1535年7月1週目。西園寺家の隣の国人衆達の取り込みと市の立ち上げ、兵の休息と新たに四国に来た兵を警備と市の立ち上げに回し7500で河野家を攻める
西園寺家を傘下へ入れた八郎は、すぐに河野家へ向かおうとはしなかった。
「まず、ここをきちんと固めましょう」
西園寺家の城下では、すでに新しい市が動き始めている。
しかし、店を並べて飯を炊いただけでは、土地を治めたことにはならない。
西園寺家の北側、河野家との境に近い地域には、まだ態度を決めていない国人衆が
いくつも残っていた。
河野軍へ加わりながら、戦が始まると八郎軍の前から離脱した者たちもいる。
彼らは八郎家へ敵対する気はないが、すぐに傘下へ入る覚悟もできていなかった。
「数日間は、周辺の国人衆との挨拶に時間を使います」
八郎は西園寺家の当主や重臣たちも同席させ、順番に国人衆を招いた。
「戦の際は、河野家の命令を断れず、申し訳ございませんでした」
国人衆の一人が深く頭を下げた。
「その事情は聞いております。実際、皆様は約束どおり、ほとんど戦わずに退いてくださいました」
「我らは今後、どのようにすればよろしいのでしょうか」
「まずは帳面を出してください」
八郎の答えは、相変わらずだった。
「農民、侍、城や館が、どこからいくら借りているのか。米で借りたのか、銭で借りたのか。
利息がどれほど積み上がっているのかを確認します」
「従うかどうかより、先に借金を見るのでございますか」
「借金の額が分からなければ、土地をどう回すか決められませんからね」
西園寺家の家臣たちは、すでに何度も聞いた話だったが、国人衆は戸惑っている。
「八郎家へ入れば、城や土地は奪われるのでございましょうか」
「約束を守っていただけるなら、できる限り残します」
「我らの兵は」
「市や街道の警備へ回っていただきます。河野家との境を見張る仕事もあります」
八郎は、国人衆をその場で解体するつもりはなかった。
むしろ土地を知る者たちを新しい仕組みへ組み込み、治安維持や市の警備を任せる。
「ただし、今までどおり勝手に通行税を取ったり、農民へ無理な徴発をしたりすることは認めません」
「その代わり、給金を出していただけるので?」
「働いた分は出します」
八郎商会の帳面役が入り、国人衆ごとに土地、人口、借金、米の収穫量、使える道や
港を書き留めていく。
同時に、市では米、野菜、薪、魚、布などの買い取りを始めた。
まだ借金の整理が終わっていない農民にも、市へ品を持ち込めば、その場で銭を渡す。
「一部を返済へ回したい者は、帳面へ記してください」
「全部、借金に取られるのではないのですか」
「生活できなくなれば、また借りることになります。飯を食べる分は残してください」
農民たちは、半信半疑ながら品を運び始めた。
西園寺家の元家臣たちも、市の警備や荷物の確認へ入れられた。
「わしらが、米俵の数を数えるのか」
「城を守るのも、米を守るのも、似たようなものでしょう」
「まったく違うと思うが」
「慣れてください」
八郎は笑って答えた。
兵たちにも数日間の休息が与えられた。
西園寺城を囲み、河野軍と戦い、その後も長い追撃を行っている。
八郎軍の損害は大きくなかったが、疲れはたまっていた。
「今日は肉を多めに出してください」
「焼酎もよろしいので?」
「翌日に当番のない者だけ、少し多めに振る舞ってください」
城下や市の外れでは、大鍋で肉と野菜が煮込まれ、焼いた魚や握り飯も並べられた。
兵たちは久しぶりに鎧を脱ぎ、湯を使い、飯を腹いっぱい食べた。
「城を囲んで宴会して、戦が終わっても宴会か」
三郎が笑う。
「気力が落ちたまま次へ行く方が危ないですからね」
「次は河野家か」
「はい」
七月一週目には、九州から新たに二千の兵が四国へ渡っていた。
これで九州から四国へ入った兵は、合わせて一万二千となる。
ただし、その一万二千をすべて河野家へ向けるわけではない。
「新しく来た二千は、こちらへ残します」
「河野家へ連れていかないのでございますか」
「市と港、それから西園寺領の治安を固める方が先です」
二千の中へ、西園寺家の家臣や周辺国人衆の兵を少しずつ組み込む。
八郎家の兵だけで見回るのではなく、現地の者と一緒に動かすことで、道や村の事情を覚えさせる。
「西園寺家の元家臣だけで一つの隊を作らないようにしてください」
「反乱を防ぐためでございますか」
「それもありますが、八郎家のやり方を覚えていただくためです」
八郎家の兵、西園寺家の家臣、国人衆を混ぜる。
市の警備、街道の見回り、荷駄の護衛、帳面役の付き添いを順番に行わせる。
「河野家の方から小さな兵が来ても、この二千で市を守れるようにしてください」
「承知いたしました」
西園寺家の当主は、その配置を聞いて複雑そうな顔をした。
「わしの家臣が、もう八郎家の兵として動いておるのか」
「完全に切り捨てるより、その方がよいでしょう」
「昨日までお主と戦っておった者たちじゃぞ」
「だからこそ、仕事を渡します。何もさせずに集めておく方が危険です」
「本当に、戦の後の動きだけは早いな」
「戦より、その後の方が長いですからね」
数日間の休息と再編を終えると、八郎は河野家へ向かう兵を集めた。
動かすのは七千五百。
島津勢を中心とした戦慣れした兵に加え、河野軍との戦で動きを確認できた部隊をそろえる。
「河野家の城は頑丈だと聞いております」
「また飯を炊きながら行くのか」
「もちろんです」
荷駄には米、味噌、塩、干し魚、鍋、薬、武具が積まれた。
西園寺領や周辺の村から買った品も加わっている。
「河野家の領地へ入っても、略奪は禁止です」
「米は三倍で買いますか」
「最初から三倍にする必要はありません。話が通じない村や、兵糧として
急いで必要な時は上げてください」
河野軍から解放して帰した農民兵たちが、すでに村々で八郎軍の話をしているはずだった。
捕まっても殺されなかった。
武具は取られたが、温かい飯を食わせてもらった。
次に来た時は、借金や買い取ってほしい物を申し出ろと言われた。
「その話が、どれほど広がっているか確かめましょう」
「河野家を囲む前から、もう市の話か」
「囲んでから始めると遅いですからね」
八郎軍七千五百が、西園寺城下を出発した。
その後ろでは、新たに渡ってきた二千の兵と、西園寺家の家臣、周辺の国人衆が、
市と街道の警備を始めている。
八郎が前へ進むたび、後ろでは市と帳面が残された。
西園寺家を傘下へ入れた軍は、今度は河野家の城へ向けて、再び大鍋と荷駄を連ねながら
進み始めたのであった。




