1535年7月2週目。八郎軍が河野家の門破壊に成功。3000を2300まで減らし士気も下げる。一方の姫君たちも市の立ち上げが早いwww
七月二週目、九州からの増援二千が河野城の包囲陣へ到着した。
これで八郎軍は、およそ九千五百。
対する河野家の城内には、三千ほどの兵が残っている。
「そろそろ、一度大きく揺さぶりましょうか」
八郎がそう言うと、島津忠良や貴久たちが、ようやく出番かという顔をした。
「まず、火矢を二千本ほど用意してください」
「二千本でございますか」
「はい。今夜、城の四方から百本ずつ射ます。それを時間を空けて、五回ほど行いましょう」
一度に四百本。
それを五回で、合わせて二千本である。
「これだけ堅固な城ですから、明日の朝に攻める前に、少し怖がっていただきます」
忠良は八郎を見て、苦笑した。
「八郎殿は、なかなか悪趣味ですな」
「いやいや、人が死なないように考えているんですよ」
「二千本の火矢を射ておいて申されますか」
「相手の戦う気持ちを下げるのは大切でしょう」
城内の兵が最後まで高い士気を保てば、門を破った後も激しく抵抗する。
反対に、前の晩から眠れず、城のどこに火がつくか分からない状態にすれば、
武器を捨てて逃げる者も増える。
「燃え広がりすぎないよう、城の外側や空いている曲輪を中心に狙ってください」
「城を焼き払うつもりではないのですな」
「人も帳面も蔵も、後から使いますからね」
「やはり、すでに落とした後の話をしておられる」
「準備は必要です」
その夜、河野城の周囲には、火矢を持つ兵が配置された。
夜も更け、城内の者がわずかに眠り始めた頃。
「放て!」
八郎軍の四方から、百本ずつの火矢が一斉に空へ上がった。
赤い光が夜空へ弧を描き、城壁の内外へ降り注ぐ。
火矢の一部には、油を染み込ませた布や、音を立てる仕掛けがつけられていた。
城内のあちこちで火花が散り、乾いた破裂音が響く。
「火じゃ!」
「西の曲輪へ兵を回せ!」
「南からも来ております!」
城兵たちが走り回り、火を消し終えた頃には、八郎軍は静かになっていた。
「終わったのか」
そう思い、兵たちが持ち場へ戻った頃、二度目の四百本が飛んできた。
さらに時間を空けて三度目。
四度目。
そして夜明け前に、五度目が放たれた。
城内の兵は一晩中、火と音に振り回された。
「悪趣味ですな」
忠良がもう一度言った。
「だから、人を殺さないためですって」
「八郎殿がそう申されるなら、そういうことにしておきましょう」
最後の火が消えきらないうちに、東の空が明るくなり始めた。
八郎軍は、すでに攻撃の準備を終えていた。
「島津勢を中心に、手厚く守られている門と、兵の薄い場所の両方を攻めます」
「薄いところだけではないので?」
「守りの厚い場所も一つ潰しておかないと、河野家がまだ守れると思ってしまいますからね」
島津勢が盾を並べ、破城槌を担いで前へ出た。
「門をぶち破れ!」
一晩中眠れなかった河野兵は、矢を射る手も鈍っている。
八郎軍は大盾で矢を受け、城門や柵へ一気に迫った。
太い丸太が何度も門へ打ちつけられる。
別の場所では、梯子をかけるそぶりを見せ、城兵を分散させる。
やがて大きな音とともに、門の一つが内側へ倒れた。
「島津勢、入れ!」
島津の兵が勢いよく城内へ踏み込む。
守りが厚かった一角も押し崩され、八郎軍は曲輪の中ほどまで進んだ。
ただし、八郎は奥まで攻め込ませなかった。
「逃げ道を広く残してください!」
「戦う気のない者は追うな!」
「武器を捨てれば首は取らんぞ!」
島津勢が大声で呼びかける。
「八郎軍には飯がある!」
「逃げてきた者には握り飯を食わせるぞ!」
城内には、昨夜からほとんど眠っていない農民兵が多い。
正面では島津勢が門を破り、別の場所でも八郎軍が城壁へ取りついている。
一方、城の後ろ側には、明らかに逃げられる道が残されていた。
一人が槍を捨てて走り出した。
続いて二人、三人と武器を投げる。
「待て! 持ち場へ戻れ!」
河野家の侍が怒鳴ったが、流れは止まらなかった。
「もう無理じゃ!」
「わしらは昨夜から寝ておらん!」
「八郎軍へ行けば、飯を食わせてもらえる!」
八郎軍は逃げる者を追わず、むしろ左右へ道を開けた。
城の外では、すでに握り飯と汁物が用意されている。
武器を捨てた者は名前と村を帳面へ書き、その後、飯を受け取った。
八郎軍は城内の一角を壊し、いつでも奥へ進めることを見せた後、深追いせずに引いた。
「引くぞ!」
「門の前に盾だけ残せ!」
河野家の者からすれば、理解しがたい攻撃だった。
門を破り、曲輪まで入りながら、城を取り切らずに帰っていく。
しかし、攻撃前に三千いた城兵は、逃亡と投降により二千三百ほどまで減っていた。
「七百も逃げたのか」
河野家の当主は、崩れた門を見ながら呆然とした。
「はい。負傷者も多く、今すぐ動ける者はさらに少ないかと」
「門を破られ、兵を逃がされ、敵はまた外で飯を炊いておるのか」
「そのようでございます」
城外から、再び鍋の煙が上がっている。
八郎軍は総攻撃を行ったはずなのに、大きな損害を出していない。
城を焼き払わず、農民兵も斬らず、河野家の戦力だけを削って引いた。
「ここから、どうすればよいのじゃ」
当主の問いに、答えられる家臣はいなかった。
一方、その頃。
三郎をはじめとする八郎の兄たち数名は、南伊予へ戻り、夏姫たちが立ち上げた市を見ていた。
「何や、これは」
三郎は、市の入り口で足を止めた。
以前は何もなかった場所に、米、野菜、薪、魚、布を扱う店が並んでいる。
寺の境内にも小さな市が開かれ、帳面役が農民の証文を確認していた。
「三郎様、遅いですよ」
夏姫が帳面を抱えながら近づいてきた。
「遅いって、こっちは戦をしてたんやぞ」
「こちらも市を三つ立ち上げました」
「三つ?」
「今日中に、もう一つ増やす予定です」
三郎は、周囲を見回した。
西園寺家の元家臣が荷物を運び、国人衆の兵が市の警備をしている。
農民たちは品を持ち込み、受け取った銭の一部を借金の返済へ回していた。
少し離れた場所では、姫君の一人が返済の終わった証文を破っている。
「お前ら、思ってた以上に仕事してるな」
「旦那様に置いていかれたくありませんから」
夏姫は当然のように答えた。
「八郎は今、河野城の門を壊してるぞ」
「では、帰ってこられるまでに、もう二つ市を増やします」
「張り合うところ、そこなんか」
兄たちは顔を見合わせた。
前では八郎が火矢と島津勢で河野家の心を折り、後ろでは姫君たちが市と帳面で南伊予を固めている。
「八郎家、戦をしてるんか、商売してるんか、よう分からんな」
三郎がつぶやくと、夏姫は笑った。
「どちらも旦那様のお仕事です」
河野城では兵が減り、南伊予では市が増える。
八郎家の四国攻略は、城門を壊す速さと同じ勢いで、土地を治める仕組みまで広がり
始めていたのであった。




