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1537年。四月二週目 借金を消して、芋を植えて、新婚旅行へ

 四月二週目。

 京へ向かう段取りを詰める前に、八郎はまず大友家との約束を正式に報告することにした。

「とりあえず大友様に会いに行きましょうか」

「縁組がまとまりました、いう報告ですね」

「はい。船ならすぐでしょう」

 博多から船を出し、大友領へ。

 せっかくなので別府にも寄る。

「ちょっと湯に浸からせてもらって」

「もう旅行始まってません?」

「移動の途中ですよ」

 大友家へ挨拶を済ませた後は、そのまま四国へ渡り、高松へ。

 そこから堺を経由して京へ向かう。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「先発隊だけ先に堺へ行ってもらいましょう」

「何をさせます?」

「宿とか船とか、いろいろ手配してください。あと三好の捕虜千人返す段取り」

「千人、ほんまに返すんですね」

「返しますよ」

 三好方との正式な会談までは必要ない。

 八郎としては、捕虜を返すだけだった。

「伝言だけお願いします」

「なんと?」

「新婚旅行で京へ行きますので、ちょっと通してください、と」

「……その言い方はやめません?」

「なんでです?」

「ついこの前まで戦してた相手ですよ」

 先発を任された者が頭を抱える。

「『新婚旅行でそちらの領域通ります』って言われたら、角立ちますよ」

「そうですかね」

「立ちます」

「じゃあ任せます」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「その代わり捕虜千人、新婚旅行記念で返しますって」

「それも言い方変えさせてください!」

「なんでもええですよ」

「こちらで考えます」

「すいませんね、気を使わせて」

「ほんまですよ」

 ただ。

 三好方としても、千人が帰ってくれば助かる。

「向こうもホッとするとは思います」

「でしょう?」

 周囲では笑いが起きた。

「八郎様の周りやるの、言葉遣い大変ですな」

「僕そんな変なこと言ってます?」

「内容がでかいのに言い方が軽いんですよ」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「さて」

 八郎は帳面を開いた。

「出発前に締めましょう」

 四月一週目と二週目。

 交易はまた少しずつ増えている。

 新しい市も回り始めた。

 石見銀山。

 港。

 既存の交易。

 そこから兵の維持費。

 文化や遊び。

 市の立ち上げ。

 さらに今回、京へ持っていく朝廷・幕府への合計五千万文。

 新婚旅行中に使う銭まで先に引いておく。

「全部込みで」

 帳面役が数字を出した。

「二週分の差し引き、六億文の黒字です」

「六億?」

「はい」

 一郎が苦笑する。

「交易、また増えとるな」

「新領地もありますからね」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「で」

 八郎が平然と言う。

「四億八千万文、借金返済に回します」

「は?」

 一郎が振り向いた。

「また?」

「またです」

「どこにそんな払うんや」

「阿波一国分。それと、八郎側に入った播磨の分です」

 部屋が静かになる。

「……嫌がらせ?」

「はい」

「認めるんや」

「今回は嫌がらせです」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 阿波は三好が勢力を持っていた土地。

 そこへ八郎が入り。

 市を作り。

 仕事を作り。

 借金まで消していく。

「三好からしたら嫌でしょう」

「そら嫌や」

「しかも捕虜がまだおります」

 自分たちが戦っていた土地が。

 数か月で変わっていくところを見せてから帰す。

「面目、だいぶ潰れません?」

「楽しそうに言うな」

「播磨も一緒です」

 八郎側へなびいた西側。

 その地域の借金が減り、隣の備前まできれいになっていけば。

「赤松側から見たら、嫌でしょう」

 夏姫がにこりとする。

「旦那様、素敵な性格してますね」

「いやあ、そんな褒められても」

「褒めてません」

「え?」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 ともあれ。

 六億文。

 そこから四億八千万文を借金返済へ。

「残り一億二千万文です」

「今度こそ積むか?」

 一郎が聞く。

「一郎兄さん」

「なんや」

「芋の苗、いっぱい買ってください」

「……芋?」

「はい」

 八郎が地図を広げる。

「九州はだいぶ広がってますけど、四国、中国地方はまだまだ植えられるところあるでしょう」

 全部自分で見に行くことはできない。

 ならば八郎商会の者に任せる。

「植えられるところ、どんどん植えてください」

「一億二千万全部芋にする気か?」

「全部ちゃいますよ。町の立ち上げもあります」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 ただ今回。

 二十万近い兵を動かして、八郎は痛感した。

「飯ないと何もできませんから」

 不作への備え。

 平時の食料。

 戦時の兵站。

 さらに。

「芋焼酎の技術まで広がったら、商売にもなります」

 一郎が笑った。

「こんだけ銭あったら、鬼みたいに植えられるぞ」

「お願いします」

 八郎は隣を見る。

「二郎兄さんも」

「わしもか」

「手分けしてください。新しい町の立ち上げもお願いします」

「お前は?」

 八郎は帳面を閉じた。

「僕ですか?」

「うん」

「新婚旅行行ってきます」

「一番忙しい時に!」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 捕虜千人を返し。

 大友家へ婚姻の報告をし。

 別府で湯に浸かり。

 高松へ入り。

 堺を通り。

 朝廷と幕府へ銭を届け。

 京の文化を見る。

 その間。

 兄たちは芋を植え、市を立ち上げる。

「みんな忙しいですね」

「お前が増やしてんねん!」

 四月二週目。

 八郎は四億八千万文の借金を消し。

 残った銭を、次の食料と町へ回し。

 ようやく。

 本人だけは『新婚旅行』と呼んでいる、大掛かりな上洛の旅へ動き始めた。

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