表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
608/643

1535年5月3週目。帳面合わせのあと、南伊予に各地から1000人ずつ集め7000の先遣隊を送ることを提案する。

五月三週目の帳面合わせを終えた後、八郎は各地の重臣や兄たちを、そのまま広間へ残した。

「もう一つ、皆さんに相談があります」

 そう言って八郎が広げたのは、九州ではなく四国の絵図だった。

「大内様、大友様との話がまとまる前に、南伊予へ先遣隊を出そうと思います」

 広間の者たちは、そろって八郎を見た。

「まだ三者の停戦は決まっておりませんぞ」

「はい。ですから、主力は動かしません」

 八郎が考えているのは、肥前、肥後、薩摩、島津本家、島津分家、大隅、日向から、

 それぞれ千人ずつを出すというものだった。

「合わせて七千人です」

「七千人を先に動かすのでございますか」

「はい。まず日向の港へ集め、船と兵糧を確認します。その後、南伊予へ渡ってもらいます」

 八郎家が本気で兵を集めるなら、三万人ほどは動かせる。

 しかし、大内との停戦が成立するか分からない段階で、そこまでの兵を九州から離すわけには

 いかない。

「七千なら、大内様との話が違う形になっても、九州側は肥前と肥後を中心に守れます。

 島津本家や分家にも、まだ兵を残せますから」

「しかし、七千でも十分に大軍ではありませんか」

「南伊予の国人衆を相手にするなら、十分でしょう」

 南伊予では、すでに八郎商会が炊き出しを行い、市や借金整理について話を進めている。

 八郎家の傘下へ入るか、周囲の国人衆と相談を始めた家もある。

「先遣隊には、いきなり城を攻めろとは言いません」

 まず、八郎商会を受け入れる国人衆の土地へ入り、港と市を守る。

 周囲の借金や小競り合いの状況を調べ、敵対する勢力と話し合う。

「八郎商会の市を認め、こちらに従うと言うなら、今の当主も城も残してください。

 借金についても、帳面を確認したうえで順番に面倒を見ます」

「従わぬ場合は?」

「七千の兵で城を囲みます」

 八郎は穏やかに答えた。

「ただし、無理に攻め上がる必要はありません。港と道を押さえ、兵糧が届かないようにして、

 こちらの条件を何度も伝えてください」

 城を落とすことより、城主と家臣、農民をまとめてこちらへ入れる方が大事だった。

「八郎様は、出陣されないのでございますか」

「今は行けません」

 大内、大友との停戦条件をまとめなければならない。

 博多の市場開放、大内領内での交易、明との貿易、大友へ譲られる土地。

 八郎本人が領地を離れれば、話が途中で止まる可能性がある。

「三者の話がまとまった後、僕が主力を連れて向かいます」

「主力とは、どれほどでございますか」

「状況次第です。ただ、南伊予だけで終わらせるつもりはありません」

 八郎は絵図の伊予と土佐を指した。

「当面の目標は、伊予と土佐を押さえることです」

 広間がざわついた。

「南伊予だけではないのでございますか」

「南伊予は入口です。そこから宇和の方へ進み、伊予を順番にまとめます。

 同時に南土佐へ入り、一条家とも話をします」

 ただし、四国すべてを一度に取るつもりはない。

「阿波と讃岐には、まだ手をつけません」

 そこは三好家の影響が強い土地である。

 今の段階で阿波や讃岐へ踏み込めば、三好家との全面的な争いへ発展しかねない。

「三好家との間で緩衝地帯になりそうな国人衆も、急いで攻め落とさないでください。

 こちらに従わなくても、三好に兵や物資を出さないなら、ひとまず残しても構いません」

「伊予と土佐まで取ろうというのに、話が早すぎませんか」

 兄の一人が、呆れたように言った。

「動く時は、早く動いた方がいいですよ」

 八郎は平然としていた。

「南伊予へ炊き出しを入れ、市の話まで進めているのに、何か月も何もしなければ、

 相手も守りを固めます。八郎家に従おうとしている国人衆も、不安になるでしょう」

 今なら、八郎商会への期待が先に広がっている。

 その期待が薄れないうちに兵を送り、八郎家が本当に国人や農民を守る意思があると

 示す必要があった。

「ですが、大内様との停戦が成立しなければ、二正面になるのではありませんか」

「三者の一年停戦は、六割か七割ほどの確率でまとまると思っております」

 大内にとっては、九州領をすべて失うより、一部の権益を開放して停戦する方がよい。

 大友も、一兵も出さずに土地と交易権を得られるなら、受け入れる可能性が高い。

「もしまとまらなかったとしても、先遣隊は七千です。南伊予で無理に領地を広げず、

 港を守って待てばよい。九州の守りには、まだ十分な兵が残ります」

 進む先は、南伊予と琉球の二つが考えられていた。

 しかし琉球は、今すぐ領地として押さえる必要はない。

「琉球は交易が続けば十分です。距離もありますし、逃げる場所でもありません。

 後からでも遅くないでしょう」

「先に南伊予を取ると」

「はい。伊予と土佐を押さえれば、九州から四国への道ができます。

 瀬戸内や畿内へ進む時にも使えますからね」

 七千人の兵は、七つの地域から千人ずつ出す。

 どこか一つの家だけに負担をかけず、各地の兵に海を渡る経験を積ませる意味もあった。

「兵だけを送るのではありません。八郎商会の者、帳面役、料理人、医者、鍛冶職人も一緒に送ります」

「戦へ行く一行には見えませぬな」

「土地を取った後、市を開けなければ意味がありませんから」

 城を囲む兵。

 農民へ飯を配る者。

 借金の帳面を調べる者。

 市を立て、物を仕入れる者。

 すべてを最初から同行させる。

「南伊予を軍だけで取るのではありません。八郎商会の仕組みごと持っていきます」

「また気づいた時には、領地になっているというわけですな」

「それが一番、人が死なずに済むでしょう」

 八郎はそう言って、四国の絵図を畳んだ。

「大内様との話は話として進めます。ただ、話がまとまるまで、ほかのすべてを止める

 必要はありません」

 七千人の先遣隊が南伊予へ入る。

 停戦がまとまれば、八郎が主力を率いて後を追う。

 目標は伊予と土佐。

 阿波と讃岐には触れず、三好との境を見極める。

「いよいよ、四国でございますか」

「まだ船を集めるところからですよ」

「八郎様の場合、その船を集め始めた時点で、もう半分始まっております」

 家臣の言葉に、広間から笑いが起こった。

 大内との戦を避ける交渉が進む裏で、戦わずに済んだ兵は、早くも別の海へ向かおうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ