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1535年4月2週目。大友家を交えての帳面合わせ。規模がでかくて驚く。

四月も二週目に入った。

 大友の一行が八郎の領地に滞在するのも、あとわずかである。

 家中の立て直しや姫君たちの顔合わせについて、おおよその話はまとまった。

 大友の当主としては、そろそろ領地へ戻らなければならない。

 しかし、帰る前にどうしても見ておきたいものがあった。

「今週の帳面合わせだけは見て帰りたいのう」

 大友の当主は、朝から妙に落ち着かない様子であった。

 八郎の屋敷に滞在している姫君たちから、毎週行われる帳面合わせの話を何度も

 聞かされていたからである。

 今週、どれだけ市が儲かったのか。

 その銭を、どの土地の借金返済へ回すのか。

 それによって、どれだけの農民や武士が救われるのか。

 そうしたことを、八郎は当主や家臣だけでなく、領民たちにも分かるように話すという。

「姫たちが、あれほど面白いと言うておったからな。どれほどのものか、見ておかねば帰れぬ」

 やがて広間に、八郎と兄たち、各家の当主、姫君、そして帳面を持った者たちが集まった。

 八郎はいつものように座ると、特に緊張した様子もなく口を開いた。

「それでは、四月二週目の帳面合わせを始めます。今週も、大きく仕組みが変わったところは

 ありません」

 帳面を確認した者が、数字を読み上げる。

「今週の利益は、二千五百一万文でございます」

「二千五百一万文……」

 大友の当主は、思わず聞き返した。

 しかし、八郎をはじめ、周囲の者たちはそれほど驚いていない。多少の増減はあるものの、

 もはや八郎の家では、毎週この規模の銭が動くのが当たり前になっていた。

「今週は島津分家の御当主にも来ていただいておりますので、まずは島津分家の借金から片づけます」

 八郎がそう言うと、島津分家の当主が姿勢を正した。

「島津分家につきましては、先週までに五百万文を返済しております。城に残っている借金が

 五百五十万文ですので、今週で完済とします」

 一瞬、広間が静かになった。

「つまり、本日をもって島津分家の城、農民、武士が抱えていた借金は、すべてなくなりました」

 その言葉が理解されると、島津分家の当主の実久は勢いよく頭を下げた。

「ありがとうございます!」

 畳に額がつきそうなほど、深い礼であった。

「八郎様々じゃ。まさか、これほど早く家中の借金が消えるとは思っておりませんでした」

「市がきちんと利益を出してくれたおかげや」

「いやいや、八郎殿がおられなければ、市そのものが立っておりませぬ。娘たちのことも、

 どうかよろしくお願いいたします」

 当主がそう頼み込むと、八郎は隣に座る兄たちを見た。

「一郎兄様も、四郎兄様も、楽しそうにしておりますから、たぶん大丈夫ですよ」

 突然話を振られた一郎と四郎は、そろって苦笑いを浮かべた。

 それを見逃さなかった姫君たちが、すぐさま身を乗り出す。

「どうして苦笑いなさるのですか」

「私どもと過ごすのが楽しくないとでも?」

「いや、そういうわけでは……」

「では、どういうわけでございますか」

 二人の兄は姫君たちに囲まれ、八郎へ助けを求めるような視線を向けた。

 しかし八郎は、何も見なかったことにして帳面へ目を戻した。

「まあ、兄様方については、このような感じで仲良くやっております」

「仲良く見えるのは八郎だけではないか」

 大友の当主の言葉に、広間から笑いが起こった。

 続いて、肥前に作られた市の状況が報告された。

「肥前の市につきましても、利益は少しずつ増えております。まだ立ち上げたばかりの

 土地もありますが、全体としては順調です」

 市の利益からは、農民たちの借金返済へ、毎週およそ百万文ずつ回されている。

「早く市を始めた土地については、あと一月ほどで農民の借金がすべて消える見込みです」

「待て待て」

 大友の当主が、たまらず口を挟んだ。

「話の流れが大きすぎて、ついていけぬわ。毎週二千万文以上儲けたと思えば、

 次は城一つの借金が消え、その次は一月後に農民の借金までなくなると言う。

 そなたたちにとっては、これが普通なのか」

「まだ途中ですけどね」

 八郎は平然と答えた。

「大友家でも、600の市を最初に入れて、それをきちんと市や商いに回せば、

 同じくらいの速さで農民の借金は消していけます」

「600の市を入れる話を、米一俵を買うように言うでない」

「市を作り、商品を運び、農民の皆さんが稼げるようにします。そこで出た利益を、

 また借金返済や次の市へ回すんです」

 八郎によれば、農民は銭を持っていないから物を買わないのではない。

 借金を抱え、明日の暮らしが見えないから、銭を使えないのだという。

 借金が減り、市へ作物を持ち込めば現物でも品物を買えるようになれば、

 農民たちも少しずつ生活用品を求めるようになる。

「布や鍋を買う者が増え、その次には、もっとよい着物や農具を欲しがるようになります」

 八郎は少し笑った。

「農民の皆さんが、新しい布団を普通に買える日も、そんなに遠くありませんよ」

「布団か」

「はい。今は地面に藁を敷いて寝ている者もおりますが、一年あれば必ず変わります。

 借金がなくなって、収入が増えれば、次に欲しくなるのは暮らしを楽にする物ですから」

 大友の当主は、しばらく何も言わなかった。

 城を大きくする。

 兵を増やす。

 敵の土地を奪う。

 それが家を強くすることだと思ってきた。

 しかし八郎は、農民が布団を買えることこそ、領地が強くなった証しだと言っている。

「それは、期待できるな」

 やがて大友の当主は、大きくうなずいた。

「ますます八郎の家とは、深く縁を結んでおきたくなったわ」

「縁談を増やす話は、姫君たちとも相談してくださいね」

「そこをすぐ逃げるでない」

 再び広間に笑いが広がった。

「まあ、縁談も大友家の立て直しも、順番にやっていきましょう」

 八郎はそう言って、次の帳面を開いた。

 島津分家の借金が消え、肥前の農民たちの先が見え始め、次は大友の領地が変わろうとしている。

 大友の当主は、姫君たちがなぜ帳面合わせを楽しみにしていたのか、ようやく理解した。

 ここでは毎週、帳面の数字が減るたびに、誰かの重荷が消えていくのであった。

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