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1533年1月。湯あみの発注完了。出来上がり八郎の村に設置される。八郎の寺子屋や家で雇ってくれと言われまくるwww

 湯浴みの釜が出来上がる。

 その知らせが村に流れると、思っていた以上に騒ぎになった。

 職人たちが小屋に入り、土台を作り、釜を据える準備をしている。それを見に来る者までいる。

「ほんまに湯浴みできるんやな」

「銭払えば体拭けるんやろ?」

「冬場はありがたいわ」

 そんな話が広がっていった。

 そして一番反応したのは寺子屋の子供たちだった。

「八郎!」

 寺子屋に入るなり、何人かが駆け寄ってくる。

「俺に仕事くれ!」

「は?」

「四十文くれるんやろ!」

「俺の父ちゃん雇ってくれ! 冬場ずっと寝転んどるねん!」

「うちは母ちゃんや! 手先器用やで!」

 次々と言われ、八郎は苦笑する。

「待って待って。俺に言われても困る」

「なんでや。八郎の湯浴みやろ?」

「そうやけど、人を選ぶのは父上と母上にお願いしてる」

「えー」

 子供たちは不満そうな顔をする。

 そこで和尚が笑った。

「こらこら。八郎を困らせるな」

「でも和尚様、四十文やで!」

「知っとる」

 和尚は頷く。

「だからこそ適当に決められんのや」

「なんで?」

「みんな欲しい仕事やからや」

 和尚は子供たちを見る。

「一人だけずっと働かせたらどうなる?」

「……他の人が困る?」

「そうや」

 八郎も頷いた。

「冬は仕事少ないからな。できれば順番にしたい」

「順番?」

「うん。いろんな人に覚えてもらう」

 八郎は続ける。

「火を見る仕事。水や薪を見る仕事。貸し布や銭を見る仕事」

「銭?」

 その言葉に子供たちが反応する。

「銭数えられたらできる?」

「できる可能性はある」

「ほんま!?」

「でも」

 八郎は指を立てる。

「ごまかさないこと」

 子供たちは黙る。

「五文が十人なら五十文。二十人なら百文。ちゃんと数えて帳面につける。

 それができたら番頭さんみたいな仕事ができる」

「番頭……」

 急に寺子屋の子供たちの目が変わる。

 和尚はそれを見て笑った。

「今まで数字の勉強嫌がってたくせにな」

「だって仕事になるならやる!」

「銭もらえるなら覚える!」

「正直なもんや」

 和尚は呆れながらも嬉しそうだった。

 すると一人の女の子がおずおずと言った。

「八郎君……」

「ん?」

「女でもできる?」

「できると思うよ」

「ほんま?」

「むしろ貸し布とか受付は女の人の方がいいかもしれん」

「なんで?」

「女の人の時間も作るから」

「ああ」

「男の人相手だけやないから」

 すると周りが騒ぐ。

「八郎すげえ!」

「仕事作ってる!」

「八郎様や!」

「やめて」

 八郎は顔をしかめる。

 和尚が笑った。

「いや、八郎様で間違ってないかもしれんぞ」

「和尚様まで」

「今お前が見てるのは、この村だけやない」

 和尚は言う。

「十の村、千五百石分を任されとるんやからな」

 寺子屋の子供たちは固まった。

「……千五百?」

「村十個?」

「八郎が?」

「そうや」

 和尚は笑う。

「お前らと同じ三歳や」

「同じちゃうわ!」

 全員が叫んで、寺子屋は笑いに包まれた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 勉強が終わったあと。

 和尚と八郎は茶を飲んでいた。

「で、どうやったんや。この前の市は」

「よかったです」

「いくらや」

「売り上げ九千九百文です」

 和尚の手が止まる。

「……九千九百」

「はい」

「利益は」

「三千文ほどです」

「そこまで来たか」

 和尚は息を吐いた。

「早すぎるな」

「そうですか?」

「早すぎる」

 和尚は断言した。

「三歳児がひと月でやることやない」

 八郎は懐から包みを出した。

「和尚様」

「なんや」

「今回の寄進です」

 置かれた銭を見る。

「二百文か」

「はい」

「増えとるな」

「儲かりすぎです」

 和尚は苦笑する。

「儲かりすぎと言って寺に渡す商人なんぞ聞いたことないわ」

「でも和尚様には助けてもらいましたから」

「何をや」

「殿様のところも、庄屋の集まりも」

「それは当然や」

「当然じゃないです」

 八郎は首を振る。

「だから使ってください」

「何に?」

「寺の修繕でも、掃除でも」

 和尚を見る。

「掃除を仕事にして、村の人に日当渡してもいいです」

「……」

「銭を回してください」

 和尚はしばらく黙っていた。

 そして笑った。

「お前、ほんま恐ろしいな」

「何がです?」

「寄進ですら人を雇う仕組みに変える」

「もったいないですから」

「普通はありがたいと思って終わりや」

 和尚は茶を飲む。

「しかし、八郎」

「はい」

「また危ないところまで来たぞ」

「ですよね」

「分かっとるんか」

「はい」

 八郎は頷いた。

「湯浴みが回り始めたら、また銭が増えます」

「そうや」

 和尚は指で計算する。

「今回、市だけで利益三千文」

「はい」

「月八回なら二万四千文」

「単純計算なら」

「一年なら三十万文近い」

「ですね」

「さらに湯浴み」

「はい」

「十村に作れば?」

「仕事も増えますし、利益も増えます」

 和尚は苦笑した。

「千五百石どころか、その周りまで飲み込むぞ」

「でも」

 八郎は静かに言った。

「千五百石の借り入れが十六万文でした」

「ああ」

「それを解決できるなら」

 八郎は茶を見る。

「次は三千石、五千石を見ることもできます」

「……」

「でも」

「でも?」

「一万五千石全部を見るには、まだ足りません」

 和尚は吹き出した。

「お前」

「はい?」

「どこ見とる」

「え?」

「普通は十村救えたら満足する」

「でも戦があります」

 八郎は言う。

「力がなければ守れません」

「……」

「せめて領主様の領地の四分の三くらいの人が、八郎なら暮らしが良くなると思ってくれないと」

 和尚は頭を抱えた。

「お前……」

「はい」

「もう領主になる計算しとるやないか」

「まだですよ」

「まだ、か」

 和尚は笑った。

「その『まだ』が怖いんや」

 三歳の子供が、村ではなく国を見始めている。

 和尚はその日、改めて思った。

 この子は止めるのではなく、支えなければならない、と。

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