1533年1月。庄屋の定期集まりの日。八郎の市での売上共有。売上8,000文利益2,000文。10か月で16万文利益いけてしまうwww
庄屋衆の集まりの日。
いつものように十人ほどが集まり、囲炉裏を囲んで座っていた。
ただ、以前とは少し空気が違う。
最初の頃は、
「三歳児が何を言うんや」
という半信半疑の目もあった。
だが今は違う。
自然と中心には八郎が座り、周りの大人たちが耳を傾ける形になっていた。
それを見て和尚は小さく笑う。
「ほんま、おかしな光景やな」
「何がですか?」
八郎が首を傾げる。
「三歳児を囲んで庄屋十人が話を聞いとるところじゃ」
「皆様が優しいだけですよ」
「またそれか」
和尚は呆れた。
そんな中、一人の庄屋が身を乗り出した。
「そういえば八郎」
「はい」
「聞いたぞ。マグロ売ったらしいな」
その言葉で場がざわつく。
「マグロ?」
「え、あの捨てる魚か?」
「そうです」
八郎は頷いた。
「赤身のところをいただいて、母上に味噌で炊いてもらいました」
「それが売れたんか?」
「はい」
「信じられんな……」
「私も最初は挑戦でした」
八郎は笑う。
「でも母上が上手に味付けしてくれました」
「それで?」
「四十人前ほど出しました」
「ほう」
「次は六十人前お願いしようと思っています」
その言葉に数人が笑った。
「もう増やすんか」
「はい」
「相変わらず早いな」
「ただ、作れるかは母上次第です」
八郎は続ける。
「あと、マグロは酒に合うんです」
「酒?」
「はい。味を少し濃くしておりますので」
「三歳児が酒のあて語るな」
その一言で皆が笑った。
「それで酒も売れました」
「なるほどな」
「酒が売れれば、また酒屋さんから仕入れます」
八郎は指を折る。
「魚を買う、野菜を買う、酒を買う、人を雇う」
「銭を回す、か」
和尚がつぶやく。
「はい」
すると別の庄屋が聞いた。
「それで結局なんぼ売れたんや?」
「今回ですか?」
「おう」
「八千百文ほどです」
場が止まった。
「……」
「……八千?」
「はい」
「半日でか?」
「はい」
しばらく沈黙。
そして一人が笑い出した。
「おいおい」
「はい?」
「お前、下手したら月十万文売るぞ」
「売り上げだけならですね」
八郎は冷静だった。
「毎回同じようにいけば、月六万から七万文くらいでしょうか」
「それでもおかしいわ」
「一年なら百万文くらいは見えるかもしれません」
その瞬間、全員が顔を見合わせた。
百万文。
三歳児の口から出る数字ではなかった。
「ただ」
八郎は続ける。
「売り上げと利益は違います」
「出た」
庄屋の一人が笑う。
「八郎の帳簿話や」
「大事です」
八郎は真顔だ。
「材料があります。人へのお手当があります。寺や市への寄進もあります」
そして帳簿を開く。
「今回、残った利益は二千文ほどです」
「……」
また沈黙。
「残りで?」
「はい」
「二千残ったんか」
「はい」
和尚が笑った。
「もう驚くのも疲れるな」
八郎は続ける。
「月八回できれば、一万六千文」
指で数字を追う。
「十ヶ月で十六万文です」
その数字に、庄屋たちの顔が変わった。
十六万文。
この前、全員が隠していた借金まで吐き出して出た数字。
「つまり……」
一人がつぶやく。
「わしらが頭抱えてたものが……」
「まだですよ」
八郎が止める。
「まだ計算の上です」
「いや」
別の庄屋が首を振る。
「道が見えただけでも違う」
皆が頷いた。
今まで借金は増えるものだった。
耐えるものだった。
それを三歳児が、
「減らせる」
と言っている。
「それでですね」
八郎が話を変えた。
「次、同じくらい売れたら湯浴みを頼もうと思います」
「もう次か!」
笑いが起きる。
「簡単なものです。湯船ではなく、体を拭くものです」
「例のやつやな」
「はい」
「三人雇うんやったか」
「はい」
八郎は頷く。
「火を見る人」
「銭を見る人」
「貸し布などを見る人」
「日当四十文」
「仕事を作ります」
庄屋たちは黙って聞いた。
「湯を浴びれば疲れも少し抜けると思います」
「……」
「働く場所ができます」
「……」
「銭が村で回ります」
一人の庄屋が小さく言った。
「どこまで考えてくれてんねん」
その声には笑いだけではなく、少し感謝が混ざっていた。
だが。
八郎は表情を引き締める。
「ただ」
「なんや?」
「気をつけないといけません」
一瞬、皆が固まる。
「今さらかい」
誰かが突っ込み、笑いが起きた。
しかし八郎は真面目だった。
「和尚様とも話しました」
和尚も静かに頷く。
「このままだと、うまくいきすぎます」
「……」
「十六万文の問題が解決しそうなんです」
誰も笑わなくなった。
「もちろん、うちが全部払うという意味ではありません」
八郎は説明する。
「仕事を作って、仕入れを増やして、皆様に銭が回る形にします」
「でも」
「はい」
八郎は頷いた。
「殿様から見たら、銭が増えたように見えるかもしれません」
庄屋たちは顔を見合わせる。
「つまり……」
「税を戻す」
「あるいは増やす」
八郎は言った。
「その可能性があります」
場が重くなる。
せっかく見えた希望。
それをまた取られるかもしれない。
「もしそうなったら」
一人の庄屋が言った。
「わしは八郎につくけどな」
「わしもや」
「ここまでしてくれたんや」
次々声が出る。
八郎は慌てた。
「待ってください」
「ん?」
「まだです」
その瞬間。
全員が止まる。
そして和尚が笑った。
「八郎」
「はい?」
「お前、今『まだ』言うたぞ」
「あ」
「普通は『そんなことしません』じゃ」
庄屋たちも笑い出した。
「三歳児が!」
「領主変える話で!」
「まだ、やと!」
八郎は困った顔をする。
「一個ずつです」
「否定せんのかい」
さらに笑いが起きた。
だが誰も馬鹿にはしていなかった。
三歳の小さな背中。
そこに、この土地の未来を見る者が少しずつ増えていた。




