表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
94/115

1533年2月。湯あみ2つ目に応募者殺到。魚の下処理を港で出来れば店が毎日できるかも。奥様方に弟子取るように言う。

湯あみ二つ目を隣村に作る。

 その話は、八郎たちが思っていた以上に早く村へ広がった。

「聞いたか? 八郎様がまた湯あみ作るらしいぞ」

「今度は隣村やって」

「また仕事増えるんちゃうか?」

「俺も頼みに行こうかな」

 冬場の村では、それだけで大きな話題だった。

 田畑の仕事が少ない時期。

 男衆は家で道具を直すぐらいしかなく、三男四男になればなおさら仕事は少ない。

 女衆も同じだった。

 家仕事はある。

 だが、銭になる仕事はほとんどない。

 そこに、一日二十文、四十文でも確実に銭が入る仕事が生まれた。

 村人たちが騒がないわけがなかった。

。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。

当然、不満も出る。

「八郎様、一日だけでも働かせてもらえんか?」

「俺も覚えたいんや」

「うちの娘も頼む」

 寺子屋帰りにも声をかけられる。

「いやいやいや、待ってください」

 八郎は手を振った。

「働いてほしくないんじゃないです」

「本当に?」

「はい」

「働きたい人が多すぎるんです」

 村人たちは顔を見合わせる。

「冬は仕事ないですから」

「だから、順番に増やします」

「一気に全員は無理です」

「でも湯あみも増やします」

「料理の仕事も増やします」

「少しずつです」

 それを聞いた者たちは、不思議そうな顔をする。

「普通、仕事って取り合うもんやのにな」

「八郎様は増やそうとしてるんやな」

「そうです」

 八郎は頷いた。

「銭を奪い合っても増えません」

「仕事を増やしたいんです」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 そんな中でも、八郎の頭は次へ向かっていた。

 家に戻ると、母の横で働いている奥様方に声をかける。

「少し相談があります」

「はい、なんでしょう」

 二人はすっかりマグロの下処理にも慣れてきていた。

「今はここでマグロの味噌煮と、つみれ汁の準備をしてもらってますよね」

「はい」

「助かってます」

「いえいえ、こちらこそ仕事をいただいてますから」

「次なんですけど」

 八郎は言う。

「港側で下処理できるようにしたいんです」

「港で?」

「はい」

「今は魚を持って帰って、ここでやっています」

「でも、港近くで処理できたら楽ですよね」

「ああ……確かに」

「そこで下処理できる人を育てたいんです」

 二人は顔を見合わせた。

「つまり……」

「私たちが教えるんですか?」

「はい」

「弟子を取ってください」

「弟子!?」

 二人とも驚く。

「私たちがですか?」

「できます」

「いやいや、私ら少し前まで普通の村女ですよ」

「でも今できますよね」

「……まあ」

「だったら教えられます」

 八郎は当然のように言う。

「港で下処理」

「三郎兄様が味を整える」

「横で炒め飯屋もする」

「そうすれば市の日じゃなくても店が開けます」

「毎日ですか?」

「いつかは」

 二人は息を飲んだ。

「そしたら……」

「仕事増えます?」

 八郎は笑う。

「増えます」

「増えます増えます」

「港の人も、今まで捨てていた魚に値がつく」

「料理する人も仕事になる」

「店番も必要になる」

「弟子も必要になる」

「そうやって増やします」

 二人はしばらく黙った。

 そして頭を下げた。

「八郎様」

「はい?」

「ありがとうございます」

「え?」

「私たち、農作業では男衆ほど役に立てません」

「家の仕事はありますけど、銭を稼ぐって難しいんです」

「でも今、自分の手で稼げています」

「誰かに教える側になれるなんて思ってませんでした」

 八郎は少し照れた。

「いや、皆さんが頑張ってるからですよ」

「違います」

「八郎様が場所を作ってくれたんです」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 その夜。

 父が笑いながら言った。

「また働きたい者が増えるぞ」

「でしょうね」

 八郎も苦笑する。

「湯あみ二つ目」

「料理人」

「魚の下処理」

「弟子」

「店番」

 三郎が呆れる。

「お前、仕事増やしすぎや」

「必要だからです」

「でも全部はできませんよ」

「一つずつです」

 母が笑った。

「あんたの一つずつは信用ならんわ」

 みんな笑う。

 ただ、誰も否定しなかった。

 ひと月前まで、冬は耐える季節だった。

 今は違う。

 次は何の仕事が生まれるのか。

 誰が銭を稼げるようになるのか。

 村人たちは、それを楽しみに待つようになっていた。

「八郎様は村の救世主やな」

 誰かがそう言った。

 八郎は首を振る。

「そんな大げさです」

「僕はただ、美味しいご飯食べて、暖かく寝たいだけです」

 父が笑う。

「そのために村ごと変える三歳児がおるか」

 囲炉裏の周りに、また笑い声が広がった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ