1535年5月4週目大内、大友、八郎三者で会合。1年の休戦期間の合意と交易協力、領地分割、姫の遊学が決まる。
五月四週目、大内、大友、八郎の三者による会合が、八郎の屋敷で開かれた。
大内の当主が席に着くと、まず深く頭を下げた。
「此度は、我らの申し出を受け、話し合いの場を設けていただき、感謝いたします」
「こちらこそ、腹を割ってお話しいただき、ありがとうございます」
八郎も丁寧に頭を下げた。
「正直に申し上げますと、大友様と共に、大内様の九州領へ兵を向ける準備は進めておりました」
「やはり、そうであったか」
「はい。ただ、博多の市を開放し、大内領の交易路を使わせていただけるのであれば、
僕としては停戦を飲めます」
八郎が求めたのは領地ではない。
博多へ八郎商会の店や倉を置くこと。大内領の港や街道を使い、瀬戸内や畿内まで品を運ぶこと。
そして、各地の値段をまとめた相場表を作り、互いに不足する品を融通することだった。
「さらにお願いするなら、明との交易へ、八郎商会の荷も少し載せていただきたいです」
「その件も、条件を詰めたうえで認めよう」
大内の当主が答えると、八郎は頭を下げた。
「ありがとうございます。それならば、八郎家として一年の停戦に異存はありません」
そこで大内の当主は、もう一つの話を出した。
「停戦後、大内家の姫を八郎家へ遊学させたいと考えておる」
「その件について、先にお伝えしなければならないことがあります」
八郎は少し申し訳なさそうに言った。
「実は今、先遣隊七千を四国へ向かわせております」
大内と大友の当主が、同時に八郎を見た。
「もう兵を出しておるのか」
「まだ九州を出たばかりです。今回の停戦がまとまれば、僕も本隊を率いて伊予へ向かいます」
「どこまで進むつもりじゃ」
「伊予と土佐をある程度まとめます。ただし、阿波と讃岐には手を出しません。
三好家の勢力と正面からぶつからないところで止めます」
兵を出すだけではない。
城や国人衆を傘下へ入れ、市を開き、借金を整理する。八郎はそれをもって、
四国の半分ほどを安定させるつもりだった。
「そのため、姫君がすぐ九州へ来られても、僕や兄たちが不在になる可能性があります」
「では、遊学は延期した方がよいか」
「二月ほど後に来ていただくか、伊予が落ち着いたところで、大内領から四国へ渡っていただく
方法もあります」
「戦場へ姫を連れていくと申すか」
「戦場というより、新しい市の立ち上げを見ていただきます」
大友の当主が苦笑した。
「二万の兵で城を囲む場所を、視察先と呼ぶのは八郎くらいじゃな」
「できるだけ戦わず、仲よくしていただく予定です」
「また柔らかく言い換えておるな」
広間に小さな笑いが起きた。
「姫の件は、大内家で改めて相談しよう」
「お願いします。九州へ来ていただくか、伊予で合流するかは、そちらへお任せいたします」
続いて、八郎は大友の当主へ話を振った。
「大友様としては、今回の条件はいかがでしょうか」
「一年の停戦であれば飲める」
大友の当主は、はっきり答えた。
「一兵も出さずに領地を得られ、博多の市と交易路まで使えるのであれば、悪い話ではない」
八郎が領地を受け取らなかった分、大内から大友へ筑前の一部を割譲する。
「二十万石は、さすがに難しかろう」
大内の当主が言うと、大友も笑った。
「分かっておる。十万石から、切りのよい十二、三万石ほどでどうじゃ」
「その程度ならば、話を詰められる」
「ならば、それでよい」
大友の当主は、思った以上にあっさり引いた。
「八郎殿との足並みを崩すわけにもいかぬ。それに、八郎殿が博多を戦で取らぬ代わりに四国へ
向かうというなら、今回の会合をまとめるつもりなのも分かる」
大友家は土地と交易権を得る。
八郎家は博多、大内領、明との交易へ進む。
大内家は、九州をすべて失う危険を一年間避ける。
「では、大筋はこれで決めましょう」
八郎の言葉に、二人の当主もうなずいた。
細かな土地の境、関銭、積荷の割合などは、実務の者たちが引き続き詰める。
「それから、豊後で姫君たちの縁談が三つほどまとまりそうだと聞いておる」
大友の当主が話題を変えた。
「はい。一組につき十五万文の祝儀を出すことにしました」
「十五万文も出すのか」
大内の当主が驚いた。
「最初は、一組につき四十五万文を出そうと思ったのですが、帳面役から止められまして」
「なぜ四十五万文なのじゃ」
「四十五で、始終ご縁がありますように、です」
八郎は真顔で説明した。
「四十五を『しじゅうご』と読みまして、夫婦のご縁が初めから終わりまで、
ずっと続くようにという意味です」
「その語呂合わせのために四十五万文を出すつもりであったのか」
「はい。ですが多すぎると言われたので、三組合わせて四十五万文にしました。一組十五万文です」
「十五には、どのような意味がある」
「十分なご縁がありますように、です。十で十分、五でご縁です」
大友の当主はしばらく八郎を見た後、声を上げて笑った。
「八郎殿、それを言いたいがために金額を決めておるだけではないか」
「そうです」
八郎が素直に認めると、広間に笑いが広がった。
「言いたいがために十五万文を配るところがおかしいのじゃ」
「姫君が嫁ぎ先の市で布団や食材を買えば、市も回りますから」
「後からもっともらしい理由をつけるでない」
大内の当主まで笑っていた。
「九州を動かす者となり、金銭感覚が狂ってきたのではないか」
「僕は、混ぜ飯を作るところから始めたはずなんですけどね」
「その混ぜ飯が、博多と明と四国の話になっておるのじゃ」
張り詰めていた会合の空気が、ようやく和らいだ。
最後に大内の当主が、四国の絵図を見た。
「姫を伊予へ向かわせるなら、河野家の辺りで合流することになるかもしれんな」
「河野家のところまでは進むつもりです」
「大内、大友、八郎が互いに動かぬとなれば、河野が援軍を求められる相手も限られる」
「現実的には三好家でしょう。ただ、阿波や讃岐から伊予へ兵を出すには距離があります。
途中の国人衆も越えなければなりません」
「浦上や三村へ頼むにしても、さらに遠いか」
「はい。ですから、先に南伊予をまとめ、こちらの市と兵站を整えれば、十分に交渉できると思います」
「まったく、停戦を結ぶ席で、次に攻める土地の相談までしておるとはな」
大内の当主があきれたように笑う。
「動ける時に、順繰り動くだけです」
こうして三者は、一年間の相互不可侵を結ぶことで大筋合意した。
九州で五万の兵がぶつかるはずだった戦は避けられ、その一方で八郎の二万の兵は、
すでに四国へ向かおうとしていた。




