1535年2月2週目。側室候補、立候補制?島津本家の長女夏姫が八郎の側室候補に。そのあとに速攻各家から挙手が相次ぐWWW
兄弟たちとの役割分担の話が終わると、姫君たちが揃って広間へ入ってきた。
龍造寺の姫君たちも、島津本家・分家の姫君たちも、大友の姫君たちも、和やかな空気である。
その中でも、島津本家の長女・夏姫は、いつものように笑顔で八郎へ近づいた。
「八郎様。」
「はい?」
ひょい、と軽々抱き上げられる。
「わっ!」
「もう五歳なんですから、自分で歩けますって。」
「ふふっ。」
「まだ小さいですもの。」
そう言って抱えたまま少し歩き、ようやく畳へ下ろす。
「ありがとうございます。」
服を整えた八郎を見ながら、夏姫が少し真面目な顔になった。
「八郎様。」
「どうして私が、八郎様と一緒になりたいと思うか、お分かりですか?」
八郎は首を傾げる。
「えっと……。」
「家のため、とかですか?」
「もちろん、それもあります。」
夏姫は素直に頷く。
「ですが、それだけではありません。」
「私は八郎様の隣にいたら、面白いものをたくさん見られると思うんです。」
「市場ができ。」
「借金が消え。」
「新しい料理が生まれ。」
「新しい町ができる。」
「そんな毎日を見られる人なんて、そうそういません。」
「一緒にいて、とても楽しそうなんです。」
八郎は少し照れくさそうに笑った。
「ありがとうございます。」
「それに私は春姫より年上です。」
「本来なら、一郎様のお相手になるのかもしれません。」
「でも、一郎様にはもう千代姫様がおられます。」
「でしたら私は側室という形で八郎様のお世話をして。」
「八郎様が大きくなられたら、その時に子供を授かれれば十分です。」
「まずは、一緒に過ごしてみませんか?」
兄弟たちが「おお……」と感心した顔になる。
八郎は困ったように頭を掻いた。
「いやでも……。」
「僕、五歳ですよ?」
「側室って言われても。」
「子作りできませんけど、大丈夫ですか?」
広間が一瞬静まり返り、
「ぶっ!」
「ははははは!」
一斉に笑いが起こる。
夏姫も笑いながら首を振った。
「誰も今すぐとは言っておりません。」
「今ならお布団を並べて寝ても、誰も文句は言いません。」
「四郎様が鎧武者に囲まれたのは、大人だったからです。」
「八郎様はまだ五歳。」
「鎧武者に囲まれるまで、まだ時間があります。」
四郎が苦笑いする。
「なんで俺の黒歴史が基準になっとるんや。」
また笑いが起きた。
八郎も肩をすくめる。
「でも急に嫁ができたって家へ帰ったら。」
「父上も母上もびっくりしますよ。」
「だから。」
「まずは母上の試験を受けてもらうところからじゃないですか?」
「家を乱さないか。」
「兄様方のお嫁さんたちと仲良くできるか。」
「そこが大事です。」
夏姫は目を輝かせた。
「では。」
「立候補させていただきます。」
「側室候補第一号ですね。」
「ええ。」
「八郎様を独り占めできます。」
その瞬間だった。
「私も!」
「私も立候補します!」
龍造寺の姫君が手を挙げる。
「私も!」
島津分家の姫君。
「でしたら私も。」
なんと大友の姫君まで手を挙げた。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
八郎は両手を振った。
「なんでそんな立候補制になってるんですか!」
「じゃあ試験です!」
「八郎の良いところ十個挙げてください!」
すると姫君たちは顔を見合わせる。
「十個ですか。」
「頑張ります!」
「覚えます!」
あまりにも前向きな返事に、八郎が苦笑する。
「じゃあ……。」
「まずは側室候補ということで。」
「一緒にご飯を食べたり、一緒に仕事をしたり。」
「五歳児の恋愛ごっこだと思ってください。」
広間はまた笑いに包まれた。
「ただ。」
「大友の姫様だけは少し事情が違います。」
「停戦中ですし。」
「外交問題になります。」
「そこだけは頭に入れておいてください。」
大友の姫君は頬を膨らませる。
「でも。」
「もし大友が負けたら。」
「私たちだって敗戦側の姫になります。」
「そういう姫は慈悲もいただけないんですか?」
八郎は頭を抱えた。
「また難しい話になりますねぇ……。」
「だから、とりあえず一緒に動きましょう。」
「ご飯を食べながら。」
「仕事をしながら。」
「僕が好きになる人は。」
「領地経営の話ができる人。」
「流行が分かる人。」
「売れる物が分かる人。」
「市場が分かる人。」
「芋でも農業でも、何か一つ得意がある人。」
「全部できる必要はありません。」
「でも。」
「私はこれなら負けません、というものを持っていてほしい。」
「三つ指ついて家で待っています、という姫様とは。」
「僕、多分仲良くなれません。」
姫君たちは真剣に頷く。
「だから。」
「普段から僕の横にいる必要もないです。」
「いろんな町を見て。」
「市場を見て。」
「気付いたことを僕に教えてください。」
「晩ご飯を食べながら話して。」
「夜は布団を並べて寝る。」
「それくらいで十分です。」
「鎧武者に囲まれるまでは、僕も安心ですし。」
また笑い声。
八郎は兄たちを見た。
「兄様方も。」
「これを機に側室候補を探してもいいんじゃないですか?」
三郎と五郎が同時に首を振る。
「いやぁ……。」
「そんな軽い話やない。」
「俺らは責任が伴うからな。」
八郎がすぐ突っ込む。
「そんなことないですよ。」
「一郎兄様。」
「二郎兄様。」
「四郎兄様。」
「そうですよね?」
三人が顔を見合わせる。
すると千代姫が、にこっと笑って言った。
「え?」
「私たちって、お仕事で結婚したんですか?」
一郎が慌てる。
「いや!」
「そういう意味やない!」
春姫も腕を組む。
「家の話になるとなぁ、ですか?」
綾姫まで笑顔で続ける。
「元は庄屋の長男坊ですよね?」
「急にお殿様みたいなこと言ってません?」
三兄弟が冷や汗を流す。
八郎はにやりと笑った。
「どうです?」
「一回釣った魚には餌をやらない考えですか?」
「それとも。」
「女を知ったから、次も行こうかなって?」
「違う違う違う!」
三郎が慌てて手を振る。
「俺はそんなこと思っとらん!」
「でも八郎が!」
「五歳児のせいにするんですか?」
千代姫の鋭い一言に、
姫君たちが一斉に笑い、兄弟たちは揃って頭を抱えた。
その様子を見ながら八郎は小さく呟く。
「……やっぱり。」
「女性の方が強いですね。」
その一言が決め手となり、広間はこの日一番の笑い声に包まれた。




