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1535年4月2週目。大友商会の農民の借金利下げ交渉に怒る商人www。話をまとめて市が動き出す。

「利を下げてほしいだと!」

 商人たちの怒声が、座敷の中に響いた。

「危ない農民に銭を貸しておるから、三割五分や五割の利を取っておるのじゃ。

 それを大友商会ができるから下げろとは、あまりにも勝手ではないか!」

 三郎は怒鳴り返さず、商人たちが静まるのを待ってから口を開いた。

「もちろん、無理に下げろとは言いません」

「では、今のままでよいのだな」

「ただし、利の高い証文を多く持っておられる商人様は、今後、大友商会との取引の

 優先順位が下がります」

 商人たちの顔色が変わった。

「それは脅しではないか!」

「脅しでもあります」

 三郎があっさり認めると、大友の家臣たちまで目を丸くした。

「ですが、商いとして当たり前の話でもあります。農民の借金を減らそうとしている大友商会が、

 五割の利を取り続ける商人を、わざわざ優先して儲けさせる理由はありませんから」

「大友商会など、まだ店の一つもまともに開いておらんではないか」

「今は信用がないと思われても仕方ありません。ただ、大友商会は八郎商会とは違います。

 八郎商会が何年もかけて作った、利益の出る商いを最初から使わせてもらえるんです」

 魚のつみれ、親子丼、安く仕入れられる鮪の身、紙、布、鍋や農具。

 八郎領ですでに売れると分かっている品を、そのまま大友領へ持ち込むことができる。

「さらに大友家は、十万貫、一億文を用意しております。市の立ち上げだけやなく、

 道や売り場、品物を保管する場所の整備にも使います。もう銭は用意されている。

 一億文が実際に動く話なんです」

 商人たちは互いに顔を見合わせた。

 一億文の取引から外されるとなれば、無視できる話ではない。

「ですから、まず三日か四日だけ、市をやらせてください。何も変わらんと思うておられるなら、

 なおさら見ていただきたい」

「三日や四日で、百万文も借金が減るわけがない」

「三日四日なら、一週間分の百万文までは届かんかもしれません。ですが、

 三十万文、四十万文でも減れば、十分に違いは分かるでしょう」

 先ほどまで怒鳴っていた商人の一人が、しばらく考え込んだ。

「分かった。五割の利を取っておる証文については、ひとまず三割五分まで下げよう」

「ありがとうございます」

「ただし、二割五分まで下げろというのは待ってくれ。本当に市が回るのかを見てからじゃ」

「それで構いません。八郎領でも、最初から皆が二割五分まで下げたわけではありませんから」

 三郎は集められた証文を指した。

「借金の返済は、利の高いものから先に行います。つまり、高い利の証文ばかり持っている方ほど、

 早く元本を返されて、その後の利を取れなくなるということです」

「それでは、利を下げた方が長く付き合えるということか」

「そういうことです。今すぐ決めなくても構いません。市の様子を見てから、改めて考えてください」

 続いて三郎は、座敷の隅で小さくなっている農民たちへ向き直った。

「皆さんも、こちらの言うとおりに動いてください。米、野菜、卵、親鳥、魚、作れる物は

 何でも大友商会へ持ってきてもらいます」

「本当に買っていただけるのでしょうか」

「適正な値をつけて買います」

 農民に銭がない最大の理由は、物を持っていても、それを銭に換える場所がないことだった。

 米や野菜を作っても、買い叩かれる。卵や魚は、遠くへ運ぶ前に傷んでしまう。

 その換金を、大友商会が仕入れという形で引き受ける。

「ただし、最初の十週から十二週ほどは、受け取った銭を借金の返済へ回してもらいます。

 元本が減れば、払う利も減りますから」

「今日の話だけでも、五割の利が三割五分になるのでしょう?」

「そうです」

「それだけでも、全然違います」

 農民の一人が、涙ぐみながら頭を下げた。

「これまで、利を下げてもらえることなど、一度もありませんでした。元本を返しても返しても、

 利で元に戻ってしまって……。これなら、少しは前を向いて働けます」

「では、お願いします。一緒に借金を減らしていきましょう」

 三郎はさらに、次の仕組みについても説明した。

「借金が少しずつ減ってきたら、寺や神社でも市を開きます」

「城下の市とは違うのですか」

「寺社の市では、品物を一割から三割ほど高くします。その代わり、農民の家の近くで開きますし、

 米でも払えるようにします」

 利益は、大友商会、商品を出した商人、場所を貸す寺社で分ける。

 寺や神社の取り分は、建物や道の修繕に使ってもらう。農民は遠くまで歩かずに品物を買え、

 商人は新しい客を得られる。

「それは、悪くない話ですな」

 商人の一人が、初めて前向きな声を出した。

「寺社への寄進にもなり、米も集められる。場所代も三つに分けるなら、こちらにも利がある」

「まだ皆さんは、米払いにした時に農民がどれほど買うか分かっておられません」

 三郎は笑った。

「銭がない者でも、米なら持っています。その米で鍋や布、紙や食べ物を買えるようになれば、

 市の動きは一気に変わります。ただ、この仕組みが根づくには少し時間がかかります」

「それも含めて、まず見ろということか」

「はい。見たうえで、利を下げるか、大友商会とどれほど付き合うかを決めてください」

 商人たちはしばらく小声で話し合った。

 やがて代表の一人が、大きく息を吐いた。

「分かった。そこまで言うなら、騙されたと思ってやってみよう」

「ありがとうございます」

「ただし、本当に三日や四日で借金が減るのか、帳面はきっちり見せてもらうぞ」

「もちろんです。そのための帳面合わせですから」

 こうして大友領で最初の市は、商人にも農民にも疑われたまま、ひとまず動き出すことになった。

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