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1535年6月3週目。西園寺家の当主が八郎と面会も印象が悪いwww軍勢並べて話し合いとは脅しだろうがwww

六月三週目、西園寺家の当主が、八郎の陣屋へ到着した。

 国境には八郎軍四千が並び、その後ろからは、さらに兵が渡ってくると聞いている。

 道中では、新しく立ち上がった市も見た。

 九州から運ばれた鍋、布、焼酎が並び、周辺の農民たちが米や野菜、薪を持ち込んでいる。

 兵たちも給金を使って飯を食い、酒を買うため、市は戦の最中とは思えないほど賑わっていた。

 それでも、西園寺の当主の心象がよくなることはなかった。

「先に申し上げておくが、心象はよくないですぞ」

 対面するなり、当主は不機嫌そうに言った。

「ごもっともでございます」

 八郎は畳へ手をつき、素直に頭を下げた。

 あまりに小さな姿を見て、西園寺の当主は眉をひそめた。

「それで、父上か、守役の方はどこにおられる」

「父上は九州におります。ですが、この話を決めるのは僕です」

「何?」

「僕が八郎家の当主でございますから」

 西園寺の当主は、八郎と、その後ろに並ぶ家臣たちを交互に見た。

「わしらは、この五歳児に、ここまで振り回されておるのか」

 吐き捨てるような言葉に、八郎の家臣がすぐ反応した。

「西園寺様。八郎様に対して、あまりに無礼ではございませんか」

「お前たちは、何とも思わんのか」

「見た目は幼くございます」

「見た目は、という言い方もどうかと思いますけどね」

 八郎が小さく口を挟んだが、家臣はそのまま続けた。

「しかし八郎様は、言葉だけではなく、数字を出されております。それゆえ我らは、

 安心してお任せしているのです」

「数字、じゃと」

「今や九州は、八郎様がほぼまとめたようなものでございます」

「この子供がか」

「はい。この五歳児が、肥前、肥後、薩摩、大隅、日向をまとめ、島津本家、分家とも婚姻を結び、

 大友家へ市を教え、大内家とも一年の停戦を結んでおります」

 西園寺の当主は、まるで冗談を聞かされたような顔をした。

「信じられるわけがなかろう」

「五千万文も嘘だとお考えですか」

「それも本当か」

 八郎は陣屋の外を指した。

「ここへ来るまでに、ご覧になったでしょう。市の賑わい、兵の数、倉へ積まれた米や焼酎、

 鍋、布、銭箱を」

「見た」

「それらを持ち込んだのは僕たちです」

「それを、お主が動かしているとは、とても見えん」

「見えないものは、仕方ありません」

 八郎は肩をすくめた。

「ただし、今動いている数字と、目の前にある状況だけは、頭へ入れていただきたいです」

 西園寺の当主が黙る。

「そのうえで、戦うか、八郎家の傘下へ入るかを、選んでいただければと思います」

「それが脅しじゃと言うておる!」

 当主が声を荒らげた。

「四千の兵を国境へ並べ、後ろには二万がおる。五千万文の銭と物資を持ち込み、

 戦うか降るか選べ。それを脅しでないと言うのか」

「脅すつもりはないのですが」

「つもりの話ではない!」

 八郎は少し困った顔をした。

「こちらも数万の兵を動かしておりますので、何も決めず、何か月も待つわけにはいかないのです」

「それは、お主らの都合であろう」

「はい。こちらの都合です」

 八郎はあっさり認めた。

「ずいぶん身勝手じゃな」

「それも、ごもっともでございます」

「認めるのか」

「取り繕っても仕方ありませんからね」

 八郎家の目的は、できるだけ早く伊予と土佐を安定させ、市と交易を回すことにある。

 兵を何年も置けば、兵糧も銭もかかる。

 農民も商人も落ち着かない。

「ですから、できるだけ穏便に、手早く話をまとめたいと思っております」

「手早く土地を奪いたい、の間違いではないか」

「土地を奪うより、市を入れたいのです」

「同じようなものじゃ」

「少し違います」

 八郎は手元の帳面を開いた。

「西園寺家の城、侍、農民が、どれほど借金を抱えているのかを見せてください。

 利息を下げ、返済の順番を決めます」

「見返りは」

「八郎商会の市を入れること。交易へ参加すること。そして、八郎家の傘下へ入っていただくことです」

「やはり従えという話ではないか」

「はい」

 八郎は否定しなかった。

「ただし、城も家名も、できる限り残します。西園寺様も、帳面の内容に大きな問題がなければ、

 そのまま土地を治めていただいて構いません」

「問題があればどうする」

「隠居をお願いするかもしれません」

「勝手なことを」

「ですが、命を取るつもりはありません。八郎領で自由に暮らしていただいて大丈夫です」

「それを温情のように言うでない」

 西園寺の当主の怒りは収まらなかった。

 しかし、八郎も席を立たない。

「西園寺様が納得されないお気持ちは分かります」

「分かるなら兵を引け」

「それはできません」

「なぜじゃ」

「僕たちは、もう三万五千石ほどの国人衆を傘下へ入れております。

 その者たちを守る必要がありますから」

 八郎家へ従った国人衆を放置して兵を引けば、西園寺家や周囲の勢力から報復される可能性がある。

「一度、こちらへついてくださった方は守ります。それを破れば、九州で積み上げた信用まで崩れます」

「だから、さらに兵を進めると」

「はい」

「やはり脅しではないか」

「そう見えるのは、もう仕方ありませんね」

 八郎は小さく息を吐いた。

「ただ、農民の方々からは、すこぶる好評なんです」

「農民を使って城を弱らせておるだけではないか」

「農民が米や野菜を高く買ってもらい、借金が減り、飯が食えるなら、

 それはよいことではありませんか」

「領主の立場はどうなる」

「帳面をきれいにして、市を回していただければ、領主として続けられます」

 九州では、その方法で多くの土地が八郎家へ入った。

 戦で城を焼くより、農民へ飯を配り、品を買い、領主の借金を整理した方が、土地の回復も早かった。

「僕は、まだ五歳です」

「それは見れば分かる」

「ですから、時間はたくさんあります」

 八郎は笑った。

「できれば日の本中へ八郎商会の市を作りたいと思っております」

「話が大きすぎるわ!」

 西園寺の当主が思わず怒鳴った。

「九州がだいたい終わりましたので、次は四国かなと」

「子供の遊びのように申すな!」

「大内様とは一年停戦しておりますから、本州へ行くのは筋が違いますし」

「そんな理由で四国を攻められてたまるか!」

「ですから、攻める前に話し合っております」

「四千並べてから言う言葉か!」

 広間の空気が張りつめる。

 西園寺の当主は立ち上がりかけたが、重臣に止められ、再び腰を下ろした。

 八郎も、少しも目をそらさなかった。

「すぐに返事をいただかなくても構いません」

「何日待つ」

「三日ほどで」

「短すぎるわ!」

「兵が毎日、飯を食べますので」

「五千万文持ってきたのであろう!」

「だからといって、無駄遣いはできません」

 あまりに真面目な返事に、西園寺の当主は怒ればよいのか、あきれればよいのか分からなくなった。

「本当に、何者なのじゃ、お主は」

「庄屋の八男で、混ぜ飯売りから始めた五歳児です」

「それが一番、信じられんのじゃ!」

 初めての面談は、穏やかな合意には至らなかった。

 ただ、西園寺家の当主も、八郎がただの飾りではないことだけは認めざるを得なかった。

 目の前の五歳児は、怒鳴られても逃げず、兵も銭も帳面も、自分の責任として動かしている。

 そして、その小さな手で、四国を本当に飲み込もうとしていたのであった。

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