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1533年1月。和尚さんと話して帰ると人が家に集まっている。雇ってくださいという話で持ち切りwww

寺子屋で和尚と話を終え、八郎が家に戻ると、いつもと様子が違った。

 家の前に何人も人がいる。

「……なんです、これ」

 八郎が首をかしげると、父が疲れ切った顔で出てきた。

「八郎」

「はい」

「大変やぞ」

「何がです?」

「お前の湯浴みや」

「ああ、釜ですか?」

「違う」

 父はため息をつく。

「そこで働きたいいう者が集まってきとる」

「……もうですか」

「もうや」

 母も苦笑している。

「女衆も何人も来たよ。貸し布でも掃除でも何でもしますって」

「男衆もや。薪割る、水運ぶ、火を見る。何でもする言うとる」

 八郎は少し考え込む。

「全員は無理ですね」

「当たり前や」

「この人なら大丈夫そう、という人はいました?」

 そう聞くと、父は困った顔をした。

「それが難しいんや」

「ですか」

「みんな困っとるからな」

 冬。

 田畑の仕事は少ない。

 日雇いも限られる。

 毎日四十文もらえる仕事など、農村では大きかった。

「一日だけでもええから」

「掃除だけでも」

「薪だけでも」

 そんな声ばかりだった。

「選ぶ方がつらいわ」

 父が本音を漏らす。

 八郎はしばらく考えてから言った。

「なら、最初から決めないようにしましょう」

「どういうことや?」

「一週間、練習期間にします」

「練習?」

「はい」

 八郎は指を折る。

「職人さんに釜の扱いを聞きます」

「ああ」

「火加減、水の量、掃除、布の管理。最初から完璧には無理です」

「まあそうやな」

「だから三人じゃなく六人にします」

「六人?」

「はい」

 父が驚く。

「倍やないか」

「でも日当を半分にします」

「半分?」

「二十文です」

 八郎は説明する。

「五日だけです。六人で仕事を覚える期間にします」

「ああ……」

 父が納得した顔になる。

「なるほどな」

「はい」

「仕事を分けるんか」

「そうです」

 八郎は続けた。

「火を見る人も一人だけ覚えたら困ります」

「なんでや?」

「その人が病気になったら終わります」

「……」

「何人もできるようにします」

 父は目を丸くした。

「そこまで考えとるんか」

「はい」

「三歳児が?」

「三歳です」

「いや、三歳児はそんなこと考えへん」

 周りが笑った。

「あと時間ですが」

「うん」

「男、女、男で分けましょう」

「一日でか」

「はい」

 母が頷く。

「それなら女の人も入りやすいね」

「はい」

「男衆ばっかりやと嫌がる人もいるしね」

「そうです」

 八郎は笑った。

「まずは使ってもらうことです」

「儲けより?」

「はい」

「またそれか」

 父は苦笑する。

「お前ほんま銭好きなのか嫌いなのかわからんな」

「好きですよ」

「好きなんかい」

「でも回らない銭は意味ないです」

 父は黙った。

 そして笑う。

「ほんま和尚様みたいなこと言うな」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「でも八郎」

 母が聞いた。

「それでも働きたい人が多かったら?」

「その時は……」

「その時は?」

「もう一つ釜頼みましょうか」

 全員が止まった。

「早いわ!」

 三郎が叫ぶ。

「まだ一つ目できてないぞ!」

「でも人がいるなら」

「いるなら?」

「仕事を作れます」

 八郎は普通に言う。

「今は冬です」

「……」

「働きたい人が多い時期です」

「まあな」

「なら、今作る方がいいです」

 父は頭を抱えた。

「また始まった」

「何がです?」

「八郎の『ついでに増やしましょう』や」

 家族が笑う。

「あと母上」

「今度は何?」

「漬物です」

「ああ、この前言ってたね」

「はい」

「今やった方がいいです」

「なんで?」

「暖かくなったら皆さん忙しくなります」

 母は「ああ」と頷いた。

「田畑が始まるからね」

「はい」

「だから冬の間です」

 八郎は説明する。

「漬物を作りたい奥様方を集めてください」

「教えるんだね」

「はい」

「お代は?」

「銭はいりません」

「取らないの?」

「揉めます」

 八郎は首を振った。

「代わりに大根やシソを少し持ってきてもらいましょう」

「材料?」

「はい」

「それなら来やすいね」

「そうです」

「それで?」

「一緒に切って、漬けて、おしゃべりしてください」

「おしゃべり?」

「大事です」

 八郎は真顔だった。

「誰の家が困ってるか」

「……」

「誰が働きたいか」

「……」

「何が足りないか」

「……」

「そういう話が出ます」

 母はため息をついた。

「あんた、本当に……」

「何です?」

「漬物作りまで商いにするのね」

「違います」

「違う?」

「村作りです」

 その言葉にみんな黙る。

「漬物が下手でもいいんです」

「いいの?」

「はい」

「家で食べる保存食になります」

「……」

「上手なら、うちが買います」

「市で使うため?」

「はい」

「そしたらその家に銭が入ります」

 母は笑った。

「なるほどね」

「少しずつです」

 八郎は言った。

「みんな一気に豊かになるなんて無理です」

「……」

「一つずつ仕事を作って、一つずつ銭を回して、一つずつ楽にします」

 父が笑った。

「八郎」

「はい」

「お前の一つずつは早すぎる」

「そうですか?」

「この一月で何したか覚えとるか?」

「え?」

「飯屋増やして」

「はい」

「人雇って」

「はい」

「マグロ売って」

「はい」

「湯浴み作って」

「はい」

「次は漬物教室」

「……」

「どこがゆっくりや」

 八郎は少し考えた。

「まだ農具改良してません」

「そこやない!」

 家族全員が笑った。

 こうして八郎の小さな改革は、飯だけではなく、暮らしそのものへ広がり始めていた。

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