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1535年3月1週目。仮帳面合わせ 収入は2200万文超えだが戦費の件もあり慎重。

 三月一週目。

 佐賀城の一室には、帳面係たちが朝から慌ただしく出入りしていた。

 早馬が次々と到着し、各地の帳面が運び込まれてくる。

「薩摩より到着!」

「日向、集計終わりました!」

「大隅の商家衆より報告です!」

 帳面が積み重なる中、八郎は筆を持ちながら苦笑した。

「今日は仮帳面合わせです。」

「本決算ではありません。」

「まだ戦費が全部まとまってませんからね。」

 帳面係たちも頷く。

「まずは大まかな数字だけ見ましょう。」

 八郎は一枚ずつ帳面をめくっていく。

「薩摩……ほぼ予定通り。」

「大隅……変化なし。」

「日向も大きな動きはなし。」

「肥後も戦後の混乱はあるけど、概ね想定内。」

 肥前だけは別だった。

 市の立ち上げ、湯釜の設置、寺社市の整備。

 数字が毎週のように変わっている。

 それでも全体を足し合わせると、八郎は静かに筆を置いた。

「仮集計ですが……。」

「今週の利益は――二千二百十二万文です。」

 一瞬静まり返り、

「おお……。」

 帳面係たちから感嘆の声が漏れた。

「戦の最中やったのに。」

「ようここまで回りましたな。」

 八郎は首を横に振る。

「いや。」

「まだ安心はできません。」

「この二千二百十二万文を、どこの借金返済へ回すかは、本拠へ戻ってから決めます。」

「まだ戦費が全部出てません。」

「そこを見誤ると危ない。」

 一郎も腕を組んで頷く。

「確かにな。」

「勝ったからいうて、浮かれたらあかん。」

「そうです。」

 八郎は地図を広げた。

「それと。」

「兵も少し戻しましょう。」

「島津本家、分家、それから八郎軍。」

「合わせて五千人ほど帰しても大丈夫だと思います。」

 三郎が尋ねる。

「もう大丈夫か?」

「ええ。」

「十四の玉のうち八つは、一応立ち上がりました。」

「残りも利息を下げるところから始まっています。」

「まだ完全ではないですけど、治安維持だけなら十分回せます。」

「なら、帰してええな。」

「兵も家族に顔見せたい頃や。」

 八郎は帳面へ数字を書き込んだ。

「現在。」

「八郎商会の手持ちは。」

「前回、一億二千九百三万文。」

「そこへ今回の二千二百十二万文を加えて。」

「一億五千百十五万文になります。」

 帳面係が復唱する。

「一億五千百十五万文。」

「……とんでもない額ですな。」

 しかし八郎は浮かない顔だった。

「数字だけ見ればそうです。」

「でも。」

「これはまだ仮です。」

「今回の戦は、今までで一番大きく動きました。」

「兵糧。」

「矢。」

「槍。」

「馬。」

「負傷者の治療。」

「遺族への年金。」

「全部合わせた戦費が、まだ出ていません。」

「それを見るまでは、この金は使った気になれません。」

 一同も真剣な表情になる。

「なるほど……。」

「戦は勝った。」

「でも帳面はまだ終わってへん。」

「そういうことです。」

 八郎は深く息を吐いた。

「だから私は。」

「まだ油断ならないと思っています。」

 少し間を置き、地図の肥前へ筆を置く。

「それから。」

「肥前の借金。」

「これは、一年仕事やと思っています。」

 皆が頷く。

「十四の玉。」

「全部の農民。」

「全部の武士。」

「全部の城。」

「借金を消して、市を立ち上げて、湯釜を設置して。」

「そこまで全部終わるには、一年くらいかかるでしょう。」

 五郎が苦笑した。

「よう一年で終わる言うな。」

「普通やったら十年仕事や。」

「まあ、それはそうですね。」

 八郎も笑う。

「でも一年で終わらせたい。」

「次がありますから。」

 さらに帳面をめくる。

「あとは。」

「四月から始まる芋ですね。」

「芋焼酎用です。」

「肥前五十万石分。」

「どれだけ苗が必要か。」

「どれだけ銭がかかるか。」

「それも今のうちに計算しないといけません。」

 二郎が腕を組む。

「苗代だけでも相当やな。」

「ええ。」

「でも最初に投資してしまえば、来年以降ずっと利益になります。」

「芋は食える。」

「焼酎になる。」

「保存も利く。」

「売れる。」

「一石四鳥くらいあります。」

 一郎が笑う。

「結局また先に金使うんやな。」

「そうです。」

「だから手持ちが一億五千万あっても、全然余裕なんかありません。」

「全部使い道があります。」

 帳面係たちは顔を見合わせた。

「金が増えれば楽になると思ってました。」

「逆です。」

 八郎は笑う。

「金が増えるほど、やりたいことが増えるんです。」

「だから忙しい。」

「なるほど……。」

 三郎が湯飲みを持ち上げた。

「まあ。」

「今日は仮帳面や。」

「本番は帰ってからやな。」

「ええ。」

 八郎も茶を口に運ぶ。

「帰ってから戦費を全部締めて。」

「そこから本当の勝負です。」

「肥前を、本当に豊かな国へ変える帳面仕事が始まります。」

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