1537年。四月二週目 大友家への里帰り
四月二週目。
博多を出た八郎一行は、まず大友領へ向かった。
「せっかくですから、大友の姫様方も一緒に行きます?」
「里帰りですね」
「そうそう」
船ならそう時間も掛からない。
大友との縁組も正式にまとまったばかりなので、八郎自身が顔を出して報告しておく方がいい。
そして翌日。
大友の当主との会談となった。
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「いやいや、八郎殿」
大友の当主は上機嫌だった。
「早速来てくれたか」
「約束でしたからね」
「それに、ほんまに姫を迎えてくれた。ありがたい」
大友家としては、以前から八郎との縁を深めたがっていた。
それだけに一つ肩の荷が下りたらしい。
ただし。
八郎の後ろに並ぶ姫君たちを見て、少し首を傾げた。
「……新婚旅行と聞いたが」
「はい」
「他の姫君も一緒なんか?」
「うちは家庭円満を大事にしてますので」
「新婚旅行とは、そういうもんやったか?」
夏姫が横から苦笑する。
「旦那様、いろいろ言葉の意味を取り違えることがありますので」
「ちょっと待ってください」
「七歳ですから、そこはご勘弁を」
「なんか僕がめちゃくちゃ間違えてるみたいじゃないですか」
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八郎は納得いかない。
「でも大友の姫様と二人だけで京行ったら、夏姫怒るでしょう?」
「怒ります」
即答だった。
「ほら」
「だって、そんな面白そうなところへ二人だけで行くんですよ?」
「私たちも怒ります」
他の姫君まで頷く。
「ほら!」
八郎が大友当主を見る。
「僕、正解でしょう?」
「……まあ、仲良くやっとるなら、わしはもう何も言わん」
若干引き気味だった。
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話は領内の様子へ移る。
「しかし、大友商会も順調や」
「よかったです」
「八郎商会の交易のおこぼれにも、ずいぶん預からせてもろとる」
九州全体の交易量が増えれば、大友領だけが取り残されるわけではない。
「博多が景気いいですからね」
「ご縁会も、これからもっと大きなるんちゃうか?」
「多分なります」
「八郎殿が見るのか?」
「無理です」
即答だった。
「もう僕一人では見切れません」
揉め事さえ起きなければ、基本は各地で回してもらう。
つながりそうな家や商人については、八郎の兄弟や家族が間へ入る。
「個別の相談は聞きますけど、全部僕が見るのは無理ですよ」
「それだけ領地増やしておいて、よう言うわ」
「まだ借金返さなあかんところ、山ほどありますから」
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大友当主が八郎一行を見る。
「その割には、えらい大行列やな」
「京都に遊びに行くので」
「遊び?」
「文化人とか職人さんとか、面白い人おったら九州来てくれへんかなと思って」
さらに。
幕府へも挨拶。
朝廷にも献金。
「名前ぐらい覚えてもらおうかなと」
大友当主は苦笑した。
「ただなあ」
「はい」
「京の連中、銭渡したからいうて、お前の思った通りには動かんぞ」
「まあ、それは分かってます」
「朝廷も幕府も今は余裕ない。渡した銭がそのまま懐へ消えて終わるかもしれん」
「それでもええですよ」
「ええんか?」
「また京が荒れて、嫌になって九州来る人が増えるかもしれないでしょう」
「……そこまで考えとるんか」
「来てくれたら本増えますし」
「結局そこか」
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大友当主は少し考え、頷いた。
「まあ、一度八郎殿の顔を畿内に売る時期ではあるかもしれんな」
まだ畿内を支配しているわけではない。
だが堺商人とはすでに交流がある。
「面白がって付き合う商人も出てくるやろ」
「それで十分です」
「それに姫君まで連れていけば、目立つわな」
島津。
大内。
大友。
尼子。
「七歳児の後ろに姫君がわらわら付いて京へ行く。なかなか面白いやないか」
その瞬間。
姫君たちの視線が大友当主へ集まった。
「御屋形様」
「ん?」
「うちの旦那様を、ちょっと小馬鹿にしてません?」
「してない、してない!」
部屋に笑いが広がった。
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「まあ、今日はゆっくりしていけ」
「ありがとうございます」
「別府もあるぞ」
「明日行こうと思ってます」
別府で一日。
そこから四国へ。
高松でさらに一泊。
「道後は?」
「この前帰りに入りましたからね」
今回は、讃岐と阿波の境に整備し始めた塩江の湯を見に行く。
「三好の捕虜の人たちに手伝ってもらってます」
「まだ使っとるんか」
「一日四十文払ってますよ」
「で、湯にも入れとるんやろ?」
「はい。酒も」
大友当主が笑う。
「ほんま捕虜を殺さず使い倒しとるな」
「いやいや、ちゃんと銭払ってますって」
「そこが余計たち悪いんや」
「なんでです?」
「満足して帰すからや」
一同が吹き出した。
四月二週目。
八郎の新婚旅行は。
大友への婚姻報告から始まり。
別府。
塩江。
高松。
堺。
そして京へと続く。
ただの旅行で終わる気配は。
最初から、まったくなかった。




