↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
934/1041

1537年。四月一週目 新婚旅行に七千万文

 四月一週目。

 大友との縁組の話がひと段落すると、八郎はさっそく京行きの帳面を開いた。

「で、京へ行くとして、銭どれぐらい持っていったらええんでしょう」

「何しに行くかによりますな」

「新婚旅行」

「それだけではないでしょう」

「はい」

 八郎は指を折る。

「朝廷へご挨拶。幕府へもご挨拶。あとは京の文化とか職人さんとか本とか、いろいろ見たいです」

「そっちが本命に聞こえますが」

「全部本命です」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ほな」

 八郎が何気なく言った。

「一億文ぐらい持っていきます?」

「は?」

「十万貫ぐらい」

 部屋が静かになる。

「朝廷へ五万貫、幕府へ五万貫とか」

「いやいやいやいや!」

 一郎が慌てて止めた。

「お前、何考えとんねん!」

「挨拶ですよ?」

「一億文持って京まで歩く七歳児がおるか!」

「護衛つけますよ」

「そういう問題ちゃう!」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 今の八郎領は巨大になった。

 だが、京まで全部が陸続きで八郎領というわけではない。

 途中には赤松の影響が残る地域もあり、三好や細川の勢力圏もある。

「そんな大金運んどる言うて知れたら、何が起こるか分からんぞ」

「じゃあ半分?」

「せいぜいそれぐらいにしなされ」

 結局。

 朝廷へ二万五千貫。

 幕府へ二万五千貫。

「二千五百万文ずつですね」

「合わせて五千万文」

「なるほど」

 八郎はあっさり書き込んだ。

「それとは別に二千万文ぐらい持っていきます」

「まだ持ってくん?」

「旅行代です」

「二千万文の旅行代って何や!」

「新婚旅行っぽく遊びます」

 姫君たちが顔を見合わせた。

「どんな新婚旅行なんですか」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「せっかく京へ行くんですから」

 八郎の話は、当然それだけでは終わらなかった。

「博多に来てる法華宗の人たちで、京へ戻りたい人おるでしょう?」

 天文法華の乱から逃れ、九州まで流れてきた者たち。

 筆写のできる者。

 職人。

 商人。

 寺に関わっていた者。

「里帰りいうほど簡単ではないでしょうけど、一緒に行ったらええと思うんですよ」

「道案内にもなりますな」

「そうです」

 京の町を知っている者がいれば、八郎としても助かる。

「職人さんも、久しぶりに京見たい人いたら同行してもらいましょう」

「人数増えてきましたよ」

「旅は多い方が楽しいでしょう」

「新婚旅行ですよね?」

「そうですよ?」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 さらに八郎が言う。

「ついでに三好の捕虜も返しましょうか」

「ついで?」

「千人ぐらい」

「千人!?」

「二百人返して問題なかったでしょう」

 まだ四国には三好兵が残っている。

 働いて銭を貯めている者。

 塩江の湯治場づくりを手伝っている者。

「そろそろ帰りたい人、千人単位で返してもええでしょう」

「新婚旅行に捕虜千人連れていくんですか?」

「途中までですよ」

「十分おかしいです!」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 だが八郎自身は大真面目だった。

「三好にも筋立てといた方がええでしょう」

 三好とは、まだ正式な講和を結んでいない。

 戦そのものは八郎方の勝利で大勢が決したものの、関係は宙ぶらりんだ。

「捕虜千人返しながら通るいうたら、いきなり襲いにくいでしょう」

「まあ……」

「しかもこっちは京へ挨拶しに行くだけです」

 三好の領域。

 細川に関係する地域。

 そして幕府の影響下。

「足利家に関しては、こっちから銭納めに行くんですよ」

「そこだけ聞くと、えらい殊勝やな」

「殊勝ですよ」

「朝廷にも?」

「もちろんご挨拶したいです」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 夏姫が呆れたように言った。

「旦那様」

「はい」

「まだ三好とは戦中みたいなものでしょう?」

「そうですね」

「その最中に捕虜千人返しながら、新しい奥方連れて京都旅行?」

「はい」

「朝廷と幕府へ五千万文?」

「はい」

「遊ぶ銭二千万文?」

「はい」

「法華宗の人と職人まで連れて?」

「はい」

「何の一行なんです?」

 八郎が少し考える。

「……新婚旅行?」

「違います」

 即答された。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「でも捕虜返したら、三好も喜ぶでしょう」

「そら喜ぶでしょうけど」

「向こうも困ってたんでしょう?」

 身代金は出せない。

 土地も渡せない。

 船も足りない。

 なら、八郎側から返せばいい。

「それで道中無事なら、みんな得でしょう」

「旦那様だけ、ついでが多すぎるんですよ」

「せっかく行くんですから」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 こうして。

 朝廷と幕府への献金、五千万文。

 旅先で使う銭、二千万文。

 新しく縁づいた姫君を含む家族。

 護衛。

 京から博多へ逃れてきた者たち。

 職人。

 そして三好の捕虜、およそ千人。

 一郎は出来上がった予定表を見て、頭を抱えた。

「これ、七千万文持った使節団やないか」

「新婚旅行ですって」

「どこがや!」

 四月一週目。

 八郎が考え始めた京への旅は。

 わずか数日の間に。

 新婚旅行と、捕虜返還と、朝廷・幕府への挨拶と、文化交流を全部まとめた

 大行列へ変わり始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。