1535年6月4週目。西園寺と河野の挟撃を避けるため城の門破壊。握り飯を大量に渡し、投降を促し1800まで削る。一方で河野家と対峙も国人衆の離脱の穴を薩摩勢に突っ込ませて河野本陣を崩す
西園寺城を囲んでから数日後、八郎軍は、ついに本格的な門攻めへ動いた。
「城を落とす必要はありません」
八郎は、攻撃を任せる島津勢へ念を押した。
「門を一枚か二枚壊して、中へ入れるということを見せてください。ただし、
無理に奥まで入らないように」
「承知いたしました」
「それから、戦う気のない者は殺さないでください。武器を捨てれば、そのまま通して構いません」
島津の将は、八郎の後ろに並ぶ荷駄を見た。
「握り飯まで用意しておられるので?」
「空腹の者へ、投降しろと叫ぶだけでは弱いですからね」
夜明けとともに、島津勢が一斉に前へ出た。
これまでのような小さな攻撃ではない。
盾を並べ、丸太を担ぎ、矢を防ぎながら城門へ駆け寄る。
「押せ!」
「門をぶち破れ!」
丸太が何度も門へ打ちつけられた。
すでに数日間、昼夜を問わず揺さぶられていた城兵には、それを止めるだけの
勢いが残っていなかった。
大きな音とともに、門の一部が内側へ倒れた。
「門が破られたぞ!」
島津勢が、崩れた門の向こうへ雪崩れ込む。
ただし、八郎の命令どおり、深くは入らなかった。
「戦う気のない者は、武器を捨てろ!」
「首は取らん!」
「こちらには、うまい飯があるぞ!」
島津勢の後ろから、飯炊きの者たちが荷駄を押して現れた。
籠いっぱいの握り飯が運ばれ、城門の前へ積み上げられる。
「握り飯やぞ!」
「味噌汁もあるぞ!」
「武器を置いた者から食わせる!」
城内の兵たちは、思わず顔を見合わせた。
何日もまともに眠れていない。
冷えた飯を少しずつ分け合い、城外から漂ってくる味噌や焼き魚の匂いに耐えてきた。
その目の前に、白い握り飯が山のように置かれている。
一人の農民兵が、持っていた槍を落とした。
「わしは、もうええ!」
その男が城門へ走る。
西園寺家の侍が止めようとしたが、別の兵も武器を捨てた。
「待て!」
「逃げるな!」
「河野様の援軍が、もうすぐ来るのじゃぞ!」
だが、一度崩れ始めると止められなかった。
槍を置き、刀を投げ、門の外へ走る。
島津勢は、投降した者へ攻撃せず、左右へ道を開けた。
「握り飯はここや!」
「食ったら、そのまま村へ帰ってもええぞ!」
城兵たちは握り飯をつかみ、八郎軍の後方へ走っていく。
島津勢は、城内へ入れるだけの力があることを見せた後、深追いせずに引き上げた。
崩れた門の前には、大量の握り飯だけが残された。
「なめくさりおって……!」
西園寺の当主は、城内からその様子を見て歯を食いしばった。
門を壊したうえで、城を落とさず、飯だけ置いて帰る。
まるで、いつでも城へ入れると見せつけているようだった。
「逃げた者を捕らえよ!」
侍たちが後を追ったが、すでに遅い。
城内にいた二千五百の兵は、逃亡や投降によって、千八百ほどまで減っていた。
西園寺軍は、河野軍が到着すれば城から打って出るつもりだった。
しかし、門は壊れ、兵も減っている。
城を空ければ、八郎軍が一気に中へ入る。
「これでは、援軍が来ても簡単には出られぬではないか」
西園寺の当主は、ますます難しい立場へ追い込まれた。
一方、河野軍は、周辺国人衆を含めた八千で南下していた。
「西園寺城の門が破られたそうです」
「何じゃと」
「さらに、兵が七百ほど逃げたとのこと」
河野家の将は、あきれたように吐き捨てた。
「まったく、頼りにならぬな」
「しかし、城が落ちる前に急がねばなりません」
「分かっておる。斥候を出しながら進め」
待ち伏せを警戒しながらではあるが、河野軍は行軍を速めた。
それに対し、八郎軍も配置を変えた。
西園寺城の監視には千を残す。
新たに四国へ上陸した二千を加え、河野軍へ向ける兵は八千となった。
「これで、八千対八千ですな」
三郎が言う。
「表面上は、ですけどね」
河野軍の先陣二千は、すでに八郎と話をつけている国人衆だった。
やがて両軍は、街道沿いの開けた土地で向き合った。
河野軍は、国人衆二千を最前列へ置き、その後ろへ本隊六千を並べている。
「国人衆が八郎軍を受け止めたところで、第二陣を押し出す」
河野家の将は、そう考えていた。
太鼓が鳴り、国人衆が前へ出る。
最初に矢を放ち、八郎軍へ向かって突撃するような姿勢を見せた。
「来ます!」
「島津勢、前へ!」
八郎軍の中から、島津勢が勢いよく飛び出した。
国人衆と正面からぶつかると思われた、その瞬間。
国人衆の陣が、左右へ割れ始めた。
「押されたぞ!」
「退け!」
「陣を立て直せ!」
声を上げながら、国人衆たちは左右の山や脇道へ流れていく。
八郎軍は、その者たちを追わなかった。
開いた中央を、島津勢がそのまま駆け抜ける。
「止まるな!」
「河野本隊まで行け!」
河野軍の将は、目の前の光景を理解できなかった。
「何をしておる!」
「国人衆が、左右へ逃げております!」
「戻せ!」
「止まりませぬ!」
国人衆が八郎軍を受け止め、その後ろから河野本隊が押し出すはずだった。
ところが、先陣二千は一度矢を放っただけで消えた。
第二陣として構えていた河野本隊が、突然最前列へさらされたのである。
「敵が来るぞ!」
「槍を出せ!」
「早すぎる!」
陣形を整える暇もなく、島津勢が河野軍へ突き込んだ。
先陣が耐えている間に進むつもりだった兵。
まだ槍を構えていない者。
前の国人衆を押すため、間隔を詰めていた者。
それらが一斉にぶつかり合い、河野軍の前列は大きく乱れた。
「押し込め!」
島津勢の後ろから、八郎軍の本隊も続く。
八千対八千だったはずの戦は、始まった直後に八千対六千へ変わった。
しかも六千の河野軍は、自分たちが第一陣になるとは思っていなかった。
前列が崩れ、命令が届かず、左右へ逃げた国人衆が土煙を上げる。
河野軍の陣形は、戦が始まって間もなく、大きく崩れ始めていたのであった。




