表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
623/635

1535年6月3週目。仮の帳面合わせと西園寺家領に4000の兵を並べて交渉。5000万文を現金・現物を持参。3倍で領地の兵糧を買い集めながら包囲すると脅すwww

六月三週目、南予に設けられた陣屋で、八郎は四国へ渡ってから初めてとなる

本格的な帳面合わせを行った。

「まず、九州側の数字から確認いたします」

 帳面役が各地から届いた報告を読み上げる。

「肥前に残っておりました農民衆の借金は、ほぼすべて消えたものと見られます。

その御礼として、市への持ち込みや寄付が、合わせて二百万文ほどございます」

「ありがたいことですね。ただし、無理に出していただいていないかは確認してください」

「承知しております」

「交易利益は、今週およそ一千二百万文と見込んでおります」

 八郎たちが四国へ渡ったことで、九州と南予を結ぶ船が増えた。

 兵糧や武具を運んだ船は、帰りに魚、塩、木材などを積む。往復とも荷を空にしないよう

 流れを整えたことで、交易の利益は急速に伸びていた。

「領内の市、加工場、農業、湯浴み場などからの利益は、ひとまず三千万文で計上してください」

「城の借金についてはいかがいたしますか」

「確認しやすいものだけ、少しずつ消してください。ただし、侍方の借金をまとめて返すのは、

 今回はやめておきます」

 八郎が伊予にいる間も、九州の市と商いは動いている。

 しかし複雑な証文を一枚ずつ確認し、大きく帳面から消すには、八郎自身の目が必要だった。

「伊予の市の立ち上げ費用については、今は返さなくて構いません。ただし、何にいくら使ったか、

 備忘録として必ず残してください」

「市が安定した後、利益から順番に戻すのでございますな」

「はい。帳面に残っていれば、後から見失いませんから」

 新しく立ち上げた伊予の市についても、報告があった。

「思った以上に、利益が出ております」

「それはそうでしょう」

 八郎は苦笑した。

「五千人、六千人近い兵が、毎日ばくばく飯を食べておりますからね」

 当初、市は立ち上げ費用と炊き出しで、ほぼ収支が合わないと見られていた。

 しかし、兵たちが給金を使って飯や酒、日用品を買うため、店は連日混み合っている。

「最大に近い稼働でございます。味への不満はいくらかございますが、三郎様や市の立ち上げに

 慣れた者たちが見ておりますので、大きく品質が落ちることはありません」

「それなら順調ですね」

 八郎は帳面を閉じ、次に軍勢の配置へ話を移した。

「近いうちに、さらに二千人が上陸します」

「その者たちは、どちらへ向けますか」

「土佐一条家との境に配置してください。半分は国境の警備、半分は市と街道の護衛です」

 現在南予にいる四千人については、西園寺家との境へ動かす。

「四千を並べたうえで、西園寺家へ書状を出しましょう」

「四千の兵を国境へ置いて、話し合いを申し込むのでございますか」

「はい。仲よくできる可能性があるか、まず聞いてみます」

 三郎が横から苦笑した。

「それ、相手からしたら恫喝やで」

「いえいえ。こちらは先に条件を示しますから」

 数日後、西園寺家へ八郎の書状が届いた。

 読み終えた当主は、顔をしかめた。

「四千の兵を境へ並べて、話し合いたいとは何事じゃ。これは恫喝ではないか」

 使者は丁寧に頭を下げた。

「八郎様としては、まず争わずにお話をしたいとのことでございます」

「兵を引いてから申せ」

「我らはすでに南予の国人衆から、三万五千石ほどの土地をお預かりし、

 八郎家の傘下へ入っていただいております」

「預かった、という言い方をするのか」

「はい。土地を奪い、当主筋を皆殺しにするために来たわけではございません」

 八郎家が求めるのは、農民、侍、城が抱える借金の帳面を出すこと。

 八郎商会の市を入れること。

 そして、八郎家の傘下へ入ることだった。

「帳面を確認し、財政を整えたうえで、城も家名も残す。それが我らの基本でございます」

「当主も、そのままか」

「帳面の内容次第では、一度隠居をお願いする可能性はございます」

 使者は隠さず答えた。

「ただし、八郎領内で自由に暮らしていただくことはできます。家臣団も皆殺しにはいたしません。

 必要に応じて組み直し、市や兵の仕事へ移っていただきます」

「ずいぶん勝手な話ではないか」

「話がまとまらなければ、残念ながら城を囲みます」

 広間の空気が張りつめた。

「やはり、攻めるつもりではないか」

「できる限り、人の命は取りません」

 八郎軍は、城を力攻めする前に、周囲の農民へ大量の炊き出しを行う。

 さらに米、野菜、薪などを、通常より高い値で買い取る。

「城へ兵糧を運ぶより、八郎商会へ売った方が得だと思っていただきます」

「どれほどの値で買うつもりじゃ」

「必要であれば、普段の三倍で買います」

 西園寺家の家臣たちがざわめいた。

「三倍など、何日続けられる」

「九州では、そのやり方で領地を広げてまいりました」

「銭が続くはずがなかろう」

 当主が吐き捨てるように言うと、使者は静かに答えた。

「此度、八郎様は、銭と物資を合わせて五千万文ほど四国へ持ち込んでおります」

「五千万文……?」

「はい。兵糧だけではございません。市の仕入れ、炊き出し、借金の整理、

 降伏後の立て直しに使うための銭でございます」

 西園寺家の当主は、言葉を失った。

 四千の兵が国境へ並んでいる。

 その後ろから、さらに二千、四千と兵が渡ってくる。

 最終的には、二万一千。

 しかも、その軍は兵糧を奪いながら進むのではない。

 周囲から三倍の値で買い取り、農民を城から引き離し、市へ集める。

「これが……八郎家の戦い方か」

「はい。できれば戦わず、帳面を見せていただきたいと考えております」

「拒めば、農民へ飯を配り、兵糧を三倍で買い、城を囲むと」

「そのようになります」

「どこが友好的な話し合いなのじゃ」

「城へ攻めかかる前に、選んでいただけます」

 使者の返答に、西園寺家の重臣たちは青ざめた。

 普通の軍なら、長く滞在するほど兵糧が減る。

 八郎軍は、市を立ち上げ、商いを回しながら居座る。

 時間をかければ疲れるどころか、周囲の農民や国人衆を味方へ変えていく。

「一度、八郎殿本人と話をさせてもらいたい」

 当主は、ようやくそう答えた。

「承知いたしました。八郎様も、それを望んでおられます」

 使者が去った後、西園寺家の広間には長い沈黙が残った。

「五千万文を持ってきて、兵糧を三倍で買う、か」

「戦う前に、こちらの軍が集まらなくなるかもしれませぬ」

「恫喝どころではないな」

 西園寺家の当主は、額へ手を当てた。

 八郎軍は、まだ城を一つも攻めていない。

 しかし四千の兵と五千万文を並べただけで、西園寺家の者たちは、

 自分たちの城がすでに包囲され始めているように感じていたのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ