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1535年5月4週目。大友大内八郎の三者面談で方針が決まる。大内の姫君の遊学の前に縁が決められる部分を決めきる。五郎と八郎。

大友、大内、八郎家による三者会談が終わってから数日後、八郎は兄たちと、

 屋敷に滞在している姫君たちを広間へ集めた。

「皆様に、喜ばしいお知らせがあります」

 八郎が満面の笑みを浮かべると、兄たちは一斉に嫌そうな顔をした。

「その顔で言う時は、だいたい俺らに面倒な話やろ」

「そんなことはありませんよ。三者の停戦がまとまり、大内家からも姫君が遊学に

 来られることになりました」

 八郎は兄たちへ向き直った。

「嬉しいお知らせですね、兄様方」

「何が嬉しいねん」

 三郎が即座に返した。

「お前、また俺らの反応を見て楽しんどるだけやろ」

「いやいや、姫君にも選ぶ権利がございますからね。大内家の姫君には、兄様方を一通り

 見ていただきます」

「何の品定めや」

「側室候補として見るのも一つですし、八郎領で別の殿方との縁談を探すのも一つでしょう」

 姫君には、市の仕事を手伝いながら八郎家や周辺の家々を見てもらう。

 四国へ同行するのであれば、新しい市を立ち上げるところも見られる。九州に残るのであれば、

 父母のもとで八郎領の暮らしや商いを学んでもらえばよい。

「側室になることだけが、遊学の目的ではありません。市を学びながら、

 気の合う殿方がおられれば紹介する。それで十分です」

「それなら最初から、俺らを候補に入れんでええやろ」

「それは姫君が決めることでございます」

 八郎は真顔で言い切った。

「一郎兄様、ニ郎兄様、四郎兄様については、側室を迎えるかどうか、早めに意思を示してください」

「迎えへん言うてもええんか」

「もちろんです。それも姫君に対する優しさです」

 期待を持たせたまま何年も待たせるより、迎える意思がないなら早く伝える。

 その方が八郎も、別の殿方を紹介できる。

「ただし、兄様方全員が迎えませんと言うのは困ります」

「何でや」

「八郎家の規模を考えると、正室と側室二人ほどはいていただかないと、家同士の縁が足りません」

「八郎が勝手に人数を決めるな」

 兄たちが不満そうな声を上げる中、八郎は次の者へ目を向けた。

「三郎兄様と五郎兄様は、とりあえず一人ずつ決めてください」

「何で俺らだけ具体的なんや」

「五郎兄様は、裏でこっそり島津の姫君と会っておられるでしょう」

 五郎の肩が跳ねた。

「こっそりちゃうわ。たまたま市で会うただけや」

「何度もですか」

「何度もたまたま会うこともあるやろ」

 すると、姫君たちの中から一人の島津家の姫が立ち上がり、五郎の横まで歩いてきた。

「私は、五郎様のおそばにいたいと思っております」

「今ここで言うんか」

「五郎様は、私がお嫌いでございますか」

「嫌いやないけども……」

「では、よろしいですね」

 姫君は五郎の腕を取り、そのまま離さなかった。

 八郎が嬉しそうに手を打つ。

「はい、一つ縁が結ばれました。おめでとうございます」

「話の進め方が雑すぎるやろ!」

 五郎は顔を赤くしたが、腕を振りほどこうとはしなかった。

「ただし姫君も、覚えておいてくださいね」

 八郎が付け加える。

「五郎兄様には、今後ほかにも側室を迎えていただく可能性があります」

 島津の姫君は一瞬だけ笑顔を止め、それから五郎の腕をさらに強く抱いた。

「承知しております。ですから今のうちに、存分に独占させていただきます」

「痛い、痛い」

「仲がよろしいことで」

「八郎、お前が言うな」

 広間に笑いが広がった。

「次は三郎兄様ですね」

「勝手に次へ行くな」

「候補の姫君を一人選ぶか、選ばないなら早く自由にしてあげてください。

 僕が別の殿方を探しますから」

「何でお前に急かされなあかんねん」

 その時、ニ郎が意地の悪そうな笑みを浮かべた。

「兄らのことばっかり言うとるけど、八郎はどうするんや」

「僕ですか」

「姫君たちを側室に入れろ入れろ言うて、自分だけ何も決めへんつもりちゃうやろな」

 広間の視線が、一斉に八郎へ集まった。

 その中には、島津本家から来ている夏姫の姿もあった。

 八郎は少し考えた後、夏姫へ向き直った。

「僕は、島津本家の夏姫様を、正式に側室としてお迎えしたいと思っております」

 広間が一瞬、静まり返った。

 夏姫は目を見開き、それから頬をほんのりと赤くした。

「正式に、でございますか」

「はい」

 八郎はまっすぐうなずいた。

「今までも夏姫様を筆頭に考えているとお伝えしておりましたが、曖昧なままお待たせするのは

 よくありません。順番だけでいえば、もう側室の席へ入っていただいてもよいと思っております」

 夏姫の表情が、わずかにほころんだ。

「では、八郎様のおそばに置いていただけるのですね」

「もちろんです」

「ありがたき幸せにございます」

 夏姫は深く頭を下げたが、顔を上げた時には、隠し切れない喜びが浮かんでいた。

「ただし、正式に夫婦として形を整えるのは、僕が元服する頃になると思います」

「元服の時期でございますか」

「はい。側室としての席や扱いについては、先に決めて構いません。ただ、その……子を作ることに

 ついては、あと七年か八年ほど待っていただかないと無理です」

 あまりにも具体的な言い方に、兄たちは一瞬黙った。

 その後、広間中から笑いが噴き出した。

「そこだけ妙に具体的やな!」

「兄らの側室は今すぐ決めろ言うといて、自分は七、八年待てか!」

「仕方ないでしょう。僕はまだ五歳ですよ」

 八郎は真面目な顔で答えた。

「側室としてお迎えすることと、子を作れる年齢かどうかは別の話です」

「五歳児の口から聞きたくない話やな」

「でも大事なことですから、先にお伝えしておいた方がよいでしょう」

 夏姫は頬を赤くしたまま、少しうつむいた。

「私は、待たせていただきます」

「七年か八年ですよ」

「はい。それでも、正式にお迎えいただけると分かっただけで嬉しゅうございます」

 その言葉に、八郎も少し照れたように視線をそらした。

「それでは、夏姫様を僕の側室として正式にお迎えすることで、父上と母上にも話を通します」

「おめでとうございます」

 姫君たちから声が上がり、広間に拍手が広がった。

「八郎様も一つ決められましたね」

「これで兄様方だけを急かしているとは言われません」

「いや、お前は七、八年先やろ」

「籍は今から入れてもよいと申し上げました」

「そこを強調するな」

 兄たちの突っ込みに、再び笑いが起こった。

 大内家から新しい姫君が来る前に、五郎の縁が一つ結ばれ、八郎も夏姫を正式に側室へ

 迎える意思を示した。

 残された兄たちは、期待に満ちた姫君たちと、笑顔を浮かべる妻たちに囲まれながら、

 自分たちだけ逃げ続けることが難しくなっていることを悟るのであった。

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