表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
548/649

1535年2月3週目。島津・八郎軍の兵を半分帰し、町を育てる。八郎の兄様たちはここからが仕事。

 二月三週目。

 有馬・松浦の降伏が決まり、肥前一帯はようやく大きな戦が終わった。

 佐賀城の広間には、島津本家・分家の将、八郎軍の将、兄弟衆が集まり、

 今後の方針について最後の軍議が開かれていた。

 八郎は地図を広げると、ゆっくり口を開く。

「皆さん、本当にお疲れさまでした。」

「まず、一番大事なことを決めます。」

 全員が耳を傾ける。

「島津本家、分家は、それぞれ兵五百ずつを肥前に残してください。」

「残りは薩摩へ帰国していただいて構いません。」

 忠良が頷く。

「心得た。」

「長く他国へ兵を置くのも本国の負担になるからな。」

「はい。」

「それと八郎軍も半数は帰します。」

 兄弟たちが少し驚く。

「帰すんか?」

「はい。」

「戦は終わりました。」

「ここからは町づくりです。」

「兵二万も必要ありません。」

 帳面を見ながら数字を書き込んでいく。

「島津勢が約千。」

「八郎軍がおよそ九千。」

「合わせて一万人ほどを肥前へ残します。」

「残り一万一千ほどは順次帰国してください。」

「治安維持と市の立ち上げには、それだけおれば十分です。」

 六郎が感心する。

「よう考えとるなあ。」

 八郎は笑った。

「兵を遊ばせるのが一番もったいないですから。」

「帰る者は家族にも会いたいでしょうし。」

「では帰る前に一日だけ宴を開きましょう。」

「戦勝祝いです。」

 島津の老将も笑う。

「それくらいはせんとな。」

「皆よう頑張った。」

 話はそこで終わらなかった。

 八郎は机の横に積まれた図面を広げる。

「さて、本題です。」

「今回、湯釜を六百個持ってきています。」

「これを一気に三万五千石の束二つへ配備します。」

「すると市も飯屋も、一気に立ち上げられます。」

 一郎が頷く。

「なるほど。」

「だから最初に釜を運ばせたんか。」

「そうです。」

「そして早馬を薩摩と肥後へ飛ばします。」

「新しい釜をさらに作ってもらいます。」

「それを持ってきてもらえば、三百個ほど追加できます。」

「そうしたら次の二束。」

「さらに次。」

「という具合に順番に立ち上げていきます。」

 三郎が笑う。

「結局、飯屋が一番最初なんやな。」

「はい。」

「飯屋ができれば人が集まります。」

「人が集まれば商売になります。」

「商売になれば借金が消えます。」

「もう流れは一緒です。」

 龍造寺家の旧家臣たちも真剣に聞いていた。

「それと。」

「残党の方々にも仕事を作ります。」

「警備。」

「道路整備。」

「市場の管理。」

「荷運び。」

「できることは山ほどあります。」

「仕事があるなら落ち着きますから。」

 龍造寺の重臣が静かに頭を下げる。

「ありがたいことです。」

「さらに四月から九月。」

「鳥獣狩りを依頼します。」

「猪や鹿を減らしてもらいます。」

「その分は報酬を払います。」

「借金がある人は借金で相殺しても構いません。」

「仕事を作り。」

「銭を回し。」

「生活を安定させる。」

「それが先です。」

 家兼も腕を組みながら感心していた。

「兵を解散させるだけやない。」

「仕事まで用意しとるのか。」

「兵は暇になると悪さをしますから。」

「働いてもらいます。」

 広間に笑いが起こる。

 八郎は再び地図を指した。

「六月には大友との停戦が終わります。」

「どうなるかは分かりません。」

「だから準備だけは怠りません。」

「兵の訓練も続けます。」

「町づくりも続けます。」

「どちらも止めません。」

 兄弟たちが真剣に頷いた。

 八郎は最後に、一郎から七郎を見渡した。

「兄様方。」

「前にもお願いしましたが。」

「特に今週は、有馬・松浦に接していない佐賀寄りの二束。」

「ここへ力を集中してください。」

「ここが一番最初の見本になります。」

 二郎が尋ねる。

「見本?」

「はい。」

「一か所成功すると。」

「隣の村が必ず見に来ます。」

「借金が消えた。」

「市場ができた。」

「飯屋ができた。」

「そういう話は、人づてに一番早く広がります。」

「だから。」

「無理に宣伝しなくても。」

「『見に来ませんか』で十分なんです。」

 三郎が笑う。

「なるほど。」

「自慢させるわけやな。」

「そうです。」

「『風呂もできました。』

『市場もあります。』

『借金も消えました。』」

「そう言って隣村を招けばいい。」

「見た人が帰って、自分の村でもやりたいと言い出します。」

 家兼が小さく笑った。

「戦で取ったというより。」

「見せて広げるんやな。」

「はい。」

「見せることが一番強いです。」

「人は自分の目で見たものを信じますから。」

 広間にいた全員が深く頷いた。

 刀で領地を取る時代は終わりつつあった。

 これから肥前を動かすのは、兵ではない。

 湯気の立つ鍋と、賑わう市場と、人々の笑顔だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ