表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
565/677

1535年3月3週目。大友からの使者。いくつかの論点と日程調整。4月1週目と回答する。

三月三週目。

肥前攻めの戦費六千九百万文を帳面に載せ、旧相良領と肥後南部の城が抱えていた借金まで返した翌日。

 本拠の館へ、一団の騎馬武者が到着した。

「豊後、大友家より使者にございます!」

 門前の声を聞き、八郎は父母、商人衆、そして館に滞在している姫君たちとともに大広間へ入った。

 使者の隣には、大友家から遊学に来ていた姫君も座っている。

「父上より、八郎様への返書を預かっております」

「ありがとうございます。お願いします」

 使者が差し出した書状を受け取り、八郎は封を切った。

 書状には、いくつかの提案が記されていた。

「まず、六月までとなっている停戦について」

 帳面係が読み上げる。

「停戦期間をさらに延長するのか。あるいは、より踏み込んで正式な同盟を結ぶのか。

 その話し合いを行いたい、とのことです」

 広間の者たちが静かに頷く。

「また、同盟を結ぶ場合には、大友家より姫君を二名ほど正式に迎えてほしい。

 正室、側室の別は問わない、と」

 その途端、姫君たちの間に小さなざわめきが起きた。

 夏姫が八郎の隣で苦笑する。

「また側室候補が増えそうですね」

 龍造寺の姫君も口元を押さえた。

「本当に九州中の姫君が集まってしまいそうです」

「まだ決まってませんよ」

 八郎は額を押さえる。

「五歳児に、次から次へと婚姻の話を持って来ないでほしいんですけどね」

「八郎様が五歳児らしくないからでは?」

「そこは否定しにくいですね」

 広間に笑いが広がったところで、帳面係が続きを読む。

「次に、大友領と八郎領の交易を、さらに活発にしたい」

「そして大友家より視察団を送り、一週間ほど八郎領を見せていただきたい」

「市、寺社市、港、炊き出し、兵の訓練などを視察し、領地経営について質問する

 機会も設けてほしい、とのことです」

 商人衆が顔を見合わせた。

「そこまで見せるのですか」

「市だけでなく、兵の訓練まで……」

 だが書状は、それで終わらない。

「最後に、大内家との関係について」

「大友と八郎家が同盟を結ぶのであれば、九州北部に勢力を持つ大内家の存在を避けて

 通ることはできない」

「今後、九州をどのような形にするのかも含め、直接話し合いたい」

「ついては、八郎様の都合のよい日を知らせてほしい、とのことでございます」

 読み終わると、広間の空気が引き締まった。

 八郎はしばらく地図を眺めた後、口を開く。

「兄様方が、まだ肥前に残っています」

「十四の束のうち、最後の市を立ち上げている最中ですから、兄様方が戻ってからにしましょう」

 父が頷く。

「四月一週目くらいか」

「はい。その頃なら肥前の状況も、もう少し固まっているでしょう」

 大友の姫君が頭を下げる。

「では、父には四月一週目で調整するよう伝えます」

「お願いします」

 八郎は続けた。

「視察も受け入れます」

「館も町も、市も寺社市も、施しの様子も見てもらいましょう」

「兵の訓練も見ていただいて構いません」

「都合が合えば、帳面合わせにも出てもらいます」

「帳面までですか?」

 商人の一人が思わず聞き返す。

「八郎様、どこまで懐を見せるおつもりです?」

 八郎は不思議そうに首を傾げた。

「懐を知らない相手と同盟を結ぶ方が、怖くないですか?」

「こちらが何を持ち、何に困り、どれほど借金を抱えているのか」

「それを見てもらった上で、それでも一緒にやれると思うなら同盟を結べばいいんです」

 夏姫が感心したように八郎を見る。

「本当に思い切りがよいですね」

「いやいや、実際は借金だらけですよ」

 八郎は地図の肥前を指した。

「肥前には、まだ何億文もの借金があります」

「市も立ち上がっただけで、安定しているわけではありません」

「でも、それを隠して同盟を結んだら、後で知られた時に信用を失います」

「八郎商会が何を考えて、どう返していくつもりなのか。最初から全部見てもらった方が早いです」

 大友の姫君は静かに微笑んだ。

「父上は、そういうところを高く買うと思います」

「ただし」

 八郎は筑前、筑後へ視線を移した。

「大内とすぐに戦うことはできません」

「肥前の立て直しがありますし、今回の戦費も大きかったです」

「少なくとも数か月は、市と交易を回しながら様子を見たい」

「大内が九州へどれほど兵を送る気なのか」

「大友が筑前と筑後をどうしたいのか」

「そこを確かめずに、軍を動かすことはできません」

「大内へ探りを入れながら、ということやな」

 父の言葉に八郎が頷く。

「はい。争わずに済むなら、それも一つです」

「ですが大友と同盟を結び、大内がこちらを邪魔するなら、その時は九州から

 退いてもらう話になるかもしれません」

 使者は八郎の言葉を一つ一つ心に留め、深く頭を下げた。

「すべて、主へ申し伝えます」

「お願いします」

 八郎は穏やかに答えた。

「同盟を結ぶなら、互いに何を隠しているか探り合う関係ではなく、一緒に先の九州を

 考えられる関係にしたいです」

 四月一週目。

 その会談は、停戦を延ばすだけの場ではない。

 婚姻、交易、そして大内家との関係。

 九州の次の形を決める話し合いになろうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ