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1535年4月4週目。豊後の大友での商会立ち上げに苦戦するも仕入れの仕組みが回り始める、あとは大友商会主体で頑張ってみて

四月も四週目に入った。

 豊後では、大友商会による市の立ち上げが続いていた。

 最初の市に続き、これまでに四つの地域で市を開くことができた。しかし、

 順調かと聞かれれば、決してそうではない。

「昨日の親子丼と、今日の親子丼では味が違います」

「魚のつみれも、場所によって固さがまったく違いますな」

「品物を置く場所が悪く、人が詰まっております」

「帳面の付け方を間違えておる者もおります」

 大友家の家臣や、大友商会の者たちからは、次々に問題が報告された。

 皆の顔には、早くも疲労と焦りが浮かんでいる。

 それを聞いた三郎は、帳面を確認した後、あまり気にした様子もなく言った。

「その辺は、今は気にせんでええですよ」

「しかし、客から味が違うと苦情が出ております」

「出るでしょうね」

 三郎はあっさり認めた。

「一つの地域だけでも、三万五千石ほどあります。その中に何十もの売り場を作り、

 大勢の者に料理させるんです。最初から全部同じ味になる方がおかしいですわ」

 親子丼の味が濃い店もあれば、薄い店もある。

 つみれが柔らかすぎるところもあれば、魚の臭みが残っているところもある。

 人の流れが悪く、料理を受け取るだけで長く並ばされる市もあった。

「もちろん、後から直します。ですが今は、味を完璧にすることより、市を立ち上げる方が先です」

 三郎は帳面の数字を指した。

「今回、農民から百何十万文分の品を仕入れられたのでしょう?」

「はい。およそ百万文を超えております」

「まずは、そこを喜んでください」

 農民が持ち込んだ米、野菜、卵、親鳥、魚、薪。

 それらに適正な値をつけ、大友商会が百万文以上を支払った。

「百万文分を仕入れたということは、その銭が農民へ渡ったということです。

 その銭で、農民の借金を百万文分返せます」

 料理の味に多少のばらつきがあっても、市の本来の目的は果たしている。

 農民の作物を銭へ換え、その銭で借金の証文を消す。

「味が安定すれば、客も増えます。計算上では、一つの地域で毎週四十万文から五十万文、

 うまくいけば四十五万文ほどの利益が出るようになるでしょう」

「では、やはり利益を上げることを急ぐべきでは?」

「違います」

 三郎は首を横に振った。

「今見るべきなのは、利益ではありません。仕入れが安定しているかです」

 農民から毎週、同じくらいの量を買えるか。

 市へ持ち込む品が増えているか。

 農民が大友商会なら買ってくれると信じ始めているか。

 そこが整えば、味や利益は後からついてくる。

「今週、さらに四つの地域で市を立ち上げます。これで八つです」

「それ以降は、どうされますか」

「残りは、大友商会だけで立ち上げてください」

 座敷の空気が固まった。

「三郎様方は、手伝ってくださらないのでございますか」

「今ある八つの市については、まだ手伝いますよ。味をそろえたり、人の動きを直したり、

 寺社市への道筋を作ったりします。ただ、新しい市の立ち上げは、大友商会でやってください」

「そんなことを申されましても、見ているだけでも目が回るほど忙しいのです」

「でしたら、八郎商会が全部やりましょうか?」

 三郎が静かに問い返すと、大友家の者たちは黙り込んだ。

「いつまでも八郎商会が関わらなければ何もできないのであれば、八郎商会が

 豊後の市を全部運営する形になります」

 銭も八郎商会が出す。

 品物も八郎商会が用意する。

 帳面も八郎商会が管理し、人も八郎商会が動かす。

「そうなれば、大友家の商いの首根っこを、八郎商会が握ることになりますよ」

「それは……困ります」

「そうでしょう」

 三郎はうなずいた。

「八郎家と大友家は、あくまで対等です。それを見せるためにも、

 大友商会が自分たちの力で市を立ち上げなければなりません」

 多少失敗してもよい。

 百十万文仕入れる予定が、八十万文になってもよい。人が集まらず七十万文しか動かなくても、

 それだけで市が失敗したことにはならない。

「大事なのは、大友商会として立ち上げたという実績です」

 八つの市が動けば、三万五千石のまとまり八つ分、およそ三十万石近くの土地に、

 八郎商会が直接関わったことになる。

「ここからさらに十も二十も八郎商会が作ってしまえば、後になって必ず言われますよ。

 大友商会は、八郎商会がなければ何もできなかったと」

 今は大変でも、自分たちで人を集め、失敗し、直しながら市を作る。

 そうすれば後世には、大友家が自力で豊後を立て直したと言える。

「ここが踏ん張りどころです。人が足りなければ、大友家の力で集めてください。

 集めた者が何も知らないなら、皆さんが育てればええんです」

 三郎は、次の仕事についても触れた。

「風呂釜の立ち上げも始めます」

「風呂釜まで作るのですか」

「はい。市で銭が回り、借金が減れば、次は暮らしを良くする物が必要になります。

 それに風呂釜作りは、冬場に仕事が減る農民の働き口にもなります」

 鉄を扱う者、土台を作る者、薪を運ぶ者、据え付ける者。

 一つの風呂釜を入れるだけでも、多くの仕事が生まれる。

「手の空いた者から、八郎領へ見に来てください。どうやって作り、どの家へ入れ、

 代金をどう回収するかまで教えます」

 立ち上げ資金は、大友商会のために用意された銭から出せる。

 足りなければ、交易で上がった利益を回せばよい。

「これは大友家の一部で行う慈善事業ではありません。市も風呂釜も、利益を生み、

 その利益で次の仕事と借金返済を進めるための商いです」

 三郎は集まった者たちを見渡した。

「自分たちで回すのだという気持ちを、強く持ってください。大友商会として

 誇りを持ってやれば、必ず回るようになります」

 大友家の者たちは、しばらく黙っていた。

 やがて一人の家臣が、ゆっくり頭を下げた。

「分かりました。次の市からは、我らが中心となって立ち上げます」

「失敗しても、逃げずに直します」

「八郎商会に豊後の商いを任せきりにはいたしません」

 次々に声が上がる。

 三郎は、ようやく満足そうにうなずいた。

「それでええんです。失敗したら帳面を見て、皆で直しましょう」

 八郎商会が作るのは、市そのものだけではない。

 自ら市を作り、自ら銭を回し、自ら領民の借金を減らせる家を育てる。

 豊後の立て直しは、八郎商会の仕事から、少しずつ大友商会自身の仕事へと移ろうとしていた。

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