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1533年1月。1月8回目の市を終えて帰宅。9000文売上2000文利益。三郎兄様の市以外の利益1600文、人件費400文www

八回目の市を終えて、夕暮れの道を荷車を押しながら帰る。

 三郎も今日は店を閉めて一緒だった。

「いやあ……やっぱりみんなで帰る方がええな」

 三郎がぽつりと言う。

「寂しかったんですか、三郎兄様」

 八郎が笑うと、三郎は少し照れた顔をした。

「そらそうやろ。今までずっと兄弟で飯食って寝てたんやぞ。急に市で一人店番や。

 客は来るけど、夜になるとな」

「だから言ったじゃないですか。別に追い出したわけじゃないって。荷物置き場が欲しかっただけです」

「やっぱりそれが本音やろ!」

 兄弟たちが笑う。

 家に戻ると、いつものように囲炉裏の周りで帳簿を広げる。

 父がため息をついた。

「しかし……一月前まで、こんな銭勘定する家やなかったぞ」

「まあ、八回目ですからね。そろそろ慣れましょう」

「慣れるか!」

 全員から突っ込まれた。

「では八回目のお帳簿です」

 みんなが自然と姿勢を正す。

「まず、うちの市の四店ですね。炒め飯、つみれ汁、天ぷら、マグロ味噌煮」

「あれはもう定番になってきたな」

「はい。売り上げは……」

「九千文です」

「……」

 もう驚きすぎて逆に静かになる。

「いや、もうおかしい数字やぞ」

 父が呟いた。

「まあ前より少し落ちてますよ。値引きもありますし」

「九千文で落ちた言うな」

 三郎が笑う。

「で、原価です。米、卵、魚、マグロ、酒、薪、油、全部合わせて五千六百文ほど」

 母が頷く。

「今回は人が増えたからね」

「そうです。そこが大事です。人件費は千文」

「千文……」

 父がその数字を見る。

「昔なら、それだけで大金やったな」

「でも、その千文が村の誰かの手元に行ってるんです」

 八郎は言う。

「うちは銭を抱えるためにやってるわけじゃないですから」

 みんな黙る。

「それで市のまとめ役様と、お寺へ二百文ずつ。合わせて四百文寄進します」

「また増やしたんやな」

「儲かりすぎですから」

 八郎があっさり言う。

「それでも残りは……」

 石を最後に置いた。

「二千文です」

「……」

「また二千文か」

 父が笑った。

「もう感覚がおかしなっとるぞ」

「本来二千文って、とんでもないですからね」

 母も呆れる。

「でも八郎見てると普通に聞こえるんよ」

「普通じゃないですよ」

 八郎は首を振る。

「ただ、安定してきたというだけです」

 そこで八郎は三郎を見る。

「それで三郎兄様の方です」

「俺か」

「はい。五日間やってみて、どうでした?」

 三郎は少し考える。

「まあ……お前らが市でやるみたいに人だかりってほどやないけどな。ぼちぼち来るわ」

「売り上げは?」

「一日九百文ぐらいやな」

「十分です」

 八郎は即答した。

「え?」

「十分ですよ」

 八郎は計算する。

「一日九百文で五日なら四千五百文売っています」

「そう聞くと多いな……」

「そこから材料費、薪代、店代を抜いて」

 八郎が指を折る。

「利益は一日三百文ちょっと」

「そんなあるんか?」

「あります」

 八郎は頷く。

「五日で約千六百文」

 そこで三郎を見る。

「さらに三郎兄様の日当」

「ああ」

「八十文×五日」

「四百文やな」

「そうです」

 八郎は笑った。

「つまり三郎兄様は五日働いて四百文、自分の銭を作りました」

 三郎は自分の手を見る。

「……四百文か」

「大きいですよ」

 八郎は言う。

「兄様、普通なら三男以下はどうなるかわからないんです」

 場が少し静かになる。

「戦に出るか、どこかへ奉公か、寺か」

 父も黙って聞いていた。

「でも三郎兄様は、自分の飯屋を持って、自分で銭を稼いでます」

「……」

「それだけで成功です」

 三郎は照れ臭そうに頭をかいた。

「お前、弟のくせに偉そうやな」

「三歳ですからね」

「そこで子供出すな!」

 みんな笑う。

 八郎は続ける。

「しかもですよ。家としても利益が千六百文あります」

「そうやな」

「うちの大きい市一回分が二千文です」

 八郎は三郎を見る。

「兄様、一人で五日やって、ほぼ一回分作ってるんですよ」

「……そう考えるとすごいな」

「だから意味あります」

 八郎は力強く言った。

「仮に利益ゼロでもいいんです」

「え?」

「兄様の日当が出るなら」

 父が眉を上げる。

「どういうことや?」

「だって三郎兄様が飯を作れるようになる。市に顔ができる。情報が入る。仕入れ先と仲良くなる」

 八郎は指を折る。

「それだけで価値があります」

「……」

「それなのに利益まで出てる」

 にこっと笑った。

「最高じゃないですか」

 三郎はしばらく黙っていた。

「俺……役に立ってるんやな」

「当たり前です」

 八郎は即答する。

「三郎兄様がおるから、次の市にも広げられるんです」

 母が優しく笑った。

「ほんま、この子は人を乗せるのがうまいわ」

「違いますよ」

「何が?」

「本当のこと言ってるだけです」

 父が笑う。

「そこが怖いんや」

「?」

「三歳児が、兄弟の将来考えて、村の仕事考えて、領地の銭考えとる」

 父は首を振る。

「ほんま、お前がおらんかったら今頃どうなってたんやろな」

 八郎は少し考えて言う。

「まあ……でも父上が動いてくれるからですよ」

「またそうやって」

「本当です」

 八郎は笑う。

「私は考えるだけです。動くのはみんなですから」

 三郎が笑った。

「口だけは殿様みたいやな」

「やめてください。殿様に聞かれたら困ります」

「もう遅いやろ」

「まだです」

「また、まだって言ったぞ」

 囲炉裏の周りに笑い声が広がった。

 一月前、借金と年貢で暗かった家。

 今は、次に何を作るかで悩んでいた。

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