は笑った。

「でも最初はそれでいいんです」

「ええんか?」

「はい」

 そして港の方を見る。

「大事なのは、漁師さんが『あそこは毎日下魚を買ってくれる』って思うことです」

「ああ」

「今まで捨ててた魚でしょう?」

「そうやな」

「それに値段がつく。毎日銭になる。そう思ってもらえたら、今度は向こうから

 『今日はええ魚あるぞ』とか『少し安くしとくぞ』って言ってくれるようになります」

 三郎は感心したように見る。

「そこまで考えてるんか」

「はい」

 八郎はうなずく。

「料理だけじゃないんです。人とのつながり作ってるんです」

「ほんま三歳児か」

 そこへ常連客がやってくる。

「おう坊主、また店増えとるやないか」

「増えてませんよ」

「いや増えとるわ。前は炒め飯だけやったのに、汁まであるやないか」

「試しです試し」

「お前の試しは怖いねん」

 客たちは笑いながら座る。

「聞いたぞ。殿様に五万文言われたんやって?」

「あー……まあ」

「三歳児相手にか?」

「僕が三歳児っぽくないからですかね」

「自覚あるんかい」

 皆が笑う。

「でも、そのためにこうやって頑張ってるんです」

 八郎は店を見回す。

「三郎兄様が料理覚えて、弟子が覚えて、つみれ汁できる人が増えて、そしたら隣の市でもできます」

「また増やすんか」

「増やさないと五万文返せませんから」

 そう言う八郎に、常連は首を振った。

「いや、お前な」

「はい?」

「返すためとか言うてるけど」

 客はニヤニヤする。

「楽しんでるやろ」

 一瞬、八郎が止まる。

「……」

「図星やな」

「ばれてます?」

 周囲が大笑いした。

「銭返すためとか言いながら、人増やして、仕事増やして、新しい飯作って、

 めちゃくちゃ楽しそうやぞ」

「いやでも必要なことですから」

「必要以上に楽しそうなんや」

 そんな話をしている間にも店は回る。

 新しく入った娘は母の横について、マグロの下ごしらえを手伝っていた。

「ここはこう切るんですね」

「そうそう。臭みが出るところは取るんよ」

「難しいですね」

「慣れや」

 そして忙しくなると、その娘は客へ椀を運ぶ。

「お待たせしました」

「お、新しい子か」

「はい、今日から教えてもらってます」

「八郎のところ、また人増えたんか」

 客が笑う。

 それを聞いた八郎は苦笑した。

「また言われてますね」

 父が横で言う。

「実際増えとるからな」

「まあ……」

「湯あみも増やした」

「はい」

「飯屋も増えた」

「はい」

「弟子も増えた」

「はい」

「女衆の仕事も増えた」

「はい」

「お前、五万文払うためとか言いながら、村作っとるぞ」

 八郎は少し考える。

「でも、銭だけ集めても意味ないですから」

「ん?」

「五万文払って終わりじゃないでしょう?」

 父が黙る。

「また足らなくなったら、また必要になります」

「……そうやな」

「だから稼げる形を作らないと」

 八郎は続ける。

「魚を取る人」

「料理する人」

「売る人」

「湯あみで働く人」

「道具を作る職人」

「全部つながったら、銭が回ります」

 周りの大人たちは静かになる。

 そして常連がぽつりと言った。

「……殿様、見誤ったな」

「何をです?」

「五万文取ろうと思ったんやろ」

「はい」

「でもな」

 男は笑った。

「お前に理由与えてしもうた」

「理由?」

「そうや」

 周りも笑う。

「八郎が本気で動く理由や」

 八郎は首をかしげる。

「そんな大げさな」

「いや」

 三郎まで笑った。

「大げさちゃうと思うぞ」

「兄様まで」

「お前、五万文払う頃には」

 三郎は店を見る。

「五万文どころじゃないもの作ってそうや」

 八郎は少し困った顔をした。

「そんなつもりないんですけどね」

 全員が声をそろえる。

「「「嘘つけ」」」

 市に笑い声が響いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ